さんにんの
「嫉妬」とは。
その感情はとても厄介で、でも恋する二人には刺激的なスパイスになるんだと、漫画を読んだ結果、私は察知した。そして今、私は、嫉妬という感情に、全神経を支配されている。私の彼氏…彼になった、いや、こういう場合は彼氏さんって言った方が漫画的かな。でも、彼氏さんってなんかいかにも、“うちの彼氏さんすごくかっこいいの”とかキラキラした女子が言いそうだし、私はそういう類ではないから…ここでは恋人と呼ぶ事にします。その恋人が今、ものすごく楽しそうに話している相手…超モテてる人だって事、私知ってるんです。どうしよう、これはフラグというやつなのでしょうか?恋人を小悪魔風女子に取られる、一番厄介で一番残念な結果が待ちうけているのでしょうか?漫画を…今近くに漫画ないし、知識がなさすぎる自分にパンチしたい。誰かに相談しないと…あ、そういえば、森川君今ちょうど一人でいるし、相談してみようかな。優さんの友達の中で唯一話せる、眼鏡男子、森川君。ちなみに森川君も頭がいい。髪は茶髪でピアスの開けた跡が何個か確認できる。遊びも恋も、きっと充実している人なんだろうなと、密かに尊敬の眼差しで見ている、優さんの次に注目している人。ちょっと行ってみようかな。
「嫉妬」だろ。
嫉妬はさ、自信のないやつがするものだと思ってたんだよ。付き合ってるんだったら、彼氏の威厳っていうかさ、そういうものあるでしょ?嫉妬なんてきっと見苦しいものなんだよ。ドラマではさ、嫉妬したことによる色っぽいハプニングが起こったりするわけじゃない。でも現実はそう簡単にはいけないんだよ。リアルな世界は時に残酷に俺達を刺激して、予期せぬ試練を送り込んでそれに幾度となく挑戦させる。だから、別に今のこの状況に、俺は決して怒っていない。決して俺は怒っているわけじゃない。ただ一つ質問したい。その笑顔、あんまり俺には見せた事ないのに、森川には何で1分に1回のペースで出してるの?大サービスなの?俺にもそれ、見せてよ。もっと俺と目、合わせてよ。ねえ、早くこっち来いよ、夕。
「人間っていうのはさ、欲望にまみれてる生き物じゃん。だから別にそれを恥じる事なんてないわけ。だからさ、山下さんもそのままでいけばいいんだよ。別に嫉妬なんて恥ずかしい事じゃないし、俺だって彼女年上だけど、全然するし、それが普通だと思ってる。それに、年下彼氏の嫉妬は可愛いらしいからさ、それを利用する手はないでしょ。まあ、頭良い人だからすぐ見抜かれちゃうんだけどね。」
何をつらつらと語ってんだよ。お前の彼女完全にお前が落としたようなもんだろ。
「森川君も頭良いよ。」
「いや、俺はどっちかというと努力派だから。めっちゃ徹夜するしね。それに暗記もの結構山張ること多いし。彼女は天才的っていうか、生まれつきなんだよ。それが羨ましい。」
「でも、山が当たるって凄い事だと思う。」
妙に褒めるじゃん。俺夕に褒められた事あったっけ?全然ないんだけど…あ、おいしいパン見つけてくるの上手って言われったっけ?日替わりパン、今日は売り切れてませんように。
「山下さんもさ、結構成績上位じゃん。何でそんなに自信ないの。」
「みんな頭良いから。」
「このクラスは意外と頭脳明晰タイプ多いかもな。一点集中型っていうかさ。前もそうじゃん。合唱コンクールさ、全然練習してないのに本番完璧で3位だったし、それってクラス全体が自然とそういう力引き寄せてるってことだろ?先生も言ってたしな。“お前らの成績が俺を潤すんだ。この調子で頑張るんだ!”って。あれ絶対嘘でしょ。でもクラスの半分は信じて素直に勉強しちゃうんだよな。この学校にしては珍しいっていうか、だから他の先生達も空き時間にたまに覗きに来てるんだぜ。山下さん知ってた?」
「え、知らない。あ…」
「ん?どした?」
「目にゴミかも…あ、違う、これ花粉だ…誰か外から帰ってきたかも。」
