第24話
吹き飛んだマシンから残骸が雨のように飛んできたがツグミさんが全て弾いてくれた。マシンは完全にバラバラになっていた。気づけばワープを防いでいたフィールドも消滅している。あのエネルギー波を生む装置はどうやらマシンの動力と直接連結していたらしい。なので装置を破壊するとそのまま動力まで破壊が伝達したというわけだ。
「本当に疲れた。脳みそが溶けるかと思った。すでに大分頭が痛い」
ツグミさんはぼやいていた。しかし、どうやら今度こそ完全に勝ったらしい。
「ドゥはどうしたんでしょうか」
「うん、確認しなくてはな」
私たちはマシンの残骸のもとへ向かう。もはや原型を完全に失っている。いくつかのパーツに別れバラバラに空間を漂っている。
「コックピットらしきパーツはありませんね」
「あの内部に作られた亜空間がコックピットだからね。そんなものはないのさ」
私たちはドゥを探す。しかし、あれほどの爆発。私には嫌な予感しかなかった。
しばらくするとドゥが声を上げた。
「お、おい! こっちだ!」
私たちは駆けつける。するとシノは体を震わせてひとつの物体を指差していた。その震えは恐れと、同時に怒りからくるものだった。
「これは・・・」
そこに浮いていたのはドゥ、しかし、その屍だった。無残に体の至るところが欠損している。見るに堪えない死体だった。
「くそっ。こんな形での終わりって有りかよ。僕たちに謝るんじゃなかったのか」
「ふむ」
「ツグミは悪くないさ。こいつはその気になればあの程度の爆発をやりすごすくらいわけないんだ。ようするに死ぬことで逃げたんだよ。くそっ」
しかし、ツグミさんはすぐに死体から目を離す。まるで興味がないようだ。つい先程まで死闘を繰り広げた相手への態度とは思えない。
「ツグミさんどうしたんですか」
「それはドゥじゃない。ドゥの服だ」
「服だって?」
「ああ、あんまり知られていないが、ラプラス星雲人はそもそもが人型じゃない。タンパク質で構成されてすらいない」
そう言ってツグミさんはその辺に浮くマシンの破片を手でかき分け始めた。
「人間の姿を模すのはその方が私たちに受け入れられやすからだろうな。その実の姿は・・・・・。よし、見つけた。どさくさに紛れて逃げようとしてもそうはいかんぞ、ドゥ」
ツグミさんが手にとったのは金属の板。先端には小さなブースターを紐でつないである。ぱっと見黒い実になめらかなただの板だが、よく見ると表面になん本もの筋が入っている。まるでパソコンの集積回路のようだ。
「何言ってんだ。マシンの回路だろ」
「違うな。おい、なんとか言ったらどうなんだ」
しかし、何も聞こえない。黒い板からはうんともすんとも答えはない。
「おい、ふざけるなよ。この期に及んで白を切り通せるとでも思っているのか」
「ツグミさん。今私たちにはツグミさんが頭がおかしくなったようにしか映りません」
「なにぃ。違うんだよ。ラプラス星雲人は金属生命体で、パソコンの回路にとてもよく似た生態なんだ」
「ほんとうでしょうか」
「ちきしょう」とツグミさんはぼやくと、思いついたように板に両手をやる。
「おい、ドゥ。何にも答えないならポッキリいくぞ」
ツグミさんは両手に力を込める。
「それは大変困ります。今すぐにお止めください」
すると声が聞こえた。それは紛れもなくさっきまで聞いていたドゥの声だった。そしてセンサーはその声の主を目の前の板だと認識していた。本当にこの板がドゥそのものであるらしかった。
「そんな、僕の星はこんな板野郎に支配されてたってのか」
「失礼な。人型だろうが板型だろうが宿った命は同じでございます。確かオリオン船団には『一寸の虫にも五分の魂』という言葉がありましたね。そういうことでございます」
「こいつらはお互いが繋がっていてな。ラプラス星雲人という個人でありながら、同時にその種族全てをもってひとつの大きな生命でもあるんだ。まぁ、そんなことはどうでもいい。今の問題は約束は守ってもらわなくてはならないということだ」
「ふむ、私がザルネとカロイに謝るということでしたね。なんでしょうか。ごめんなさいと言えばいいのですか」
