第17話
ツグミさんがヘッドホンをつけると、ツグミさんの展開していた砲身が大きく伸びた。ついでに色もより濃く深い青色に変わった。見た目の変化はそんなところだ。
「ふむふむ。その能力。まだ上があったのでございますか」
ドゥが面白そうに言った。
「そういうことだ。行くぞ」
ツグミさんがそう、気合を込めて言った瞬間、黒服たちは引き金を引いた。3発の光線がツグミさんを襲う。
「空気を読め。テンポが速い」
ツグミさんはその光線を砲身で受け止めた。しかし、今度は受け流しはしなかった。砲身はそのまま瞬時に円形に変わり、ぐるりとその円をよじり八の字になった。
「メビウスの輪だ」
光弾はそのままその八の字に捕らわれたまま抜け出せず、ぐるぐると延々回転を続けた。ESPの出力が上がったことにより砲身の強度が上がったおかげでできる芸当のようだ。これなら周りを破壊せずに済む。黒服たちは続けざまに次々と光線を撃つが全て輪に絡め取られていった。ツグミさんは光線と光線が接触しないようラインを増やし、ラインを伸ばす。そうしているうちに一つまた一つと光線は消滅していった。
「次はこっちの番だ」
ツグミさんはさらに二つ砲身を展開する。その上に砲弾が現れる。青い砲弾が火花を散らしている。黒服たちは構わず光線を撃つが、
「行け!」
ツグミさんの掛け声とともに放たれた砲弾は、今までとは比べ物にならないほど速い。黒服たちの光線を上回る速度だ。あちら弾が届く前にこちらの一発が届き、もう一発は放たれた光線とぶつかり青い光球を作った。
ぶつかった方の爆発はごく小さい。ツグミさんの砲弾の方が向こうの光線を飲み込んだといった感じだ。そして向こうに届いた一発は黒服の銃に直撃した。黒服の銃は表面が赤く焼けていたが原型はとどめていた。
「やはり頑丈だな。一発ではだめか。だが、それなら何発でもブチ込むだけだ!」
ツグミさんは再び砲弾を装填する。黒服とツグミさんの撃ち合いが始まった。輝く光弾が工場区画を照らしながら飛び交う。
「すごい」
私はそれを見守る。ツグミさんのESPはあのヘッドホンで強化された。能力はより強固に、より精密に、より強力になったようだ。あの八の字による防御力、そして砲弾も相手の光線を飲み込む。そして弾速も向こうを上回る。いくら銃が頑丈といっても赤く焼けたということは一応のダメージは与えられているのだ。ならば何発も当てれば破壊することも可能だろう。状況としてはツグミさんの方が明らかに有利だ。しかし、ツグミさんの顔に余裕はない。何かを警戒している顔だった。
「どうしました。こんなに有利なのですから。もっと堂々と攻めればよいではありませんか」
「ふん。どの口で言ってるんだ」
ツグミさんはじっと、そう、黒服たちの光弾に目を凝らしていた。全て同じ光弾だった。しかし、ツグミさんはそれを慎重に見ている。なのでせっかく効いているというのに銃に対する砲撃の方が手薄だ。どちらかといえばツグミさんの意識は後ろに展開している八の字の方に集中していた。
「どうしたんですかツグミさん」
「相手が仕掛けるのを待ってるんだ」
ツグミさんはそう言った。相手の攻撃は相変わらずだ。ツグミさんはそれに対応し続けている。
何発も何発も光線を八の字で受け続け、しかし、何十発目かが触れた時だった。
「これだ!」
ツグミさんが叫ぶ。それと同時にその光弾を受けたラインが八の字ではなく半円の、普通の防御用の砲身に変わった。そこからすさまじい加速がかけられ受け止めた光線が瞬間で黒服たちに撃ち返された。その速度は本当に一瞬だ。ツグミさんの砲弾よりもはるかに速かった。しかし、そんなことをしたら黒服たちにモロに爆発が直撃し黒服たちは爆死してしまう。何を血迷ったかツグミさんと思ったが、私の想像は外れた。
光線は爆発した。しかし、それは先ほどの光線の物理的な爆発ではなかった。電気の膜が瞬間的に広がるものだった。これは、あのドゥのマシンが放った相手を麻痺させるボムだ。黒服たちはそれが直撃し痙攣したあと動かなくなった。
「ああ、バレてしまいましたか。残念でございます」
「ふぅ。神経を使った。うまく見つけられた良かった」
これがドゥの狙いだったらしい。破壊力の高い光線を見せ、黒服と私を人質に取りツグミさんの身動きを奪う。そして防御に徹するツグミさんにひたすら光線を打ち続け、そのなかに一発ボムを混ぜるのだ。そうと気づかず、今までと同じ感覚で受けたツグミさんはまんまとボムの直撃を食らうというわけだ。
「始めの一発目からボムにしようかとも思いましたが」
「昨日既に一杯食わせれているんだ。雰囲気で分かるさ。現に最初見極めた上で危険と判断して後ろに逸らしたんだからな」
「そうでございましたね」
「何発も飛び交う中から見極める方がきつかったとも。さて、門番は倒したからな。そちらに乗り込ませてもらうぞ」
「おやおや、これは困りました」
ドゥは実に楽しそうに言う。しかし、その楽しそうな声色もどこか作り物めいている。
とにかく、私たちはクモ型のマシンに歩みを進めた。
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