第9話

当初はセオリー通りに会話は進んだ。好きな食べ物、嫌いな食べ物、休みの日にしていること、好きな男性のタイプ、そして、お酒をもう一杯おかわりして、住んでいる場所の話。ミリは、あん肝が嫌いで、好きな食べ物はチーズだった。特に匂いがきついチーズが好きで、コンビニで売っているチーズはチーズと認めていなかった。匂いがあるものをチーズと呼ぶのなら、匂いのないチーズは何と呼ぶべきか?彼女に問うたところ、「白い何か」と答えた。白い何かだとはんぺんも入ってしまうが、彼女にとってそれがはんぺんであろうとコンビニのチーズであろうと、どちらも興味がないという点では同じなので、よいのかもしれない。休みの日に、彼女は散歩をよくした。仕事柄、土日は休めないので平日の休みだった。平日はスニーカーを履いて、サングラスをかけて、そして街に出た。たまに電車に乗ることもあったが、基本的には自宅からそのまま散歩することを好んだ。「世の中にはたくさん道があります。私の家の周りにも、まだ通ったことのない道がたくさん」とミリはいう。まるで、ミリはぬりえを塗りつぶすがごとく、道を歩いて歩いた。歩きながら何をしているのか?何もしていないという。家を見ることもあれば、考え事をすることもある。あるいは、ぼーっと歩くこともある。そんな散歩が彼女の休みの日の過ごし方だった。30分ほど歩いてお腹がすけば、喫茶店でケーキと珈琲を飲むし、面白そうな本屋さんがあれば、ふらっと立ち寄る。そして平積みされた本を眺めて、気に入ったものがあれば買う。ただし、荷物になるので、買うことはそんなに多くない。

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