6話 レミーとウナ

6-1 久々の仕事

 朝起きると二人の娘が食事の準備をして待っていた。ウナは、最近レミーと仲良くなった。最初はいがみ合っていたが、レミーは、母親から料理を習っていて、この世界では、先輩だ。ウナの嗅覚は鋭い、料理の確かな腕に、今では、レミーを姉として認めていた。


「サザン、今日は、私が目玉焼きを焼いたのよ」


「すごいな」


「いつも言うから、お味噌汁作ったけど、これでいい」


 レミーの方は、自信なさげだ。まず、火星に味噌があること自体知らなかった。レミーのおばあちゃんは日本人だが、アメリカ育ちで、母親からは、日本食をあまり習っていなかった。おかげで、レミーは試行錯誤だ。


 最初はどうなるかと思ったが、二人が仲よくなってくれてよかった


「二人とも、今日も、研究所か」


「うん」


「もう、話すことないんだけどね」

 ウナは嫌そうな顔をした。


「そういうな、レミーに付き合ってやれ」


「わかった」


 ウナの方は、本体と意識が切れたので、本当なら、研究所に行っても意味はない。だが、レミーは、ガイア人と人のハーフながら、神官級の能力を持って生まれたので、そうはいかない。実際は、基礎測定を終え、成長を待つしかないのだが、映像アイテムの解釈が違うのではないか、だとか、どうとか言って手放さない。


「帰りに、サムおじさんのところに寄って様子を見てくれ」


 サムは、酒場の親父なのだが、最近ロボットボディの調子が悪い。なのに、レミーとウナの顔を見ると空元気を出す。店の姐さんたちもずいぶん入れ替わった。あんな商売なのに、親父が、がんばって結婚させたからだ。だから、結婚した姐さんたちも良く親父を見に行っている。


「そのうち、私が調整してあげるんだ」

 ウナは、自分の個性を出しだした。


「結晶石の淀みをなくすと長生きするんだって」

 レミーは、サムのためなら、神官修行がしたいと、張り切った。


「父さんは、今日から仕事だ。当分帰ってこないから、サムおじさんの所に泊まって面倒見てもいいぞ」


 二人が、抱きついてきた。レミーは、何か感じているようだが、母親のラミアと祖母の巫女ナオミに「サザンのことはサザンに任せるのよ」と、言われていて何も言わない。ウナには話しているようだが、ウナの意識の母体は、魔法時代のもので、巫女の託宣に従うのが正しいと知っている。二人とも心配はしたが、それ以上は言わず、出かけて行った。



 代わりに、相棒のキーンが、おれを迎えにきた。二人がキーンのために、朝食を用意していたので、食べながらの打ち合わせになった。


「家族か、いいな」


「そうだろ、パリシャにそうしたいと言えよ」


「ああ」


「まだ、怖いのか」


「言うなよ」

 キーンは、相変わらずだった。


「バスーの情報は、本当なんだろうな。あの野郎、余命がないとか言いやがって。あんときは慌てたぞ」


「あと2年ぐらいは行けそうだな。嫁さんのおなか、大きくなってたぞ」


「元気一杯じゃないか」


「ウナが、未来に興味を持ったからだ。サザンのおかげだと言っていた」


「あいつは、16で、止まったままなんだろ」


「そうだが、オマエの娘と意識が切れた後、言いだしただろ、本当に魂を開放できるかもしれないぞ」


「それで、いくらで受けた」


「50万クレジットだ」


「久々だ」


「そうだ、久々だ」

 おれたちは、顔を突き合わせてにんまりした。




 島宇宙の惑星ケレスには、土の遺跡がある。ここは、地下50階でもう何十年も探査が止まっているところだ。巫女ですら、底が見えない奈落の底だと言っている。ところが、魔法時代が崩壊した後も生き残っていたウナは、違うことを言った。


「あそこが、爆心地よ。9代目巫女様が命をかけで押さえてくれなかったら、バースは、次元断層に飲み込まれて跡形もなかったわ。だから、地下50層と51層の間には、断層があるのよ。生身の体で、降りていく方が無謀よ。島宇宙のどこかに断層があるから、宇宙艇で行けば、次の階に行ける。そこにあるリンドウを採ってきて、私を縛ってる光素バリアーにリンドウの光の粉が有効よ。私の光素体の周波数を測定できるかもしれない。サザンに採って来てって言って」


 これだけでは、その、次元断層にある土の遺跡の51層目の入り口は、見つからなかっただろう。50層側は、巫女様が抑えてくれたとして51層側は、次元断層に飲まれたというのが、ほとんどの博士や知識人の見解だ。そんなものが島宇宙にあるのなら、次元のひずみですぐ見つかるはずだ。リンドウの話は別にして、そこまでは、研究されてわかっていた話だった。


 ところが、キーンが、眉唾な噂を拾ってきた。51層以降は、そこに保管されていた次元アイテムが反応して今も存在しているというものだ。それが見つからないのは、惑星の内殻にあるからじゃないか、ということだった。


 バスーの故郷ニレンのコロニーは中をくりぬいたような空間で、重力が弱い。ウーナ草の生えているプルコバにあるコロニーは、重力があり、平地に岩肌のドームという今の人類では、作れないシステムだ。


 ウナのことは、調べたいが、ウーナ草のために、調べに行けない。男がだめなら、女性だけのチームで、と、派遣したが、女たちは、バスーの故郷から離れなくなった。実際ここにを普通に歩けるのは、サザンだけだ。


「プルコバと同じような内殻空間があるはずだ。そこに51階層以降もあるしリンドウもある。たぶんリンドウもウーナ草と同じで危険だ。プルコバを普通に歩けるサザンに頼むしかない」と、バスーが言う。


「普通じゃないだろ、ウナにちょっかい出される」


 そういい返しても、生還した例がサザンしかないのだから、ニレンのみんなが、希望の目を向ける。動かないサザンにニレンは、絡めてできた。相棒のキーンにこれを依頼した。


 50万クレジットのうち45万クレジットが、火星政府の金だと二人は知らない。


 火星、バーム軍、ケレス連邦の合同艦隊は、総力を挙げて、この内殻コロニーを発見した。しかし、公表はせず、眉唾な噂で、有るかどうかも怪しいようにキーンに伝えている。ニレンは、この噂にすがったことになった。バスーは、なくても、半金払うと言ってきた。うまい話だ。その代り、調べてからの半金だぞ。リンドウを取ってきたら残りの半金だと念を押された。


「ケレスのベスタだろ。楽勝じゃないか」

 小惑星ベスタは、島宇宙3位の巨大小惑星。


「あそこのコロニーは、島宇宙で2番目にデカいコロニーだ。羽を伸ばせる」


「おれは、娘達といるのを嫌がっていないだろ」


「そうじゃなくて、娘達もいないしラミアの監視もない」


「本当か」


「そりゃそうだろ、あそこは、ケレス連邦だ」


 二人は、また顔を突き合わせてにんまりした。


 ラミアがここにいたら、「そんなことある分けないでしょ」と、言っただろう。そういう設定なのだ。2人は、完全にはめられた。もし、全容がわかっていたら、50万クレジットなどカスみたいなギャラだ。知らない二人は、大喜びでベスタ航路に向かった。

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