ギャラクティカ

第1話

コタツに入っていた。その上のみかんを食べていたのである。今日は日曜で、テレビでは時事ネタを芸能人がやんややんやと話すバラエティが流れていた。私はぼーっとそれを眺めていた。これといってやることもなく暇だった。

「ただいま」

 玄関が開かれ声がした。この家はせまいので居間から玄関がすぐである。

「やれやれ、大変だよ」

 入ってきたのはツグミさんだった。今日もパーカーにジャージのズボンというだらしない格好だ。適当に切りそろえられた短髪はヘルメットのせいで潰れていた。「やれやれ」と言いながらスーパーの袋を冷蔵庫の前に置いた。

「おかえりなさい、ツグミさん。何かあったんですか」

「いやね、サトー屋でいつも並んでた合成芋天がなくなって、代わりに天然物の芋を使ったコロッケを並べ始めたんだ。高級志向の時代に迎合したんだろう。安くてうまい芋天がなくなっては晩飯のクオリティが下がってしまう」

 「参った参った」と言いながらツグミさんは買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていく。サトー屋とは私達がいきつけのスーパーである。原付きで5分ほどの距離にある。ご当地チェーン店で、個人的にアイスの品揃えが良いのが高得点のスーパーだ。芋天はツグミさんの好物だった。配合が店独自のもので普通の合成芋天とは味が違うのが特徴だった。

「目玉商品で好きな人も多いでしょうから、そのうち復活しますよ」

「だといいんだが。そうだ、仕事の話があったぞ」

「どんな仕事ですか」

「神社の裏通りは分かるな」

「はい、諏訪神社ですか」

「そう。あそこに粗大ゴミがいくつも不法投棄されたらしくてな。それをどうにかして欲しいそうだ」

「なるほど」

 私たちは便利屋だった。いや便利屋というのも違うだろう。ツグミさん曰く「お助け屋」である。お助け屋『テラリアン』というのが一応の看板だ。困っている人を助けることを生業としている。普通の人が聞いたらアバウトかつ胡散臭い謎の仕事だ。始めたのはツグミさんで、自ら困っている人を助けたいというピュアな理由がもとである。私はその助手のアルバイトをしている。収入など微々たるもので殆ど仕事とは呼べない。しかし、最低賃金ながら私の給料は支払われている。普通なら有り得ないことだが有りえるのである。

「それにしても芋天がなくなったのは痛い。この星に来て一番うまい食べものだったからな」

 何故ならツグミさんは宇宙人だからである。はるか彼方の星から、住める星を探して出発した船団の住人なのだ。そして、その文明の力で超能力も持っている。ツグミさんはその船団からこの星の調査員として派遣されているのだ。そしてこれらは私以外の人間には秘密にしている。

 そういうことで金のやりくりやらを無理やり良くしているのだ。もらっている金も違法行為によるものなのではないかと私は常々心配しているが、ツグミさんは「その心配はない」といつも言うのだった。

「今から行くんですか」

「ああ、さっさと見に行こう。暇だろう」

「いえ、テレビが。それに今日は日曜です」

「そういう理由か。そうだな。休日は大事だ。無視できんな」

 ツグミさんはこめかみに指を当てて悩んでいた。まさにどうでもいいことだったがツグミさんは真剣であった。労働のあり方に厳しい人からすれば私の発言は正しかったのだろうが正直適当な発言だった。

「分かりました。行きましょう。ツグミさんの言うとおり暇ですよ、私は」

「なんだいいのか。コロコロと意見を変えよって。自分の発言には責任を持て」

「すいませんすいません」

「しかたのない奴だ、まったく」

 ツグミさんは若干ムッとした。

 私は適当に上着を取り、ツグミさんはストーブなんかの火の元を確認した。それから二人で玄関を出た。


「こいつはなかなかのものだな」

「そうですね。粗大ごみっっていうから冷蔵庫とかの家電製品を想像してました」

 諏訪神社の裏取りにやってきた私たちは捨ててある件のものを見て仰天した。閑静な住宅街の裏通りに捨ててあったのは得体のしれない機械の山だった。ボルトやらコードやらの細かいものから、得体のしれない謎の機械まで色んな物が散乱している。あきらかに普通の粗大ごみではなかった。

「なんですかね、これ」

「うーむ。見たところ、どうやら宇宙船の部品だぞこれは」

「宇宙船ですか?」

「ああ、それもこの星のではないな」

「部品は見たことあるようなものばっかりですけど」

「この星の部品を使ってはいるがブツの構造が違うな。パッと見で怪しまれないようにでもしてるんだろう」

 そう言うとツグミさんは部品を拾ってまじまじと見た。それからでかい機械に近づいてガチャガチャといじり始める。

「ツグミさんの仲間のものってことですか」

「いや、別だろうな。宇宙人と言っても私達だけじゃないさ。私達の文明でもいくつかの種族は確認されている。私達の船団と交易を結んでいる連中も居るしな」

「へぇえ。いろいろあるんですね」

 私は適当に相槌を打った。

「お前はホントこういう話を聞いてもリアクションが薄いな。普通もっと驚くもんだろう」

「まぁ、そんなに興味ないですから」

 普通の人はどうだか知らないが、私は宇宙人とかそう言ったものにまったく興味がない。なんなら宇宙にも興味が無い。こないだ宇宙船が太陽系の外側に到達したというニュースを聞いた時もこれといって感想はなかった。「おお、良かったな」という程度であった。

