第22話
「行け!」
ツグミさんは私たちの下に砲身を作り、一気に発射した。私たちはクモマシンから明後日の思い切り右側にすっ飛ぶ。
「うわぁああああああ」
シノがまた叫んでいる。もう気にすることはない。私たちがすっ飛ぶと同時に、私たちを狙っていたビームもぐるりと方向を変え、追いかけてくる。ツグミさんの周りにはビームはまったくなくなった。完全なフリーだ。
「ほう、荷物を切り捨てましたか」
「そんなわけはない」
私たちに無数のビームが襲いかかる。今度はツグミさんは居ない。守ってくれるものは何もない。
「シノさん!」
「う、うおおおぉお! 今だぁ!」
シノはスイッチを押す。
「おや」
すると私たちは瞬間的に20mほど離れた、ちょうど、ビームが届かないあたりに移動した。ワープだった。
「どうや!」
「そんなこと言ってる場合じゃないです。速い方が来ます」
「う、うおおぉおおお!」
シノはまたスイッチを押す。するとまた私たちは離れた場所にワープする。以降はその繰り返しだ。
インデペンデントフィールドとやらのせいでこの空間の外に出ることはできない。だがワープそのものができないわけではない。この空間内でならワープはできるのだ。そしてその移動速度は一瞬だ。速い方のビームの比ではない。これを繰り返すことで、私たちはワープをする機械のエネルギーが切れるまではビームをかわし続けることが出来る。
「そうですか。やはりそう来ましたか」
「さすがに予想はしていたか。だが、どうする。ワープより弾速の早い弾の用意はあるのか」
「さすがにございませんね。それにその必要もありませんよ。エネルギーが切れれば状況は元通りなのですから」
「なら、その前に終わらせるだけだ」
ツグミさんは一気に加速し、クモマシンの懐に潜り込む。恐らくはマシンもツグミさんを麻痺させる弾を撃つこともできるのだろうが、そのスキもない。一瞬だ。
ツグミさんはまず、マシンの関節を狙って砲撃した。
「やはりここは弱いようだな」
マシンの関節は火花を上げて動きを止める。さすがに粉砕まではいかないようだが、機能を停止させられれば十分だ。
足を一本、続けて二本。そして上部にあるアームを一本。そのままビームウエポンへとツグミさんは迫る。
しかし、その時もうひとつのウエポンが動いた。
「む」
それに気づくとツグミさんは一瞬でクモマシンの懐から離脱した。途端、電流が球状に広がった。もうひとつのパラボナアンテナのようなウエポンから放たれたボムが炸裂したのだ。ツグミさんの様子から、あれがツグミさんをも対象にとっていることが分かる。
「おや、かわしましたか。さすがに二度目ともなるとそう上手くはいきませんね」
球状に広がるボム。かわすにはその範囲から逃げる他ない。つまりあれがある限りツグミさんは完全にクモマシンに接近できない。広がるボムよりはやくツグミさんは動けない。
ツグミさんは「むぅ」と唸りながらクモマシンを睨む。
「さぁさぁ、はやく飛び込んできてください」
「余裕こきやがって。お望み通り飛び込んでやるさ」
ツグミさんは砲身を展開し再びクモマシンに飛び込んだ。今度は真っ正面からは行かずに、周りを飛んでタイミングを伺っている。クモマシンのパラボナアンテナは微かに光っていた。おそらくいつでも発射準備OKということなのだろう。いつ飛び込んでもボムの餌食になるということにほかならない。
「そら、行くぞ」
ツグミさんは堂々と宣言して加速した。パラボナアンテナが光る。ツグミさんが範囲内に入った瞬間にボムを放つのだ。私の目にほんの一瞬の出来事だ。しかし、両者にとってはまさに生死わけた一瞬であり、コンマ1秒の間に全神経を集中させている。
ツグミさんはまったく無遠慮に、なんの小細工もなくただすっ飛んだ。対するマシンもなんの小細工もなくボムをまさしく発射する。しかし、そのまさしく発射する瞬間だった。
「そら」
ツグミさんは砲身をありったけ展開し、クモマシンの下、マシンを固定している床を砲撃した。
「なんと」
その衝撃でクモマシンは体制を大きくはないがずらすことになる。しかし、それはまさしくボムが発射される寸前も寸前のことだ。修正することもできずボムは放たれる。結果、ボムの効果範囲はツグミさんの一から少しずれることになる。炸裂したボムの爆発のなかにツグミさんが巻き込まれることはなかった。ツグミさんは砲身を使い方向を変え、ボムの爆発をかわした。そして、ほんの一秒ちょっと、そののちにボムは消える。すぐにマシンは次弾のチャージを始めるがもう遅かった。
「こいつで終わりだ!」
ツグミさんは一気にクモマシンの上部に取り付き、砲身を展開し、とうとう残るアームをウエポンそれぞれに砲撃した。アームの関節ははじけ飛ぶ。そして二つのウエポンはやはり、ほかの部位よりもろかったようだ。内部のエネルギーごと炸裂した。
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