「お前っ!」
シノは板に掴みかかろうとするがツグミさんが制する。
「そんなものお前が本心を込めるわけがないだろうが」
「ではどうしろと。靴の裏でも舐めればよろしいのですか。もはや舐める舌もありませんがね」
シノがまた掴みかかろうとするがやはりツグミさんが制する。
「そうだな。お前が謝罪を本心から行わないなら、とりあえずそれに代わる行動を行ってもらう必要があるな」
「ほう、何をさせていただけるのですかね」
「私には気の利いたうまい方法は思いつかん。だから、とりあえず今お前がすれば一番シノのためになることをしてもらう」
ツグミさんはそこらじゅうに浮かぶパーツのひとつを指差す。それはシノが完成させた宇宙船だった。爆発に巻き込まれ、やはりバラバラになっている。見る影もない。
「あの船を作り直し、一緒にシノの星に行け。そしてシノの行動の手助けをするんだ」
「私に私が作ったシステムを破壊する手伝いをしろというのですか」
「そういうことだ」
「そんな馬鹿なことを私が了承するとお思いですか。私は船を直して、星へ戻って、そこで裏切り、ザルネを抹殺するかもしれませんよ」
よくもふざけたこいとを堂々と言えるものである。そしておそsらくドゥは今言ったことを実際に実行するだろう。星に戻るということは形成を逆転できるということだ。ドゥにとっては本拠地に戻るわけで、いくらでも状況を打破する方法は存在しているだろう。
「シノ、こいつの使ったフィールドはお前も使えるんだろう」
「ああ、あそこまで規模のでかいものではないけどね。発生装置ならあるよ」
「なら、そこにこいつを拘束しよう。外部との連絡は一切不可能。脱出も不可能。そこで、シノのために働いてもらおう」
「なるほど、確かにそこなら私もどうしようもございませんね。同胞との通信さえ不可能でございます。お手上げですね」
インデペンデントフィールドとやらは完全に独立した空間を作るらしい。中は完全に隔絶された別の小宇宙になるのだろう。そこに幽閉するならいわゆる禁固刑で、労働の義務をつけるみたいなものだろうか。
「ですが、それでも不安材料がないわけではないのでは?」
「それも大した心配じゃないよ。大体本当のところこの問答さえ大した意味はないだろう。お前は確かに約束したぞ。負けたら謝るとお前らラプラス星雲人は契約をとてつもなく重要視するじゃないか」
「はいはい。そうでございますよ。明確な自我がなく意思がない私たちはそういうルールでもって自分たちに方向性を与えていますからね。従いますよ、従えばよろしいんでしょう」
「そういうことだ。話はついたな。そら、あとはお前の仕事だ」
ツグミさんはシノにドゥを渡した。
「う、うん」
「早まって殺したりするなよ。倫理とか云々以前にお前は絶対後悔するぞ。お前はそういうやつだ」
「分かってるよ」
シノはこれといって何をするでもないが手元のドゥをみつめていた。ドゥは何も話さなかった。
「さてと」
ツグミさんは辺りを見回す。はっきり言ってひっちゃかめっちゃかだ。いろんなパーツがいろんなところにぶっ刺さり、クジラの内壁はぐちゃぐちゃに壊れていた。一体このあとどんな風にニュースで報道されるのだろうか。と、ツグミさんが動きを止める。
「む、連中も回収しなくてはな。ドゥとは接触させないようにどっかに置いておかなくては。薬が抜けたらどんな反応をするかは分からんが」
その目線の先には黒服たちが漂っていた。人間の形はしているし、少し動いている。ちゃんと生きているようだ。フィールドの外に居たからか爆発の影響は少なかったらしい。
ツグミさんは三人の元に行きその腕を引っつかんだ。
「何はともあれだ。帰るとしよう」
「ええ、帰って美味しいご飯を食べに行きましょう」
ツグミさんはトントンとい無重力の仲を飛んでいく。もう能力を使う余力はないらしい。私たちの宇宙船の下までは自力で行かなくてはならない。とにかくようやく事態は終りを迎えた。平和な自宅へ帰るとしよう。
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