第16話

黒服たちはご丁寧にも宇宙服も黒かった。そしてヘルメット中の顔もサングラスをかけている。表情は相変わらずない。そして3人それぞれ銃を構えていた。あのごつい銃だ。

「相変わらず辛気臭い奴らだ。おとなしくそこを通せ」

 しかし、やはり黒服たちは答えない。だんまりだ。仕方なくツグミさんが砲身を出し、様子を伺う。その途端に黒服の一人が銃を放った。

「けんかっぱやいやつめ、ん?」

 すかさずツグミさんはその光線の機動を逸らし、後ろへ流した。光線は後ろの工業機械に直撃する。前の光線は軽い火花を散らす程度だった。しかし、今度の光線は機械に当たるや否や、巨大な爆発を引き起こした。巨大な火炎が炸裂し、機械が吹っ飛び、破片が飛び散った。ツグミさんは砲身で自分と私を守った。

「何か変だと思ったが、これは前の痺れ光線みたいな優しいものじゃない。人、いや対軍事兵器レベルの威力じゃないか」

 ツグミさんがそのまま光線を撃ち返していたなら黒服たちは跡形もなく吹き飛んでいただろう。これもドゥの支持だろう。薬を飲むと自分の命を放棄することさえ厭わなくなるようだ。素直に恐ろしかった。

「ようこそ、ここまで追ってくるとはなかなかの執念深さですね」

 私の無線に、ドゥの声が響いた。おそらくツグミさんにもしっかり聞こえているだろう。

「お前、なんのつもりだ。私がそのまま跳ね返していたらそいつらは死んでいたぞ」

「そうでございますよ。この銃は大変危険なのです。そして実に強力でございます。下手なことをしたら後ろの御仁も、彼らも死んでしまいますよ」

「貴様、部下もこいつも人質に取る気か」

「そうでございますね。ですが彼らは殺しても構わないでございましょう。敵ですからね。それともやはり、敵でも人死をお嫌いになりますか」

「ぬぅ」

「ふむふむ。やはり予想通りの気心の優しいお方でございます。ならその性分を存分に利用させていただきましょう」

 黒服たちが再び銃を構える。今度は私に向けていた。これはやばい。

「貴様!」

 ツグミさんがすかさず前に出て私を庇った。黒服たちの銃から光線が放たれる。ツグミさんはそれの方向を逸らす。また、工作機械に当たり派手に爆発が起きた。その破片は地上なら重力に引かれ、空気の抵抗を受け、落下、あるいは減速する。しかし、ここは無重力の真空中なため全く減速することなく銃弾の雨のように降り注ぐ。

「くそ」

 ツグミさんは大きな砲身を展開しそれを防ぐ。しかし、その端を上手くくぐり抜けた破片がツグミさんの肩を切った。ツグミさんの肩に血がにじんだ。対する黒服たちの方も大量に破片が直撃し宇宙服が裂けている。まだ機能に問題はないようだがこんなことを繰り返せばこちらもあちらももたないだろう。

「すみませんツグミさん。やっぱり大変な足手まといになっているようです」

「まったくだ! だから宇宙船で待っていろと言ったのに。やれやれ、弱ったな」

 この状況を打破するにはあの光線を止めなくてはならない。一番手っ取り早いのは撃ちてを止めることだが、この前のように撃ち返すと黒服が死んでしまう。人死はツグミさん的にNG。私もそんなものは見たくない。こういう状況に慣れた人からしたら実に甘ちゃんなのだろうが仕方ない。大体死なないならそれが一番いいに決まっている。

「この前みたいにあいつらが撃つ前に銃を破壊したらどうですか」

「今回の銃は実に弾速が速い。狙ってもいいとこ相討ちになってしまう。そもそも今回はあの銃が私の能力で破壊できる保証もない。ドゥのことだからな」

「なるほど。ではダメですね」

 このままではただ守りに入るばかりでどんどん破片にやられてしまう。しかも私達だけでなく黒服まで傷ついて死んでしまう。最悪自業自得で見捨てるという考え方もあるだろうか。だが、それは確かに最悪の場合だ。連中も感情を殺され、ドゥのいいなりにになっているいわば被害者だ。出来るなら全部丸く収めたいところだ。それに平凡な日常で生きてきた私にはその最悪というのが上手く想像できず、呑み込めなかった。

「さて、どうするか」

「そもそも、ドゥはこの状況を作ってどうするつもりなんでしょうか。ツグミさんが苦しみもがく様を見て楽しんでるんですかね」

「お前の発想力もなかなか黒いな。だが、ドゥはそんな感情に寄った行動はしないさ。私のESPを検証してるというのもあるんだろうが、それを別にして十分に作戦として行っている。そして、その狙いは確かにこのままでは防ぎようがない」

「どうするんですか」

「仕方ない。ドゥとの直接対決まで温存しておきたかったが」

 そう言うとツグミさんは懐から何かを取り出した。それはえらくエッジの効いたデザインをしたヘッドホンのようなものだった。ツグミさんはそれを頭にはめると左側のスピーカーについたスイッチを入れた。ツグミさんは眉をひそめるがやがて目を見開く。

「サーキット・アンリミテッド! 一気にたたむ!」

 ツグミさんはかっこよく言った。 

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