ふたりの
anringo
どっちから?
「告白」とは。
自分の気持ちを相手に伝えること、ですよね。
これって、女子からするものなのですよね。今友達から貸してもらっている漫画の主人公は結構自分からぐいぐい…いってるみたいな空気を出している節があると思うのですが、私の分析は間違っていますか?
私の好きな人は、恋愛もたくさんしてきているはずだから、駆け引きとか?しちゃった日には墓穴を掘るに違いない。
ストレートに言うのが一番だと、私は思うのです。何事も隠さず、何事にも動じず、何事にも臨機応変に対応する。それが真面目というものだと、そう思うのです。
彼の好きなところリストアップして、ちゃんと言えるように練習しないと。初めての告白だし、きっと彼の目の前で彼自身の話とかするのとか、絶対に無理。絶対に噛んでしまう。これは一世一代のチャンスで、逃してはいけないチャンスなんだ。テストの成績も今回は良かったし、きっとうまくいくはず。
お願いします、神様。私にほんの少しだけの勇気とほんの少しの色気をお与えください。どうかどうか。
「告白」だろ。
そんなの男からするもんだろ。まあ、自分からしたことない俺がいっても説得力ないけど。だって、何故か向こうから言ってくるんだし、俺はそれに何とか応えるわけであって。
お願いだから放課後の告白はほんとに勘弁してほしいんだよな。彼女待たせるのほんとに嫌だし。まあ、彼女って言ってるけどまだ付き合ってるわけじゃないんでけど…でも、一緒に帰ってるし、家にも泊ってるし、そろそろいいんじゃないかなと思っている今日この頃なんだけども…もうそろそろいろいろ許してくれてもいいんじゃ…
いやいやこんな話をしたいんじゃない、話戻します。あ、でももしさ、俺が告白で呼び出されてる最中に誰かチャラチャラしたやつに話しかけられたらどうするんだよ。昇降口で待ってる間に不意に話しかけられでもして、何かの拍子で彼女がそいつの事上目遣いとかで見たりとかしたら、どうするんだよ。びびっちゃってあたふたしちゃって目うるうるさせるに決まってるんだし、相手絶対好きになっちゃうじゃん。やばいんだって、免疫全然ない子なんだから、褒められたりしただけでも顔真っ赤にするような可愛い…
何か俺、気持ち悪いですね。すみません。告白の話でしたよね。
とりあえず、告白は俺からします。あんまりしたことないけど、ちゃんと自分から告白して、ちゃんと返事を貰う。これが、男です。以上。
「夕さ、今日の夜、ちょっとだけ時間ある?」
優さんにそう言われたのは、コンビニでジュースを選んでいる時の不意の瞬間だった。
私は彼の事を優さんと呼ぶようになり、彼は私の事を夕と呼ぶようになった。
呼び捨てって…すごくいいですね、なんか。
「ある。けど、今日は門限があるから。」
門限がない事をいったいいつ頃彼に伝えればいいのだろうか。
「何時?」
「12時。」
「12時って結構遅くない?いつもそんななの?」
え、12時少し遅かったか。そうか夜の12時だからもう次の日か…私とした事が…とりあえずここは何とか切り抜けねば。
「いつも…そ、そうです…」
「危ないな…もうちょっと早くできねーの、それ。」
「えっと…ちょっと相談してみる…ます。」
彼が目をじっと見てくる。すっごい見てくる。
次こそは言おう、絶対言おう。
こんなに見つめられたらもう絶対嘘なんてつけないよ。
「どしたの?なんか今日敬語多くない?」
「そんなことないです!」
「いや、だからそれ敬語だから。」
どうしよどうしよ、また敬語続いちゃった。せっかくのこんな、よく漫画で出てくるコンビニデートなんてなかなかできないんだから。
「あ…ごめんな…ごめん。」
「夕さ、ジュース何飲む?てか最近紅茶?よく飲んでない?」
あれ?あんまり怒ってない?いや、逆かもしれない。もう呆れてこいつ後でぼこぼこにしてやろうとかきっと考えてるんだ。絶対そうだ。不良ってやっぱ怖い。でも彼は違うと思ってた。いや、違うはずなんだ、絶対違う。違ってて欲しい…
「あ、うん。おいしいのあって。」
「何何?どれどれ?」
私と彼の距離が近くなる。あれ、今日なんか香水つけてる?いつも付けてないのに何でだろう。いや、これはもしかして柔軟剤かな。新商品の?あのCMの?あれ今度買いに行こう。
「ピーチティー。」
「それっておいしいの?桃の紅茶?甘いの?すっぱいの?」
「え、えと、おいしいです。甘いです。すっぱくはないです。」
「へえ。俺も飲んでみようかな。てかさ、結構紅茶バリエーションあるんだな。これ何?葡萄?まじかよ。え、これマスカット?マスカットって…葡萄だろ?何で2種類?何で?」
何かすごく可愛いな優さん。これずっと見ていたい。こんな近くで見るのは、前に泊った時以来だな。枕の匂いと髪の毛の匂いがすごく甘くて、全然眠れなくて、でもすごく温かい気持ちになったのを、今、思い出した。
「ん?どした?」
あ、見過ぎちゃったかな。どうしよう、顔にやけてたかな。
「何でもない…です。」
「夕さ、今日俺の家帰るまで、敬語禁止な。」
「え。」
「もし敬語話したら、道端でキス、してもらうから。」
「ええ。」
キス?!キスってあのキスですよね?!私から?しかも道端で?!
