6-3 密航者

 昨日の予定通りベスタテイルに入り、内殻コロニーを目指した。洞窟内の重力反応は、プルコバの洞窟内に酷似していた。


「中性子核もあるな」


 コロニーがあるのは、間違いなかった。ただ、このコロニーそのものが、大きな中性子バリアに被われており、ここに入るのは不可能かと思われた。ところが、最近出来たような次元門(ゲート)があり、デコイを飛ばしてみると、通り抜けることができる。二人は、調子よすぎる展開に疑問も抱かないで、ホイホイこの門をくぐった。


「さっきのゲートは、まるで新品だったな」


「ヴィナスか、バースの技術だろうが、すごいな」


 コロニー内は、真空で、バイオマス環境はない。しかし中心に天然のエーテルフィールドが立っている。金星の浮島に見られる天然のバリヤーだ。


「バダの中性子バリヤーで通り抜けられるぞ」

 化学分析席で、サザンがキーンに話す。金星人のキーンにとっては、見慣れた風景だ。


「さっきのゲートといい、ここのエーテルフィールドと言い、金星の水の遺跡の環境と、そっくりだな。もしかしたら金星と繋がってんじゃないか」


「だったら大発見だ、おれたち金持ちになれるぞ」


「おう」


 エーテルフィールドをくぐると、そこには、空気があった。たぶん魔法時代の空気だ。そこらじゅうが光って見えた。




「もういいよね」

「お父さん、こういうの見ると、絶対引き返さないもんね」


 どこかで聞いたような声が聞こえる。サザンは焦って入口の方を見た。レミーとウナが、手をつないで、「うわー」と、光る空気の映像が映っているオープンパネルを見ていた。


「おまえら、いつのまに」


 今のサザンの弱点は、この二人の娘たちだ。それに、そんなに危険性を回りから聞かされていなかったこともあり、「やってくれたな」と思っただけだった。


「キーンすまん」


「子連れで仕事かーいいけど」


「キーンおじさん」


「おじさん言うな。追い出すぞ、ガキ」


「いいのかなー パリシャねえちゃんの伝言持ってきたんだ」


「なんだって」


「みたい?」


 ウナが、携帯BOOKをふるふるさせている。


「そんなもん、見たいに決まってるだろ。今、停泊させるから待ってろ」


 キーンには、抗いがたい話だ。サザンは、次に、姉妹が、何を要求するか見当がついた。キーンはバダを停泊させると、姉妹に駆け寄った。


 BOOKに映っていたパリシャは、ちょっとだけニコッと笑ったとおもったら、真剣な顔になって、カメラに向かって訴えた。録画なのだが、キーンには、もう、LIVE映像だった。


「キーン、なにか私に隠していることがあるでしょう。正直におっしゃい。そうしたら許してあげる」

 そう言って、ぷつっと切れた。


 おれから見たら、たぶんウナがシナリオを書いてパリシャに、演技させたものだ。パリシャが面白がっているのが、わかる。しかし、キーンにはそう映らなかった。足はがくがく震え、娘たちの前でひざま付いた。


「パリシャは、何怒ってんだ」


「わかんない」


「後で一緒に会いに行く?」


「頼む、頼むよ」


 おいおい、脅しすぎだろ


「だったら、お願い聞いて」

「私たち、お父さんと探検したいの。いいでしょ」


 うま過ぎる頼み方だ。キーンがOKなら、サザンは嫌だと言いきれない。


「よし、行っていい」

 キーンの奴、即答だ


 防臭マスクはいろいろあっていっぱいあるし、一度、二人を火星観光に連れて行ったときに、パイロットスーツも新調している。用意は万端だった。



 今まで、順調にここまで来れたこともあり、サザンは、二人の同行を許した。


「二人ともいいか、父さんがバダに帰れって言ったら、絶対に引き返すんだ。それからウナ、キーンを助けてやれ。もしかしたら、いい切っ掛けかもしれないぞ」


「わかった」


 3人で、ニコニコした。


「隠し事ってキーワードは、良かったぞ」と、頭を撫でて褒めた。

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