第5話
シノは転送装置というものでゴミ山を瞬時に自分の部屋に送った。そうして私達もシノの工作室に移動した。工作室はやはり押入れの奥にあった。異次元と言うから何か妙な色合いの世界が延々と広がっているような、得体のしれないものを想像していたがそんなことはなかった。普通の工作室だった。ただ、あの部屋の押入れの奥にあるにしては明らかに広いということは異常であった。やはり異空間なのだと思った。
ゴミ山は路地裏にあったままの状態で工作室の真ん中にあった。
「あー。もとに戻ってしまった・・・・」
シノが言った。やるせない口調だった。
「なにをげんなりしているんだ。お前が自分でまた作ると言ったんだろうが」
「うん、そうだね。そうだったね。はぁ」
シノは力ない足取りでゴミ山に近づいた。
「これは完成度的には何%くらいなんだ」
「大体40%ってところかな。大体のパーツは出来てるし、それを組み上げれば形はできるんだけど、あとは動力炉だね。それがめんどうでさあ」
「どんな動力炉にするんだ。まさか固体燃料ってことはないよな。核融合炉もこんなところで作れるとは思えんし。空間張力推進か?」
「いや、縮退炉だよ。僕の星に飛ぶならワープしなくちゃならないから、エネルギーが要るんだ」
「縮退炉ってお前、ブラックホール作って物質丸々エネルギーに変えるやつじゃないか。私の文明ではまだ理論上の産物だぞ。そんなものこのちっちゃい工房で作れるのか」
「いや、ぶっちゃけると僕の星と僕の技術が合わされば何でも作れるんだ。この大きさでも大気圏を突破できる固体燃料も、核融合炉もウランを素粒子から合成できるから不可能じゃない」
「マジかよ。お前の星すごいな」
「僕の星と僕がすごいんだ。間違えないように。ていうか空間張力推進ってなんだい。聞いたこと無いよ」
「有り体に言えば空間をゴムみたいに引っ張って、戻る力を推進力に利用するんだ。まぁ、私の文明でも試験段階だけどな」
「まじか、それもすごいな」
二人は何か私に分らない話をしていた。異星の科学はさっぱりだ。核融合炉ならロケットに積んであるエンジンだからよく聞くが、それ以外はさっぱりだった。大値核融合エンジンをこんなせいぜい8畳間ほどの空間でつくるなんてのは発想が全然違った。
私にはさっぱりなのでとりあえず聞き流すことにした。とりあえずシノが見かけと性格によらずすごいやつだということは分かった。
「で、そんなものどうやって作るんだ。ブラックホール作るんだろ」
「そうなんだよ。いろいろなものが必要になるんだ」
「とんでもないレアメタルとかか」
「うーん。とりあえずマイクロブラックホールを作らなくちゃならない。単純なので行くと粒子を超高速で衝突させて作るんだけど、そんなのは機材が複雑になる。だから単純に普通のブラックホールの再現で行こうと思うんだ」
「じゃあ恒星の爆発を再現するのか。そんなことして大丈夫なのか」
「普通にそんなことしたら大丈夫じゃないよ。だから爆発を起こさずに中性子をブラックホールに変えるんだ」
「そんなことできるのか」
「できるのさ、僕と僕の星の技術ならね」
シノはキメ顔で言った。
「ああ、すごいなお前の星」
ツグミさんは取り合わなかった。
「それで、いろいろ機材が居るんだよ。大体はホームセンターで手に入る」
続けるシノだったがどことなく元気がなかった。シノはさらさらとメモ用紙に品物を書いていく。確かに簡単にてにはいりそうなものばかりだった。シノは書き終わるとツグミさんに紙を渡した。
「これを頼むよ。僕が外に出ると連中がどこで絡んでくるか分らない」
「ここは大丈夫なのか」
「サーチにかからないフィールドで覆ってあるからね。ここは安全なんだ」
「分かった。じゃあ買い揃えてきてやる。でかい荷物もあるから車がいるな」
「坂井さんに借りましょうか。今日の配送も終わってる時間です」
「そうだな。なら行ってくる」
「頼んだ。僕はその間に残りの作業を進めるよ」
そう言うとシノは勢い良く工具を握り、ゴミ山に挑んでいった。私たちは「頑張れ」と声援を送りアパートを出た。何だかんだ、始めはやる気がなさそうだったが、ツグミさんが乗せると一気にやる気が出たようだった。単純な人なのかもしれない。でも、頑張るというのは良いことだと思う。私も出来る限りの手伝いをしようと思った。
「なんというか、良く分からない注文ですね」
「必要なのは素材だけなんだろ。あとは組み替えてどうとでも利用するのさ。あとは工具か」
私たちは地元のホームセンター『トミフク』に来ていた。シノの注文は1mの鉄製の板を5枚だとか、アルミホイルだとかまんま素材のものと、ピンセットや電動ドリルなどの工具が主だった。こんなものでブラックホールを作れるのかいささか疑問だった。というかまずブラックホールを作るという言葉から疑問だった。
「そもそもブラックホールなんて作れるんですか」
「知らん。少なくとも私の文明では作れない。だが、シノの文明では可能なんだろう」
「作って大丈夫なんですか」
「極小のものなら大丈夫だとかなんとか。私も詳しくはないな」
「そんなに小さくて使い物になるんですか」
「それもよく知らんが、でかいからいいというものでもないらしいぞ、あれは」
「へぇえ」
返答を聞いた所でよく分からなかった。なんでも良いからとりあえずおつかいを済ませねばならない。とりあえずカートには金属製の板やら、棒やらが大分揃った。なのでとにかく重い。押すのも一苦労だった。
「重い、とても重いです。ツグミさん。・・・ツグミさん?」
気づくと隣に居たツグミさんが居なくなっていた。辺りを見回すとペットコーナーに居た。ホームセンターに来るととりあえず寄ってしまうのがペットコーナーである。下手をすれば余程暇な時にここだけを目的に来てしまうほどだ。ただ、ロボットのものと比べるとやはり高いので眺めるのが基本だった。
「何をしてるんですか。早く用を済ませて帰りましょう」
「見ろ、パグだ。このブサイクなのがいいんだよ」
「そうですね。かわいいです。でもそれより早く戻りましょうよ」
「あっちに居るのはコーギーだな。うんうん」
ツグミさんは頷いている。私は犬に詳しくないので名前を出されてもよく分からなかった。不細工とか、足が短いとか程度である。
「ツグミさーん」
「おい、あと10分で犬との触れ合いが出来るらしいぞ」
「え。あ、本当だ」
「それだけやって帰ろう」
「まったく、それだけですよ」
私は仕方なく触れ合いだけを了承した。そして、その後犬と1時間にわたって触れ合い、すっかりテンションの上がった私たちはその他のペットコーナーもじっくり眺めた。どんな動物を飼いたいかについて暑く議論をかわし、そのためのケースやペットフードをゆっくり吟味した。そうして我に返ったのは来てから3時間後だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます