第13話

私たちは家に戻るととりあえず一旦休んだ。ツグミさんの体も満足に動かないし、一旦休んだほうがいいと考えたのだ。私はとりあえずインスタントのコーヒーを淹れた。

「どうしましょうか。そもそもあの人たちはどこに行ったんでしょう」

「はっきりは分からないが、ここに残る意味は薄いだろう。連中が飛んでいったのは空だった。だから十中八九宇宙にある母船に行ったと思う」

「宇宙ですか・・・・」

 宇宙は遠い。もう宇宙エレベーターで行けるし、「長期休暇は月面旅行」な時代ではあるが、やっぱり遠い。少なくとも個人が好きな時に好きなように行ける場所ではない。公共交通機関を使ってそれが行く場所にしか行けない。

「宇宙に行くのは心配ない。私も一応船は持っている」

「ああ、そうですね。ツグミさんも宇宙から来たんですもんね」

 宇宙から来るならやっぱり宇宙船がなくては来れない。シノのワームホホールを作るような機械があれば別なのかもしれないが、基本そういうものだ。ツグミさんの文明は進んでいるから、個人で動かす宇宙船もあるのだろう。ならそこは問題ない。

「問題は連中がどこに居るかということだ」

「そうですね。それこそ皆目見当が付きませんね」

「ああ、おそらくレーダーも通用しないだろうからな」

「でも宇宙に異物があって、それが完全に観測されないなんてことがあるんでしょうか」

「まぁ確かにな。レーダーをジャミングしても光学迷彩で姿を消しても、何らかの痕跡は残るだろう。デブリの流れが乱れるとか、電波でなくともあれだけの宇宙船が動けば何かは必ず出る。何かを噴出しなくては推力は得られんからな。まぁ、私がまったく知らない未知の技術を使われていたらお手上げだが」

 確かに宇宙船が動くということはそれなりの何かが稼働しているはずなのだ。ワープなんかすればもっといろいろ出るだろう。しかし、道の電波やなんかが放出されればすぐニュースになりそうなものだがそれっぽい話は聞かない。試しにネットを漁るがやはり見つからなかった。

「なんにもなさそうですね」

「そうかぁ、なにもないかぁ」

「じゃあ一体どうしましょうか」

「うーん、威勢良く切り出したはいいが、これは想像以上にどうしようもないな」

 ツグミさんは腕を組んで唸った。一見煮詰まってしまったように見えるが、時間を置くと妙案が思い浮かぶということがたまにある。私は一旦思考を切り替えるべくテレビを点けた。まだ昼前なためか、主婦向けのワイドショーをやっていた。宇宙特集をやっている。コメンテーターが現地に居るスタッフと通信で会話をしていた。

『見えますでしょうか。全長2000mにも及ぶ巨大さです。これがデブリを回収し、内部で加工、再利用できる資源に変換するわけなんですね』

『すごい大きさですね。まさしくクジラという通称がふさわしいですね』

『はい、形もデブリの回収方法もクジラそのもので、前についた巨大な回収口からデブリを取り込むんですね』

 デブリ回収船の話だ。近々可動する超大型の船で、通称『クジラ』と呼ばれている。星の周りをゆっくりと周回し、デブリを回収し続けるのだ。世の中的には期待を寄せられているが、デブリ回収業者からは目の敵にされているという話だ。テレビでは会話が続く。

『中に人は居るんでしょうか』

『いえ、こちらの船はですね、完全な無人なんです。自立して動き、仕事をこなしつづけるんですね。回収も加工も全て自動で、人間が関わるのは物資の回収だけというわけなんですね』

『それはすごいですね』

 その会話をツグミさんは神妙な顔つきで見ていた。

「デブリ回収船か」

「はい、もうすぐ動くらしいですよ。ずっと月の裏側で建造されてたそうです」

「うーむ、怪しいな」

 ツグミさんは眉を寄せて言う。

「無人で、加工工場からは色んな電波が放たれる、そしてなによりいくらでも物資が揃う」

「なるほど、隠れるにはうってつけですか」

 無人ならば誰かに見つかることはないし、色んな電波が放たれ続けるならこの中何をしようと問題ないだろう。さらに物資が手に入るならシノの作業が実にスムーズに進む。

「全然確信はないが、隠れるとしたらここが妥当な気がする。まぁ、ほとんど勘だ」

「でも、ほかに当てはありませんからね」

「確かにな。ここでぼーっとしていても始まらん。体が満足に動くようになり次第とっとと出よう」

「分かりました」

 私は支度を始めることにした。しかし、宇宙に行くにあたって何を準備すればいいのだろうか。旅行ではないし、戦闘となると私に出番はない。しばし考えて、とりあえずお守りをありったけ持っていくことにした。対するツグミさんはタンスの奥から何やら頑丈そなケースを取り出していた。

「何ですかそれは」

「PSサーキットのリミッターを解除する鍵だ」

「ああ、あれは全力ではなかったんですか」

「そうだとも。脳に負担がかかるから使用は極力控えなくてはならんのだがな。非常事態だ。これで一泡吹かせてやる」

 ツグミさんは不敵な笑みを浮かべた。

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