花粉?俺か?でも俺がここにいるのは大分前だし、それに花粉なんて付いてるわけないし…
あ、ちなみに俺は彼女と自分の連れが何やらこそこそ話しているのを、たまたま捕まった幼馴染に近い女子と話しながら発見してしまった。そこで、話をこっそり切り上げて、二人が廊下側の席にいる事を好都合に思いながら、壁にもたれながら静かに聞き耳を立てている。意外と小さい声で話してるのは、きっと俺の彼女と話すという森川なりの配慮なのだろうと、少し感謝をしつつも、本当は声のボリュームを少しだけあげてほしいと思いながら、妙に綺麗な廊下にしゃがんでいる。
「え、そんなところまで敏感なの?」
「そんなところって?」
「あ、やべ、何でもない…今の、忘れて。」
「優さん何か話し…」
森川…てめえ…
後で絶対に報復してやる。
「あー、そういえばさ、俺さ、保育士になりたいんだよね、子供好きだからさ、短大とかに行けば資格取れるのかなあ。山下さん知ってる?」
「……」
全然切り返せてないですけど?お前の彼女落とした時みたいに、流暢に言いわけ考えてみろよ。
「あれ、やっぱ怒った?」
「何話したんですか?優さん。」
「別に何も話してないよ。だってまだ…してないでしょ?」
「はい…」
「優はさ、あの見た目で結構一途で真面目だし、何より敏感なタイプだからさ、色々な空気察知する能力半端ないからさ、山下さんがびびってるのとか全部伝わってるから。だから安心して、彼氏に身を任せなさい。」
「…でも。」
「でも?何?」
「優さんずっとモテてきてるから、私じゃ…」
だからモテてないってば。まだそんな事思ってたのかよ。昨日もあんなに言ったのに。どうやって信じてもらうべきか…
「何?」
「物足りないかと…」
「ちょっとオフレコ話していい?ちょっと耳貸して。」
「はい。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
おいおいおいおい!!!
「え??」
「凄いでしょ?優には内緒な。絶対に怒られる。というか、照れさせるかな。」
「…」
「ん?どう?積極的に行く気になった?」
「頑張ってみます、少しずつ…」
え?え?え?何言ったの?まじで森川何言ったんだよ!!!
「うん。応援してるから。それより優何処行った?さっき平川と話してなかったっけ?こっち結構ガン見してたからきっと後で怒られるだろうな。」
「え?見てなかったよ。」
やっぱ気づいてなかったか。そういうとこはほんと鈍感なんだよな。
「結構見てたよ。あれはね、嫉妬の目だね。ギラギラとした色っぽい怒りの目。」
「嘘…」
「嘘だと思ったらすぐに行ってあげな。もしかしたら何処かで泣いてるかも。」
「ちょっと探してきます。」
夕はそう言うと、振り返ることなく廊下を突っ走って行った。
「はあ。世話の焼けるお二人さんだな。」
「悪かったな、手間のかかる連れで。」
俺は今だと思い、ゆっくりと立ち上がり、廊下側の窓からこそっと顔を覗かせた。
「お前、気配消すの不得意なの知ってるの?」
「は?ちゃんと隠せてただろ?」
「途中しゃっくり止めただろ?」
「地獄耳め。」
「彼女は鈍感みたいだね。違うところは敏感なのに、あ…」
「お前後で何か奢れ。」
「はいはい、さっさと探してこいよ。あそこじゃない?いつもの待ち合わせ場所。」
「まだ昼間だってのに。でもとりあえず行ってみるか。あ、日替わりパン3つでいいや。じゃあな。」
「1人1個までなの知らないのか?」
「うるせー。その賢い頭で考えろ。」
俺は急いで昇降口に向かった。きっとあそこにいるはずだ。待ってろよ、夕。
「はあ。可愛い奴ら、ほんとに。」
二人の恋に嫉妬による試練は、意外と効果的なのかもしれない。
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