第12話

翌日、僕は自分の部屋で目を覚まして、彼女のことを思った。起きてもまだ彼女のことが昨夜のように好きか自分で確かめた。好きだ、と感じる。しばしば、一晩寝ると昨夜のことはどうでもよくなっている時がある。たとえ一晩一緒にいた相手でも、だ。ただ、今回は、強くミリのことを思った。一緒に朝を迎えたいと感じ、そして、今すぐにでも声を聞きたいと思った。また恋というものが始まってしまった、とむず痒い感覚を思い出す。恋をしていない時は恋の感覚なんて忘れているのに、恋が始まると「まただ」と自分自身に呆れる。個人が「また恋に落ちていく」と歌ったように、僕は何度も恋に落ちてしまう。ただ、年と経験を重ねるごとに、その恋の落ちる感覚は長くなるし、そう簡単には落ちにくくなる。その分、落ちる高さも高くなり、それだけ受け身も上手になっていく。受け身が取れないと30を超えた恋愛は死さえ感じるのだ。まだ始まっても恋愛のこれからを思った。そして、会社にいかなくちゃ、とベッドから這い出る。携帯を見るとミリからの返信はきていなかった。昨夜送ったお礼メールに関しては既読にはなっていたけれど返信がなかった。「きっと疲れていて返信できなかったんだ」とか「あまりLINEは使わない人なんだ」と自分で自分に言い訳を想像し、少し胸の痛みを感じながらも僕は会社に向かう。




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