第8話 女剣士みさと登場 ついでに蛙も やっとファンタジー小説らしくなってきました

奉行所から少し離れたところで、息せききって走

ってくる男に出会った。


道場着を着こんでいるので、どこぞの門下生か。


少し見覚えのある面構えだが・・


そう、いぶかしんでいると、一時は通り過ぎた男

が、慌てて戻ってきた。


「あ・・やはり幻十郎殿だ。これはよかった。

 大変です、みさとさんが一大事なんです」


「みさと殿が?」


みさととは、若くして、女だてらに道場を切り盛

りしている、女剣士だ。


幻十郎もこの道場の門下生で、その昔、道場の跡

目騒ぎでやめた経緯があった。


「道場破りです」


「道場破り?、しかし、みさと殿の実力ならば

 、そうそう遅れをとる相手もいませんでしょ

 うに」


みさとの腕は、幻十郎が認めるほどの腕前だ。


そこいらの生半かな腕で立ち向かえば、まずは叩

き伏せられる。


それよりも、みさと殿が立ち会わずとも、あの道

場には、四天王と呼ばれる剛の者がいるはずだ。


たかが、道場破りでさほどうろたえる必要もなか

ろうに。


「大前さんが打ちすえられまして、他に四天王

 の方がおられず、今みさと様が直接お相手さ

 れているのですが・・形勢が・・」


大前は、四天王の一人だ、その大前がやられたと

なると、相手はそうとうの手練。


ならば、たしかに、みさとでも危ないかも知れない。


二人は、急いで道場に向かった。


傷口が痛むかとも、思われたが、こうして実際に

走ってみると、まったく痛まない。


それよりも驚くのは、身体が妙に軽いのだ。


まるで、跳ねるように走る事が出来、気がつけば

、幻十郎のみが一人、道場に先着してしまった。


遅すぎるかも・・・との懸念もあったが、幸い、

まだ、道場からは激しい気合の声が飛んでいる。


間に合った。

安堵感が流れる。


道場内に入り、眺めると二人は対座したままだ。


互いの息が荒いのは、相当打ち合ったものと思わ

れる。


突然、頭の中に可愛い声が響いた。


「腕をへし折るつもりだよ、あの男」


ん?・・幻十郎は頭を振ってみた。

幻聴か?


「なにしてるんだよ、次の気合であの男、突き

 を繰り出し、倒れた女の腕をへし折るつもり

 だよ」


誰だ・・とは思ったが、確かに言われてみれば、

間違いなくそんな雰囲気が察しられる。


男が、木刀の切っ先をみさとの喉元に合わせた。


「みさとさん、突きがきますよ。喉元に、しか

 も一の突きだけでなく、続けて何度も」


幻十郎の叫びに、道場中の視線が幻十郎に集まっ

た。


声の主が、幻十郎と知ると、とたんに安堵感の空

気が広がった。


幻十郎の実力は道場の誰もが知っていた。


      続く

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