第21話

「くそ」

 ツグミさんはビームを砲身で受け続ける。そしてそれを跳ね返しそれをビームに当てることでなんとかかんとか場を保っている状態だ。ビームをビームに当てるなんていうのはものすごい計算能力がないとできないだろう。PSサーキットを解放すると脳みその機能も上がるらしい。

「どうしました。大口を叩いていた割には状況に進展がないように見えますが」

「今考え中だ」

 状況は大分悪い。ビームは雨あられのように連射されるし、まだウエポンは一つある。残り二つの腕についているのはシールドだ。クモマシンの装甲は相変わらず恐ろしい耐久性を持っている。地上でやられた時と装備自体は同じだ。だが、今回は兵器に殺傷能力がある。そしてそのターゲットはツグミさん本人ではなく後ろの私たち。ツグミさんは動くに動けない。攻めるに攻められない。

「ちょっと、なんとかしてくださいよツグミさん」

「お前は、後ろで見てるだけだから好きなこと言いやがって」

 ツグミさんは苛立たしげに言った。おんぶに抱っこというやつだ。今私に出来ることは何もない。

「そらっ」

 ツグミさんは跳ね返したビームの一発をマシンに向ける。ビームはうまくマシンに届いた。飛び交うビームの間を縫うように計算されているのだ。すごい頭のいい芸当だ、という感想が浮かぶ。ビームは着弾すると大きな爆発を起こした。しかし、マシンの表面には傷らしい傷はない。

「効かないか」

「やっぱり防御力も十分ですね。前みたいに作りの弱いところを狙うしかなさそうです」

「狙えたらな。しかし、ここから動けん」

 このままでは状況は好転しない。むしろツグミさんがいつまでも凌ぎ続けられるとは思えない以上状況は悪いだろう。私たちがツグミさんのように動き回って攻撃を防げればいいのだが。その時シノがドゥに聞こえない専用回線を開いた。

「何をやってるんだよ。僕たちごと発射して動き回ればいいじゃないか」

「なっ。しかし、それはここで動かないよりお前たちに危険が及ぶんだぞ」

「ここのままでも死ぬのは目に見えてるんだ。大体向こうはもう一方のウエポンをまだ使ってない。さっさと勝負しないと追い詰められるだけだぜ」

「それはそうだが」

「ツグミさんそれで行きましょう。私も大丈夫です」

「まったく、勇ましいことだ。しかし普段のシノなら絶対ビビリにビビってこんな案出さないだろうに」

「図らずも薬が役に立ってしまっているね。実に忌々しいけど」

「その場合は私がシノさんを落としてでも実行してましたよ」

「君怖いな」

 ともかく作戦は決まった。あとは実行するだけだ。狙うはやはりウエポン自体。あとは弱そう関節部分か。

「よし、なら行くぞ」

 ツグミさんが自分の下と、私たちの下にそれぞれ砲身を展開する。

「うわぁあああ」

 そして私たちは発射される。シノは感情を薄れさせられているとは思えない情けない声を出した。避けきれないビームをツグミさんが弾き、即座に方向転換用の砲身を出してさらに飛んだ。私たちはすさまじい速度でマシンの周りを飛び回り始めた。

「おや、そう来ましたか。それで本当にうまくいきますかね」

 ビームの群れはひたすら私たちを狙う。私たちはそれを避けながら飛び回る。逃げ回りながらツグミさんはウエポンを狙う。

「くらえっ」

 しかし、シールドにガードされてしまった。

「やはり近くにまでいかないと当てられそうにないな」

「でも、近くに行ったらまたボムの餌食ですよ。それにそもそも――」

 私の目前にビームが迫っていた。すんででツグミさんがそれを受け流す。危ないところだった。

「前と違って、今度はお前たちがいる。自由に動き回るのは難しいってことか」

 私たちを守り続ける必要はないといっても、やはり気を遣いながら動かなくてはならない。制限は小さくはない。その上でクモマシンに接近するとなるとかなり難しいように思われた。