「宇宙はいいぞ、まったく。まぁ、それはいいとしてなんのつもりでこんなものをこんな所に置いたかだな。これといった外傷もないし壊れたというより作りかけといった感じがある」

「他に作ったから要らなくなって捨てたとかですかね」

「異空間の中で作っていてその空間が何らかの理由で弾けてそこから出てきたということもあるかもしれないな」

 ツグミさんは「ふーむ」と唸りながら顎を撫でる。

「コタツに入っていた。その上のみかんを食べていたのである。今日は日曜で、テレビでは時事ネタを芸能人がやんややんやと話すバラエティが流れていた。私はぼーっとそれを眺めていた。これといってやることもなく暇だった。

「ただいま」

 玄関が開かれ声がした。この家はせまいので居間から玄関がすぐである。

「やれやれ、大変だよ」

 入ってきたのはツグミさんだった。今日もパーカーにジャージのズボンというだらしない格好だ。適当に切りそろえられた短髪はヘルメットのせいで潰れていた。「やれやれ」と言いながらスーパーの袋を冷蔵庫の前に置いた。

「おかえりなさい、ツグミさん。何かあったんですか」

「いやね、サトー屋でいつも並んでた合成芋天がなくなって、代わりに天然物の芋を使ったコロッケを並べ始めたんだ。高級志向の時代に迎合したんだろう。安くてうまい芋天がなくなっては晩飯のクオリティが下がってしまう」

 「参った参った」と言いながらツグミさんは買ってきた食材を冷蔵庫に詰めていく。サトー屋とは私達がいきつけのスーパーである。原付きで5分ほどの距離にある。ご当地チェーン店で、個人的にアイスの品揃えが良いのが高得点のスーパーだ。芋天はツグミさんの好物だった。配合が店独自のもので普通の合成芋天とは味が違うのが特徴だった。

「目玉商品で好きな人も多いでしょうから、そのうち復活しますよ」

「だといいんだが。そうだ、仕事の話があったぞ」

「どんな仕事ですか」

「神社の裏通りは分かるな」

「はい、諏訪神社ですか」

「そう。あそこに粗大ゴミがいくつも不法投棄されたらしくてな。それをどうにかして欲しいそうだ」

「なるほど」

 私たちは便利屋だった。いや便利屋というのも違うだろう。ツグミさん曰く「お助け屋」である。お助け屋『テラリアン』というのが一応の看板だ。困っている人を助けることを生業としている。普通の人が聞いたらアバウトかつ胡散臭い謎の仕事だ。始めたのはツグミさんで、自ら困っている人を助けたいというピュアな理由がもとである。私はその助手のアルバイトをしている。収入など微々たるもので殆ど仕事とは呼べない。しかし、最低賃金ながら私の給料は支払われている。普通なら有り得ないことだが有りえるのである。

「それにしても芋天がなくなったのは痛い。この星に来て一番うまい食べものだったからな」

 何故ならツグミさんは宇宙人だからである。はるか彼方の星から、住める星を探して出発した船団の住人なのだ。そして、その文明の力で超能力も持っている。ツグミさんはその船団からこの星の調査員として派遣されているのだ。そしてこれらは私以外の人間には秘密にしている。

 そういうことで金のやりくりやらを無理やり良くしているのだ。もらっている金も違法行為によるものなのではないかと私は常々心配しているが、ツグミさんは「その心配はない」といつも言うのだった。

「今から行くんですか」

「ああ、さっさと見に行こう。暇だろう」

「いえ、テレビが。それに今日は日曜です」

「そういう理由か。そうだな。休日は大事だ。無視できんな」

 ツグミさんはこめかみに指を当てて悩んでいた。まさにどうでもいいことだったがツグミさんは真剣であった。労働のあり方に厳しい人からすれば私の発言は正しかったのだろうが正直適当な発言だった。

「分かりました。行きましょう。ツグミさんの言うとおり暇ですよ、私は」

「なんだいいのか。コロコロと意見を変えよって。自分の発言には責任を持て」

「すいませんすいません」

「しかたのない奴だ、まったく」

 ツグミさんは若干ムッとした。

 私は適当に上着を取り、ツグミさんはストーブなんかの火の元を確認した。それから二人で玄関を出た。

まぁ、こんなガラクタ眺めていてもラチが開かんな。依頼主の松門さんに聞いてみるか」

「ああ、松門さんが言ってきたんですか」

 松門さんとはこの通りの向こうに住んでいるおばさんである。町内会でもよく顔を合わせる人だ。近所では有名人である。

「ちょっと行くのが面倒ですね」

「ああ、正直面倒だ。だが仕事だから行くしか無い」

 ツグミさんもげんなりしていた。私たちは重い足を無理やり動かして松門さんの家に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る