1-5 初めての
その後は、大変な騒ぎになった。サザンの部屋は、キープアウトされ、サザンさえ入れなくなった。サザンは、酒場に寝泊まりするしかなかった。姉さんたちにも事情がばれて、「何で、相談してくれなかったの」と、怒られた。ラミアは、火星で、有名人だった。
普通、ラミアに結晶石にされるのは、外宇宙に出ていくパイロットや頭脳を惜しまれる博士たちだ。出会った夜、一緒にいたのは、パイロットだった。だから、酒場の親父などが、結晶石になれるわけがなかった。親父は、うまいことやったのだ。
ただ、おれの身代わりになるといった下りは、嫌いじゃない。結晶石になると、性欲は、なくなる。親父は、自分が一番強く持っていた欲を投げたのだ。トーマは、ぎりぎりになって携帯でそれを知った。
「サムの願いは、『今まで通り、酒場のマスターでいたい』だってってさ。うちの子たちの行く末を見守りたいんだと。バカだよな、宇宙船にも乗れるのに。しばらく、カウンター頼むわ」
何となくわかる話だ。親父は、姉さんたちと話しているとき、幸せそうだった。
3日後、酒場に政府のラミア担当だというキャリアが来た。スーツ姿に眼鏡をした女性で、バリバリという感じだ。いろいろと、高圧的なことを言われるんだろうなと思ったが、つかつかっとカウンターに座り、お付きの人をさがらせた。今は、自分がこのカウンターのマスターだ。
「何か飲みます?」
「ごめんなさい。お酒は弱いのよ。サザンさんね」
声を出さずに頷いた。
何も無いのもな と、思い、オレンジジュースを置いた。姐さん達は、ちょっと近寄りがたいと、奥に引っ込んでしまった。
「ラミアのために、あなたのことは調べさせてもらいました。地球で何をしたのかもです。あなた、日本人ですね。偽名を使っていたから大変でした」
「強制送還ですか」
「火星と地球では、倫理観が違います。あなたには同情しますが、保護することはできません。それでは、地球との親交が失われます。ですから、あなたは、今まで通り生きてください。これは、私ができる精一杯の援助です」
そう言って火星のパスポートをくれた。
「これがあれば、地球以外は、どこにでも渡航でき、そして、火星に帰ってくることができます。今日からあなたは、本当にゴキョウ・サザンです。いいですね」
いきなり自由をもらった。
「ラミア、ラミアはどうなります」
「あなたは、ラミアにマーキングされています。今後会うことはないでしょう。会えば、あなたは、死ぬことになります。そう、したいですか」
「おれは、まだ16です。ラミアと結婚したいですが、死ぬのは嫌です」
「では、そういうことです」
返す言葉がなかった。だからと言って、この人は鬼ではないと、思った。
「最後に、一つだけ、いいですか」
「お伺いしましょ」
「ラミアに会いたいです」
「・・・・・許可します。ラミアも会いたがっていました。ただし、今晩だけです。約束を守れますか」
「守ります」
カウンターを姉さんたちに任せ、アパートに帰ることにした。アパート前の物々しさは変わらないが、政府から来たラミア担当と一緒だと、ノーチェックで、中に入れた。
部屋の中には100個ぐらい卵が産まれていた。それを丁度回収しているところだった。ラミアは、まだ、白い蛇のままだったが、お腹は膨らんでおらず、消化が終わっていることを示していた。ラミアは、サザンを見止めた。
サザン!
