第7話 幻十郎の命を狙った黒幕は誰なんだ

料亭、柳から出、ぶらぶら歩いていると、南町奉行

所の門から一人の男が出てきた。


幻十郎を見つけると親しげに寄ってきた。


「幻十郎殿、お久し振りで」


「おお、丁度よかった。実は米山殿にお聞きし

 たい事があって」


「え、私に?また何か事件でも」


「いえいえそうじゃありません」


幻十郎は慌てて手を振った。

米山は南町奉行所の同心だが、少し早とちりのと

ころがある。

うかつなことを言うと、義兄の耳に入らないとも

かぎらない。


「中に入りますか?」


「いえ、今日はやめておきます」


「どうしてですか、雪絵様もご心配されていま

 すよ」


「あ・・いや、姉上様には私がここに来た事は

 内密に」


幻十郎は慌てて手を振った。


「で・・私に聞きたい事とは?」


実は・・


源三郎は、ここ最近浪人同士の騒ぎがなかったか

聞いてみた。


矢七に聞いたところではなさそうだが、ひょっと

したら、浪人といえど武士は武士。


あるいは、奉行所で話し自体を抑え込まれている

やもしれないと確認にきたのだ。


幻十郎を襲った浪人者はいづれも、相当の手練達。


手加減などできず、いづれも致命傷になっていた

はずだ。


あたり前にいけば、その死骸が発見されていいは

ずが、そんな話はないという。


誰かが死骸を片づけたのだろうが、手際が良すぎ

る。


訝しがる米山に、軽く暇を告げると、幻十郎は笠

岡の屋敷に向かった。


常磐津の師匠の件もあるが、もともとあの用心棒

の話は笠岡から頼まれた話だ。


しかもその頼み方が、あまりにも軽かったので、

幻十郎もつい軽く引き受けたのだが、相手は、間

違いなく幻十郎を狙ってきた。


ここは、どうしても笠岡の話を聞く必要がある。


もし、最初から幻十郎の命を奪う事が目的ならば

、このまま笠岡の屋敷に行く事は飛んで火に入る

夏の虫に近い。


しかし、幻十郎には、笠岡から命を狙われる覚え

はトントない。


むしろ、今日まで仲良くやってきたぐらいだ。


その笠岡が急に幻十郎の命を狙いだした・・裏を

知りたくなるのは人情というものだ。


だいいち、笠岡の器で、あれだけ手練の浪人を一

時に集める事などできないだろうし・・


裏で糸引く男をどうしても見つけてみたい、元来

の好奇心がむずむず騒いでしかたがない。


笠岡の屋敷に行けば、はっきりする。


幻十郎は、足早に、笠岡の屋敷に向かった。


        続く

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