第12話

ツグミさんの砲身は3つ。それぞれから一気に砲撃がマシンに飛んだ。砲弾はマシンに直撃し、エネルギー球を作り爆発したがマシンの表面には傷一つつかなかった。

「無駄でございますよ。さすがにオリハルコン並の強度はありませんが、10万層の合金を重ねたこの装甲は戦艦の主砲をも耐えしのぎますから」

「クソっ」

 ツグミさんは立て続けに砲撃を繰り返すがマシンはびくともしない。山ほどの火球が炸裂し、あたりがまばゆい光に包まれるが、それほどまでしてもなんの効果もあがらなかった。ドゥはうすら笑いを浮かべている。

「せっかくなので少しお相手致しましょう」

 そう言うとマシンのアームが二つに割れ四本の腕になった。先にはそれぞれ複雑な機構のパーツが付いている。それが、ガチャガチャと変形し、右左の一本ずつが人の手になり、左のもう一本は銃身、もう一方はパラボナアンテナのような形になった。

「殺傷兵器ではありませんから、気負う必要はございませんよ」

「舐めやがって」

 アームの銃身が火を吹く。そこから出たのは光線だった。ツグミさんはそれを躱す。なんらかの危険を感じたために砲身に乗って一気に空に飛んだ。そのツグミさんが居た場所を通過し、光線は地面に着弾する。かに思われた。しかし、それは地面の付近でぐるりと方向を変え、空へ逃げたツグミさんに飛んだ。

「なにっ!?」

 すかさず再びツグミさんは別の方向に飛ぶが、光線はそこへも方向を変えてくる。光線のくせに誘導ミサイルのようにツグミさんの後をしつこく追った。

「なんだこれはっ」

「先にあなたに力学的なロックをかけましてね。簡単に言うと磁石のような作用を持っているのでございますすよ。心配しなくても神経を麻痺させる程度のものですよ」

「むううぅっ」

 ツグミさんはそれでも逃げ続ける。光線とツグミさんの速度は僅かに光線が速いようだった。しかし、逃げるツグミさんにイニシアチブがあるにで何とか逃げ切っている。やがて、光線は徐々に掠れとうとう消滅した。

「ふん、もって7秒ってところか」

「ええ、そんなところでございます。さすがに随分と上手くお逃げになる。超能力を使いこなしているのですね」

「ああ、長い付き合いだからな」

「私たちにはどうしても解明できない能力でございますから。実に興味があります」

「ふん、そうかい。ところで、これでお仕舞いってことはないんだろう」

「もちろんでございますよ。一発ではさすがに仕留めきれませんね。ですから・・・・」

 マシンの銃身そ先が光り輝く。まるで何かをチャージしているかのようだ。

「もっと量を撃ちましょう」

 そうドゥが言うと銃身から山ほどの光線が一斉にバラバラの方向に放たれた。何十発という量だ。

「クソっ」

 ツグミさんは全力でそれをかわそうと飛び回った。しかし、バラバラの方向に放たれた光線はそれぞれ四方八方からツグミさんを狙った。どうやら光線によって誘導性や、速度にバラツキを作ってあるらしく、まったく動きに脈絡がない。ただ、単純に背後を追い続けてくるならまだ逃げやすかっただろうが、これでは難易度が跳ね上がっていた。

 しかし、それでもツグミさんはその間をすさまじい動きでくぐり抜ける。追撃を振り切り前から横から来る光線をかわし、入り乱れるそれらのわずかな隙間に体をねじ込んで7秒間を耐えきろうと動き続ける。

「良く動かれます」

 しかし、マシンは次弾の装填に移っていた。なれは何発でも撃てるもののようだ。そうなるとツグミさんのスタミナが切れるとゲームオーバーだ。

「ちぃっ!」

 ツグミさんは動きながら砲身を展開し、放った。狙ったのは今まさに光線を発射しようとしているマシンのビームウエポンだ。

 砲弾は真っ直ぐとビームウエポンに飛んだ。もう、あとわずかで届くというところ、しかし、そこで砲弾は別のアームに阻まれた。アームの表面に着弾し砲弾は青い光球として炸裂する。アームには傷は付いていない。しかし、

