第2話
「それで! 朝ジョギングに出たらいきなりあれでしょう! もうビックリよ!」
「ああ、そうですよね。あんなのが突然あったら」
「そうなのよ!」
ツグミさんはまくしたてる松門さんに押し負けていた。松門さんが有名人なのはこのようにとにかく元気がいいからである。悪い言い方をするならとにかくやかましいのだ。そのやかましいテンションで町内の噂や愚痴を述べてくるので付き合う方は大変に体力と精神力を消耗する。そのくせに顔見知りとなれば誰かれかまわず話しかけるというスタンスの持ち主である。悪い人ではないのだがきついのだ。
「それでその、あのゴミが現れたのは何日前でしょう」
「それで、それからいろんな人に言って回ったわけ。でも誰も行動しようとしないでしょう?」
「あの、すいません。あのゴミは何日前からありましたかね」
「ええっ?」
松門さんは耳に手を当てて聞こえないジェスチャーをする。
「あのゴミが現れた日にちを知りたいんですよ」
「ああ、ごめんなさい。日にちね。はいはい。あれはそうね。燃えるゴミの日だったから水曜だったわね」
「なるほど。じゃあ二日前ですね」
「そういうことね。それで話は戻るけど」
「あ、あの。それとあのゴミの周りで見かけない人とか居ませんでしたかね」
「見かけない人? そうねぇ。一回男の人が居たのを見たわね。ゴミが現れた日の夕方だったわ。若かったわよ。二十歳そこそこッて感じ。若いころの畑谷剛に似てたわ」
畑谷剛とは中年層に人気の俳優である。芸歴40年のベテランである。
「なるほど。ありがとうございます」
「それで話は戻るけど」
「あ、すいません。私達調査に戻らないとだめなんですよ」
「そう言わないで。お茶も今用意しようと思ってたのよ」
「いえ、本当にすいません。仕事なもので、それでは」
そう言ってツグミさんはそそくさと立ち去る。私もそれに続いた。後ろで松門さんが呼び止めていたが軽く会釈をしつつ足は止めない。角を曲がり姿が見えなくなったところでようやく私たちは止まった。
「なかなか大変だったよ」
「いえ、ツグミさんは大分上手くやったと思います」
「それにしても見慣れない男が居たというのは収穫だったな。その男が異星人の可能性がある。また現れる可能性も低くはないだろう」
「じゃあ、張り込みますか」
「そうしよう」
私たちはとりあえず、貼りこみといえばアンパンと牛乳だということで、コンビニに向かってから神社の裏通りに戻ることにした。
私達が戻ってもゴミ山はゴミ山のままだった。目当ての男も居なかった。裏通りは閑散としていた。ただし、さっきまでとは明らかに違った。何故なら黒服の男が3人居たからである。
「なんでしょうあの人達」
「なんだろうな。あれは」
私たちはアンパンをかじりながら物陰から様子を伺っていた。男たちはゴミ山を謎の機械で計測したり、部品を拾ってコンテナに収めたりしていた。よく見ると通りの向こうに車が一台止まっていた。一昔前の電気式のものだ。
「どう見ても普通の人達じゃないですね」
「多分、あれが何か分かっている連中だ。宇宙人かもしれんな」
私達は出るに出られない。出て行って何が起こるかわからない。あの男たちの目的も分らない。宇宙人なら何か危険もあるかもしれなかった。とりあえず様子を見るのに徹底する。
その時だった。
「あああ、お前ら」
私達のすぐ隣で声がした。見ると小太りの男が立っていた。男は黒服の男たちを指差してわなわな震えていた。それに黒服たちも気がついた。小太りの男を見るとゴミ山を調べる手を止めて、小太りの男に黙って歩き始めた。
「来るな! こっちへ来るなよ!」
小太りは叫ぶが男たちは聞こえてさえいないかのように黙って距離を詰めてくる。
「くそぅ!」
小太りはとうとう走って逃げ出した。それを見ると黒服たちも走りだした。すごい勢いで私達の横を通り抜けていった。私たちはそれを黙って見送った。私たちは大体の状況が飲み込めた。
「あの小太りの人が件の青年ですね」
「そして、何らかの理由であの黒服共に追われているようだな。仕方ない、追うぞ」
「はい」
私達も4人を追って走りだした。しかし、私たちは疑問が一つあった。
「全然高畑剛に似てませんでしたね」
「痩せたら目元の辺りがギリギリ似てるかもしれん」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます