第10話

ミリは会話で比喩をよく使った。ふくろうのようなコーヒーだとか、レンコンのような硬さだとか。わかりやすいたとえもあれば、わかりにくいたとえもあった。ただ、ミリが世界をそのように捉えているということはなかなかおもしろかった。ミリにとって、雨は銀の針だし、風邪は南米とかにいそうな魔術師の呪いなのだ。


僕は3時間ほど、ひたすらミリの話を聞いた。僕自身が話をするよりも聞く方が好きだったし、何よりミリはあふれるように話を広げた。お酒もよく飲んだ。ビールを飲んで、日本酒を飲んだ。彼女は徐々に顔を赤くし、その分だけより饒舌に話をした。ただボディタッチは一切してこなかった。僕もそれに応じるように適切な距離を取りながらの相槌を続けた。格闘技のように間合いを気にしながら、少しづつ相手の呼応を読んでいく。ミリがどうでもいい女性なら、きっと一気に間合いを詰めただろう。ボディタッチをするか、色気のある話をほりこんだだろう。相手によっては、僕のジャブが効くこともあるし、あるいは、僕が間合いに入りすぎて、相手のカウンターを食らうこともある。しかし、ミリとはもっと時間をかけてコミュニケーションをしたかった。そのため、僕は間合いを取りながらずっと頷くばかり。


「酔っぱらっちゃった。楽しかったね。そろそろ帰らなきゃ」と彼女がいう。僕に、返しのセンスが求められる。


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