3-2 終末の惑星
部屋に帰ると明かりがついていない。
モーラの奴、行ったか
そう思って、明かりをつけるとベッドの上に、怠だるそうにしているモーラが、少し起き上がってサザンを見た。
「まだ、居たんだ」
「うん、あなたを待ってた」
「サザンだ。 なんで?」
「ほかの人と違うから」
サザンは、ベッドの上にいるモーラをじっくり見るようにソファにドカッと腰かけた。
モーラをよく見ると、首筋の辺りの毛がチリチリした。ぽっちゃりしているせいかマシュマロのような肌なのだが、薄い黄緑色をしている。普通の奴らには、黄色人種といえば通るだろうが、日本人のサザンに、そんなごまかしは効かない。サザンは、こんな異形になれている。
モーラは、緑のボディコンシャスなドレスを着ている。目は大きく、守ってやらないといけないと、思わせる幼い顔立ち。裸足だった足はきれいに洗ったようだった。
「おまえ、ガイアか」
「なに、それ。私は、モーラよ」
ガイア人じゃないのか
「モーラは、人じゃないだろ。どこの種族だ」
「わかるの!」
モーラは、素性を隠すでもなく嬉しそうにベッドの上に座り、サザンを上目づかいに見た。
「古い種族よ。私がいた惑星が、変った形で、復活したのね。ついでに私達も目覚めたの」
厄介だ。ガイアの元住民か
「何処から来たんだ」
「わからない。卵から孵ったら、エロスに居たわ」
「いつ生まれたんだ。モーラの噂は聞いたことないぞ」
「12年ぐらい前」
うん!
「エロスだよな。じゃあ、地球暦で、16か17歳ってことか。やっぱり聞いたことない」
「みんな恥ずかしくて言えないだけよ。私は、記憶を共有できるのよ」
「どうやって?」
しまった
「まだ食事はしたくないんだけど。サザンならいいわ」
「ちょっと待て」
「大丈夫、死ぬわけじゃないんだし。話すより早い」
そう言って、モーラは、目を緑色にした。
くそ、身動きできない
サザンは、すり寄ってくるモーラを見ることしかできない。モーラは、幼い顔に妖艶な香りを漂わせてサザンに近づいた。
そして、サザンの上着を脱がせて、心臓の上にキスした。
電気が走ったような快楽に、しびれる。皮膚をちゅうちゅう吸っているのだが、そこから、モーラの記憶が流れ込んできた。
サザンは、快楽の中に身を置いて、遥か彼方、古より古い記憶を覗くことになった。
そこは、緑豊かな惑星だった。
モスラ族 モーラの一族は、その惑星の神として祭られていた。それは、いつの時代でもそうだった。戦争が起きても、頂点が変わらないのだ。人々の基盤は、揺るがない。人々は、モスラ族と繁栄した。
モーラの記憶はさらに遡る。原初の祭壇の光景が、まざまざとサザンの目の前にあった。
目隠しをした男女12人が、モーラの前に膝まづいている。この時代は、モーラに生贄を捧げていた。
モーラが一人の男を指さした。目隠しが、はずされた男は、狂喜の表情をして、モーラを見る。
それは、永遠とも思えるキスだった。男は、その場で意識を失い。祭司たちに連れていかれる。死ぬ前の快感は、この世のものとは思えない。その記憶をサザンは共有させられた。
死を凌駕する快感を味わった。
「やめてくれ」
だが、次の瞬間、その男の記憶が、走馬灯のように流れ込んでくる。男の記憶は、モーラの中で生かされた。
サザンは、理解する。これが、モーラたちを神と上がめる理由だ。それらの記憶は、永遠とモーラの中で生き続けている。
「あなたは、私と記憶を共有したわ。もう、離さない」
しかし、サザンは、モスラ族の生態も知ることになる。モスラ族は、長い寿命を持つが死ぬ。その時は、モスラ族同士で交尾する。片方が、すべての記憶を吸い上げる。これだけの栄養を得たのに、卵は、二つしか生まれない。
双子の姉妹は、終末の惑星にいた。
太陽は肥大化し、いつ、この惑星を飲み込んでもおかしくない状態だ。科学文明を繁栄させた知的生命体は絶滅した。それら人と繁栄したモスラ族も、モーラと、フーラだけになってしまった。
姉のフーラがつぶやいた。
「私たちは、この惑星カブーと、共に繁栄したわ。私たちは、この惑星の記憶。カブーの花嫁よ」
モーラは、そう、思わない。
「そうだけど、この記憶を絶やすのは、嫌だわ」
フーラは、モーラの気持ちもわかる。
「じゃあ、こうしない。私の蜜を(記憶)吸って。卵の一つは、カブーに、一つは、あなたの中に宿しなさい」
「でも、結局滅ぶんじゃない」
「卵は、カブーが、あの巨星に飲み込まれる前に、そして、中性子星になる前に、中性子星と同じにするのよ。あなたも死ぬ。だけど、卵は死なないわ」
「記憶は、紡がれる」
「そう、記憶は、紡がれる」
姉妹が抱き合う奥には、巨大な太陽が夕日のように赤く鈍く揺らめいていた。
モーラは、2つの卵を抱いて、カブーの地中深く沈んでいった。
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