そんなの漫画にあったっけ?!
「嫌?」
「だってまだ…その…」
漫画ではたまに、というか結構頻繁に告白前から抱き締めたりキスしたりはありますが、ここは現実の世界なのです。そんなこと私にはできないのです。
どうしたらいいんだろう。神様、教えて神様。
「まだ俺の事好きじゃない?」
「好きです!」
「あ。」
「あ。」
あ、やってしまった…終わった…私の恋終わった…
「俺も好きだよ。」
あれ、何か聞こえたような、好きって聞こえたような。
「えっと……私もです。」
「さっき聞いた。」
彼は私の頭を少しだけ触ってから、目線をジュースケースに向け直した。
「優さん。」
「何?」
「やり直しませんか?」
「ん?何を?」
「告白…ちゃんと考えてたんだから、ちゃんと。」
あんなに練習したのに何でこんな数秒で終わっちゃうんだろう。そんなの嫌だ、もっとロマンチックに、もっと漫画みたいに、もっともっと…
「俺も考えてたよ。」
「え、嘘だ。」
「いやいや、今日はその為に一緒に帰ってるんだし。」
「そうなんだ…」
彼は目線をこちらには向けないが、優しい声に体全体が包まれているような、とてもロマンチックな空気に一人酔いしれていた。
「で、何がおすすめなの?紅茶。」
そうだった、聞かれてたんだった。早く教えなきゃ、早く教えて、告白の続きをさせてもらおう。
「えっと、やっぱり桃だけど、でもマスカットもいいかも。後味良かったかも。」
「へえ。後味か。いいねそれ。」
彼の目が優しく私を見つめてくれた。私はもっとこの笑顔が見たい。
その為なら、きっと何でも出来ると、そんな根拠のない自信を、いつの頃からか持ち合わせるようになっていた。
「優さん。」
「ん?何?」
「私、隠してたことあって。」
「何何?」
「門限…ないんです。」
「は?」
彼の目が少し変な風に光った気がした。嫌われる前兆なのだろうか。でも、このまま嘘つくなんて私、もう耐えられない。
「いや、ちゃんと連絡すれば大丈夫っていうか。私よく進学校通ってる友達の家で宿題するから、苦手な科目あって、それ数学で。たまに全然わかんなくなって、でも友達上位トップ3に入る才女だから、いつも遅くまで教えてもらってて、それで夜遅くなると、友達のお母さんが、お母さんって料理本出してるくらいのすごい有名な人らしくて、試作品なのって言ってよくケーキとかフランス料理?みたいなの食べさせてくれて、せっかくだし泊っていってねって言われることあって、それで、だから帰りは連絡すれば大丈夫だと思う。だから今夜も連絡すればきっと…」
「よく噛まずにそこまで早口で話せるね。」
「え、そんなことは…」
「それさ、俺のとこ泊るって正直に言ったらまずくない?」
「そこはちゃんと…」
「ちゃんと、何?」
「それなりの言い分を考えます。」
「嘘、ついちゃうんだ。」
彼がすっと手を握ってきた。恥ずかしくてすかさず離そうとしたけれど、彼の握力が学年一位だという事をすっかり忘れていた私は、全然敵わない彼の力にただただ戸惑っていた。
「だって、一緒に…」
「ん?何?」
「勉強得意な人のとこに泊るって言う。」
「それ、さっき言いかけた事じゃないでしょ。」
「え。」
彼は先程よりも手を少し強めに握って、目線を私のところまで落としてくれた。
彼の背は高い。彼の背はこれからも伸びていくだろう。
私は彼と釣りあえるような女性になれるのだろうか。私は漫画に出てくるような、目のキラキラした可愛い女性になれるのだろうか。
「まあ、いいや。嬉しい事聞けたし、満足だわ。帰ろう。俺、炭酸にするから。夕は桃ティーね。貸して。」
「え、でも、私自分で買う。」
「ここは奢らせてよ。その代わり、さっき言いかけた事、後で聞かせて、ね。」
「あ、はい。」
「後、何回かキス、してもらうから。」
「え!!」
「結構敬語多かったですよ、山下さん。」
「優さんだって今!」
彼はピーチティーを天井にかざして私をちらっと見て、真っ直ぐレジに向かった。
「俺はキス全然できるから。夕からしてくれるのが貴重なんだから。待ってて。すぐ買ってくる。」
「お願い…します。」
「今のも、カウントに入れとくからね。」
「ちょっと!」
「ではではいってきまーす!はは。」
私はきっと、彼にこうやって振り回されていくんだな。
あ、言い方が悪かったですね。
私はきっと、彼にこうやって導かれていくんだな。
恋は、キラキラして、素敵なものなんだって、彼が教えてくれたように。
私は恋をしてます。今は、堂々とそう言えます。
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