「翌朝0600時にラミアを迎えに来ます。それまで話をしてあげてください」
思った以上の時間をもらえた。逆にこれが最後なんだと実感した。
「いっぱい産んだな」
えへへへ、いつもこんな感じ
ラミアの横に座ると、最初、体を預けてきたが、出産の疲れか、ぐったりと膝に頭を乗せてきた。おれは、ラミアの頭をなでながら、お礼を言った。
「今までありがとな」
もう、会えないみたいな言い方しないでよ。サザンは、私にマーキングされているのよ
「そうだった。今度は、いつ会える」
そうね。サザンの寿命が尽きるときかな
「バカだな、それじゃあ、おれ、死んじゃうよ」
でも、サザンには人間の寿命をまっとうしてほしいの
「いいのか」
ふしぎよね。マーキングのせいかしら、ずっとサザンを感じていたわ。だから、死にそうになったら、助けてあげる
「頼むよ」
死に方が違うだけだろうなと思った。でも、ラミアの方がいい。
「親父の願い、聞いたか『今まで通り、酒場のマスターでいたい』だってさ」
マスターらしい
ラミアがくすくす笑うので、おれも笑った。
卵の回収が終わるとラミアと二人っきりになった。外は、とんでもない騒ぎが続いていた。1ヶ月も行方不明だったラミアを守るために、バーム軍まで戦艦を出していた。
「それで、親父はどうなったんだ」
まだ、お腹の中よ もうすぐ出ると思うけど
「見たい」
エッチ
いつもの雰囲気になった。
「最後の願いだぞ」
最期じゃないでしょ
「一生のお願い」
お尻から出るのよ
「ってことは、フンか」
そうなるのかな
「頼むよ、来週には、マスター復帰するんだろ。いい土産話になる」
ひっどーい そうね、私と結婚してくれるんだったらいいわ
「・・・・方法があるのか」
真顔になった。
わかんない。だって、魔法時代の記憶ないんだもん。マーキングしているのに生きているのよ
「無いって言わないんだな」
だから、わからないのよ
「わかった、待っていてくれ」
バカね、信じないけど待ってるわ
「じゃあOKということで」
しまった!
結局、マスターのフンを見ることになった。本当に大豆ぐらいのかわいいフンがお尻から出てきた。
「これ、赤黒くないか」
本当! 普通は、もっときれいよ
「あれか、欲深さで、黒くなるのか。それだったら納得」
寿命がなかったんじゃないかな。お年寄りの博士も黒いもの
「親父は53ぐらいだぞ。早くないか」
病気とか
「聞いたことない。でも、それも納得かな。だからおれの身代わりになった。今度聞くよ」
私も聞きたい
「どうやって」
ごめんなさい
「まあ、まかせろ。マーキングで死なない男だぞ」
うん
こうしていられるのも後わずかだ。無理に起きているより、抱き合いたいと思った。
「ベッドに行かないか。おれ、けっこうこの白い抱き枕好きだったんだ」
私は、抱き枕か
軽口が叩けるほど、時間をもらったんだな そう、思った。しゅるっと、動くラミア。二人でベッドインして状況が変わった。
ラミアがみるみる人形に戻っていく。全裸のラミアがそこにいた。蛇には涙腺がない。ラミアは、人になって、泣き出した。嗚咽が止まらない。サザンはキスして慰めた。その後は、お互いに慰めあい、最後まで行った。暗闇の中で、ラミアの喘ぎ声が頂点に達した時、サザンも行った。二人とも初めてだった。
翌朝、早い朝食を食べているときに、政府のラミア担当が来た。二人の打ち解けた感じを見て、驚いた顔をしたが、何も言わなかった。
「ラミア、行きますよ」
おれは、絶対何かできるはずだとラミアを目に焼き付けた。
「サザン」
「おう」
だから、さよならは、言わなかった。
ドアを出たところで、ラミアは、この、ラミア担当に抱きついて、ささやいた。
「お母さん、サザンにパスポート渡してくれた?」
「大丈夫よ、きっとラミアを迎えに来るわ。私の娘が見込んだ男ですもの」
「どのくらい」
「ガイア人の時間だとすぐよ。でも、そうね、母さんが、くぎを刺しとくわ。サザンって、女運悪そう」
「それって」
「いっぱいからまれるわ」
「やっぱり一緒にいるー」
「だめよ、約束でしょ。今だと、本当にサザンは、結晶石になりかねないのよ」
「わかってる」
母子の思惑通り、サザンは、パスポートを凝視していた。
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