第15話

目が覚めると僕は白い部屋の中にいた。壁から天井まで全部真っ白だ。分かりにくいが、そこそこ広い。僕の横には作りかけの宇宙船とそのパーツ。そして目の前には大きなモニターとその前に立つドゥが居た。

「おや、お目覚めでございますか、ザルネ・シノ」

「ああ、目覚めたよ」

 僕の頭は嫌に静かだった。ここまで僕をさらったドゥを見ても何も感じない。今から無理やり宇宙船を作らされると理解してもこれといった抵抗感がない。僕は薬を打たれたのだと理解した。

「それで、僕はこれを作ればいいのかい」

「ええ、あなたにはそうして頂かなくてはなりません。あなたの仕事です」

「了解だよ」

 仕事だ、と言われるとやるしかない。抵抗する気が起きない。言われた通りにするだけだ。僕は作業を始めた。とりあえず動力炉を完成させなくてはなるまい。

「材料ならいくらでもあります」

 そうドゥが言うと、部屋の壁の一部が開き、大量に物資が流れてきた。材質も形状も様々だ。これなら、問題なく作れるだろう。ふと、モニターに目を向ける。そこにはツグミがあのESPの能力を使いながら通路を走っている姿が映っていた。それを迎え撃つのはセキュリティロボだ。おそらく外面はこの星のものなのだろう。だが、ドゥが大分改造したらしく、ほとんど僕の星のマシンのように動いていた。ツグミはそれに必死に応戦している。

「いやはや、デタラメな現象ですね超能力とは。質量やエネルギーの保存則のことごとくが通用しない。ともすれば無から有を生み出しているようにも見受けられます」

 僕は特に答えない。今は作業に取り掛からなくてはならない。それにドゥの言葉はほとんど独り言だ。母星の権力の頂点にいる人間と僕が話すべきでないし、話す意味もない。今はもうそういう思考だった。彼女のこともしっかりと覚えている。なんにも感じないわけではない。しかし、実に希薄だ。多分、通常より強力な薬を打たれているのだろう。

「ふむふむ、面白い、それに鳥堕とし。あれは理解しなくてはなりませんね。私たちはこの世の全てを理解するのが目標ですからね」

 ドゥはそう言って微笑んでいる。しかし、その笑みに感情は感じられない。こういう場では笑顔を浮かべるということを知識で知っていて、単にそれを実行しているだけといった感じだった。そんなことも僕には関係ない。鳥堕としという言葉も理解はできるが、これといって興味もない。もう何も関係なくなってしまった。彼女のことも、ギャラクティカのことも、母星のことも、ツグミ達のことも。もう何も感じない。今あるのは、ただ目の前の仕事をこなさなくてはならないという感覚だけだった。



 私が駆けつけるとツグミさんは沢山のロボットと交戦中だった。地上で見るセキュリティロボットに似ているが無重力に対応するためか上下の区別がないようだった。上にも下にも足を動かし、器用に壁を走り回っている。ツグミさんは砲身を足場に飛び回りセキュリティロボットを次々と破壊していた。セキュリティロボット程度造作もないようだ。

「大変そうですねツグミさん」

「なっ、お前っ、何で来てるんだ!」

 PSサーキットにはテレパシーというか、無線を傍受するような機能もあるらしく私たちは会話ができる。ツグミさんは私を見て、目をひん剥いて驚きと怒りをあらわにした。

「死ぬかも知れないと言ったろうが」

「しかし、乗りかかった船という言葉があるんですよ。ここまで来たからには最後まで付き合います」

「今からでも戻れ!」

「無理です、退路は塞がれています」

 後ろにもわらわらとロボットが集まり、隔壁が閉じられていた。私が来てから閉じたということは向こうさんもそういうつもりで通したようだ。

「クソっ、やってくれたな」

「ええ、やってやりましたよ、さぁ、進みましょう。状況はどんな感じなんですか」

「ちょっと楽しそうだなお前・・・。セキュリティロボットがわんさと湧いていて、この先の工場区画に連中は陣取ってると読んでる。ロボットは連中がチューンナップしたようだな。異常に動きが良い」

 そう言いながらもツグミさんは次々とロボットを撃退していく。動きが良いといってもツグミさんの相手ではないようだ。

 そうやってロボットを破壊しながらツグミさんは進んでいき、私はその後ろにピッタリとくっついていった。

 そうするとうとう私たちは工場区画に抜けた。ここまでは一本道だった。工場区画は広い作りをしていた。壁一面に材質を加工するための機械がびっしりと張り付き、空間の真ん中を移動するレバーのついた支柱が通っている。それが長々と続いていた。

「見えたぞあれだ」

 ツグミさんが指さした先に、地上で私たちを襲ったクモ型のマシンがあった。機械と機械の間に作られたスペースに鎮座していた。ツグミさんは砲身を作る。私もその肩に掴まりもう飛ぶだけとなったがツグミさんは動かなかった。

「ちゃんとお出迎えしてくれるらしいな」

 見ると、マシンの前にあの3人の黒服がたたずんでいた。

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