第3話

小太りは見かけによらず早かった。黒服達も早かった。いや、早すぎた。明らかに車並みの速度で走っていた。私たちは一瞬で後ろ姿を見失った。どう見ても人間ではなかった。

「仕方ない。私の砲門を使おう」

 そう言うとツグミさんの横でパチパチと青い火花が散り、光のレールが出来上がる。ツグミさん曰く超能力にもいろいろ種類があるのだそうだ。ツグミさんの文明ではPSサーキットっという技術により誰でも手術さえすれば超能力が使えるようになるらしい。その能力は一つ一つの特性に特化したものになるのだそうだ。そしてツグミさんの能力はこのように砲身を作りものを撃ちだす砲撃の能力なのである。

 ツグミさんは私の肩を背負い砲身を自分の足元に移動させる。

「行くぞ!」

 砲身からまた火花が散り、そして私達は一気に空高く撃ちだされた。

「うわぁあ」

私は情けない声を上げる。周りの景色が吹っ飛び、気づけば街を見下ろせる空高くに居た。この移動方法にはいつまで経っても慣れない。怖くて全身に冷や汗が滲んでいた。これだけの加速をしても失神しないのも超能力の力なのだとツグミさんが得意気に語ったことがる。

 下を見ると随分先に小太りと黒服が居た。まだ小太りは追いつかれてはいなかったが、どうやら若干黒服のほうが早いらしい。もうすぐ追いつかれそうだった。

「まずいな。助けるか」

 ツグミさんの足元に再び砲身が現れる。そして再び私たちは一気に吹っ飛ぶ。気づけば小太り達の後ろ側の空中に居た。もう間もなく追いつかれる所だ。諦めたのか小太りは振り返り。懐からおもちゃの銃のようなものを出していた。しかし、相対した黒服たちはさらにごついやけにすべすべした銃を出していた。

「あれでは敵わんだろうな。よし」

 ツグミさんは砲身を作り、その先を小太りに向けた。そして私たちは発射され、小太りの横に一瞬で到着する。しかし、勢いは消えない。コンマ一秒も無いうちに地面に激突するという時、ツグミさんは小太りの首根っこを掴み、一瞬で砲身を作って私たちは再び空に吹っ飛んだ。小太りがいた辺りには黒服たちが放った謎の光線が通っていた。

「間一髪だったな」

「死ぬかと思いました」

 私はもう汗で全身がじんわりとしていた。ツグミさんは次々砲身を作り一気に黒服たちから距離を離した。もう連中の姿は見えなくなってしまった。逃げ切ったようだ。

「あんたたちは何だよ」

 ツグミさんの右手にから声がした。小太りだった。状況が飲み込めずおたおたとしている。

「私たちはお助け屋『テラリアン』。人を助けることを生業としている。あのゴミ山をどうにかするよう依頼されてな。その調査の折お前が黒服に追われている所に出くわしたんだ」

「お助け屋? 何だそれ。うさんくさいぞ。ていうか、見たところお前この星の人間じゃないな。その能力はオリオン船団の人間だろう」

「そういうことだ。お前と同じ宇宙人さ。あのゴミはなんだ。とっととどかしたいんだが、宇宙船を作ってどうするつもりだったんだ」

「この星から脱出するつもりだった。僕は追われる身の科学者でね。さっきの連中もそういうわけさ」

「ほう、それは大変だな。その理由はおいおい聞くとして。まず何であんな所に放棄したんだ。何か非常事態でも起きたのか」

 ツグミの問に小太りは押し黙った。難しい顔をしている。何か深い深い考え事をしているようだった。その重い空気に私達も黙って返答を待った。

「やる気がね、途中でなくなったんだよ」

 私たちは言葉が出ず、なお押し黙った。



「どうぞ。暑いから気をつけてね」

 そう言って小太りの男、もとい宇宙人ザルネ・シノは私達の前にお茶を置いた。ここはシノの住むアパートの一室だった(ちなみにザルネが名前でシノが苗字らしかった)。アパートはゴミ山のある裏路地から4,500mのところにあった。

 私達の前にシノが座り自分もお茶をすすった。

「で、なんだったか。お前は要するに宇宙船を作るのに飽きてあそこに捨てたんだな」

 ツグミさんが切り出した。さっきより口調が雑だった。

「ち、違う、飽きたんじゃないよ。ただ作るのがどんどん面倒になってきたんだよ」

「どっちでもいいんだよ。とにかくあれは邪魔なんだ。もう作る気がないなら撤去させてもらうぞ」

「そ、それは困るよ。僕が星に帰る手段がなくなってしまう」

 シノは身を乗り出す。

「じゃあとっとと作れ! そもそも何でお前はあの男たちに追われてるんだ」

「話せば長くなるんで要点だけ言うとだね。僕はある重要機密を持っていてね。それを母星に届ける途中なんだ。連中はそれを狙っているのさ」

「何だ。すごく真面目な、ともすれば危険な事情を抱えてるんじゃないか。ならなおさらさっさと船を作って星に帰るべきなんじゃないのか。やる気がないとか言っている場合じゃないぞ」

「いやでも、その機密も押し付けられただけっていうか、僕はそもそも了解すらしてないんだよ。ある意味で被害者なわけで」

「んなこと言ってる場合じゃないだろうが。お前の肩にいろいろ重いものがかかってるんだろう」

「いやでも、背負いたくて背負ったわけじゃないし」

 シノはもにょもにょと呟いていた。

「ダメ人間かお前は! もっとまじめに自分の状況と向き合ったらどうなんだ」

「わ、分かってるよそんなことは。ただ、今はちょっと気分が乗らないっていうか」

「ええい、面倒だ。もうあれは撤去する。決めた。行くぞリカ」

 そう言ってツグミさんはすっくと立ち上がる。眉間にしわを寄せイライラした面持ちだ。

「ま、待った! 分かった! 作る! 作るよ!」

 シノはツグミさんの足にしがみついた。必死の面持ちだった。あの宇宙船が大事なものであることは真実のようだ。

「本当だな? 本当に作るんだな?」

「作るよ! 作るとも!」

「分かった。ならまず、あれを取り返しに行くとしよう」

「ええ? 取り返すって・・・」

「あの黒服共はどうせあの宇宙船の周りを張ってお前が現れるのを待っている。ぶちのめして取り返すしかない」

「ああ、なるほど」

「分かったら行くぞ」

 そう言ってツグミさんは今度こそ玄関に向かった。私も後に続く。

「待って、それなら準備しなきゃ」

 そう言ってシノは押し入れをごそごそといじり中に入っていった。そしてしばらくでてこくなった。

「その中が異空間と繋がっているんだろう。あいつの研究所というわけだ」

「ははぁ、なるほど」

「やっぱり反応が薄いな」

 私たちはその後たっぷり20分待たされた。ツグミさんがシノにいくつか文句を言った後、私たちはアパートを出た。黒服たちとの戦闘となるとかなり荒事になるだろう。私はそれなりに気を引き締めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る