「だが、どうにかするしかない」

 私たちは光のドームの中を飛び回る。ツグミさんの挙動を見るにこの壁には触れないほうがいいようだ。とにもかくにも、動き回って少しでも打開できる瞬間を探るしかない。

「そんな悠長なことでいいんでございますかね」

 そうドゥが言ってからまたビームが放たれる。しかし、その速度は揃っていなかった。

「ずらしてきたか」

 速度の違うビームは四方八方から私たちを襲う。地上の時と同じだ。

「どうするんですか」

「さほどびびるものじゃない」

 そう言ってツグミさんはビームの間をものすごい勢いで駆け抜け始めた。無論私たちも一緒にだ。

「うわぁぁああ」

 シノがまた叫んでいる。状況は地上の時と同じだ。しかし、今回は違う部分がある。ツグミさんの能力が向上しているという点だ。

「器用な。ランダムに動く光線の軌道を計算出来るのですか」

 ツグミさんはそれぞれの速度が違うならば好都合とばかりに、それぞれのビームをぶつけて次々と消滅させていった。

「この前と同じと思うなよ。同じ手は通用しない」

 ツグミさんは移動しながらビームを消していく。これなら、むしろランダムな速度のビームの方が対処しやすいほどかもしれない。

「おやおや、これは困りましたね。なら別の手を打たなくては」

 クモマシンの銃口からまたビームが放たれる。

「むっ!」

 間一髪、ツグミさんはそれを後ろの輪っかで受ける。本当に間一髪だ。今度のビームは今までのものと比べ物にならないくらい弾速が速い。私の目には全く見えない。ツグミさんにもやっとかっとだったのだろう。今までのものは逃げ切れるような速度だったが、今度のはそうはいかないようだった。

「今度こそ仕留めますよ」

 ランダムな弾、普通に追尾してくる弾、そして速い弾が一斉に襲い来る。

「くそっ」

 ツグミさんは速い弾を優先的に受け跳ね返す。速い弾は速い分威力が落ちているようで、他と当たっても対消滅しなかった。しかし、やはり私たちに当たれば小さいケガでは済まないだろう。ツグミさんはそれに全神経を集中するために、他への意識がおざなりになる。ランダムに動く弾の計算も、それら全てをかいくぐるのもやっとかっとといった感じだ。

「これはかなりヤバイのでは」

「ああ、正直脳みそが焼き切れそうだ」

 大分追い詰められている。これでは攻撃に転じるなんて夢のまた夢だ。弾を受け、弾を避けるだけにツグミさんの容量の全てが奪われている。またもジリ貧だ。やはり私たちに勝ち目なんてなかったのか。

「こうなったら最後の手段しかない」

 今の今まで後ろで叫び続けていたシノが突然冷静に言った。

「お前、恐怖があるのかないのか分からんな」

「ないけど癖で叫んでるだけさ。ツグミ、僕たちを捨てるんだ」

「なっ。バカを言え! お前たちを見捨てられる訳がないだろうが」

「全力で前に捨てるんだ。そして弾が僕たちに届く前にマシンの機能を停止させろ」

「いや、さすがの私でもそんなことは出来ないぞ」

「でも、これくらいしかない。可能性はどれだけ低いかわからないがゼロではないはずだ」

「シノさん、冷静なようですでに錯乱してるんじゃ」

「そうかもしれんな・・・・・。やっぱり感情が戻っているようだ。結構なことだ・・」

 シノが元に戻りつつあるのは薬を自力で破るというパワフルな方法の証明になっているが今はそんなことに感動している場合ではない。

「でも、捨てるというのは一番現実的かもしれません」

「お前まで何を言い出すんだ!」

「いえ、もっと、何かいい方法があるはずです」

 あのビームはツグミさんを狙っているのではなく私たちを狙っている。私たちさえ投げ捨てればツグミさんは自由になるのだ。その間にクモマシンに一気に近づいて攻撃を仕掛ければ勝機はある。ツグミさんの攻撃の出力も上がっているのだ。問題は投げ捨てられた私たちをどうするかだ。シノの言うとおり私たちにビームが届く前にクモマシンをどうにかするか、もしくは私たちにビームが届いても防ぐ方法を用意するかだろうか。なんとかして弾が当たらない状況を作らなくてはならない。私も死ぬのはゴメンだ。本当に最悪の場合ツグミさんを売り渡してでも、という考えが頭を掠めるほどだ。

「どうするんだ。もうやるしかないだろう」

「お前は黙っていろ」

 方法は、方法は・・・・。いや、そうか。あるかもしれなかった。というか始めからそうしていれば良かったのだ。いや、始めからそうしていたら、ドゥにすぐに対策を練られていたか。なら、追い詰められたこのタイミングこそベストだったかもしれない。

「方法は、あります」

 私はツグミさん、そしてシノに伝える。

「そうか、それなら大丈夫だな。問題ないなシノ」

「ああ、大丈夫だ」

「でも、ツグミさん。接近したはいいかもしれませんが、やはりボムがありますよ」

「それもなんとかなる。そうと決まればさっさと済ますぞ!」

 作戦は決まった。これなら十中八九私たちは無事なはずだ。心置きなくツグミさんは攻撃に専念できる。その攻撃が上手くいくかも難関なのだが。そう考えると、何から何まで難題だらけだったのだ。ツグミさんが居なかったらとっくに私もシノも死んでいた。

 何はともあれ作戦開始だ。

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