「いけませんね。弱点がばれてしまいました」

 今までマシンはどこかを守るなんてことはなかった。表面を合金の層で覆われたマシンは絶対の防御を持っているのだ。しかし、どうやらあの銃身にはそれがないらしい。複雑な兵器部分には特殊な加工は出来ないのかもしれない。あそこなら破壊できるそうだった。

そうと分かればツグミさんの取る行動は決まっている。ツグミさんは猛スピードで動きながらも次々と銃身に向けて攻撃を加えた。埋め尽くされる光線の合間を抜けて銃身にたどり着いた砲弾は、しかしアームに阻まれてしまう。

「なら、これでどうだ」

 ツグミさんは一気にマシンに向かって飛んだ。何十発もの光線が真正面から襲いかかるが、ギリギリでそれをかわし、ツグミさんはマシンの股下をくぐり抜け、反対側に回った。するとツグミさんを追っていた光線はいっぺんにマシンに降り注いだ。

 いくつかはそれもすり抜けてツグミさんを追うが大部分は命中していた。しかし、そんなものに動じるマシンではない。装甲はもちうろんのこと、弱点となっていたウエポンも防御されている。しかし、これは単なる目くらましに過ぎなかった。ツグミさんは後ろに回り込むと、方向を急転換し一気にマシンの上部、まさにアームが覆い隠してるビームウエポンの真上を取った。そこにはアームとウエポンの間にわずかに隙間が発生している。

「喰らえ!」

 ツグミさんは砲身を展開する。アームとウエポンの隙間に狙いを付け、近距離で直接砲弾を打ち込む。

「そうは行きませんよ」

 しかし、その時ツグミさんの背後で光がはじけた。今度は目の前のビームウエポンによるものではない。その反対側、沈黙していたパラボナアンテナのようなウエポンだ。その先端から光球が放たれ、すぐに炸裂したのだ。それはその周囲一帯に巨大な電気のフィールドを一瞬で形成した。ビリビリというやかましい音が響き渡り、ものの一秒も経たずにそれは消失する。

 あとにはマシンと落下するツグミさんが残った。ツグミさんはそのまま地面に落ちる。しかし、スレスレで微弱ながらも能力を使い衝撃を和らげた。落下したツグミさんはそのまま動かなかった。しかし、息はあるようだ。体が麻痺しているだけのようだった。

「右手はランチャー、左手はボムといったところでございますね。これで遠距離も近距離も対応可能でございます」

 ドゥが言った。ドゥはこの一連のやりとりの間一度も中に隠れることさえしていない。つまりあの光線の雨も、電気フィールドもまともに受けていることになるがピンピンしているのだ。明らかにまともな人体ではない。

「くそ。完敗だな」

「ええ、その通りでございます。十分に楽しませていただいきました。私はこのあたりで失礼させていただきます」

「待て!」

「いいいえ、待ちません。ここであなたに従うだけの合理的な理由は見当たりませんから」

 マシンの体が少し浮く。そののちに足にそれぞれ付いているブースターが点火した。マシンは白煙を上げながらどんどん上昇していく。私たちにはそれを見守ることしか出来なかった。

 私は急いでツグミさんに駆け寄る。見ていることしかできなかった自分が歯がゆかった。

「大丈夫ですか。ツグミさん」

「大丈夫だが、体が動かんな。とにかく一旦退却だ。策を練ろう。警察も集まってくるだろうしな」

「ああ、やっぱりこれはほかの人にも見えていたんですね」

「ああ、この星の連中にどう思われようがなんの影響もないから無駄なことはしないんだろう。しかし、あいつらはいいが私はまずい」

「そうですね。とりあえず家に戻りましょう」

 私はツグミさんの腕を肩に回して支えるとえっちらおっちら歩き始める。ツグミさんにはまったく力が入っていない。表情は実に悔しそうだった。下唇を噛み締めている。

「必ずシノを助け出しましょう」

 私は言った。

「ああ、もちろんだ」

 ツグミさんは応えた。

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