第25話「交渉(脅迫)」




「話を聞いていましたか? 私はこの屋敷を建て直して売ろうとしているのにどうしてそれをタダであげなければいけないのですか?」

「そうですよ。マサヤ、いくらなんでもそれは……」

「まてまて、まずはちゃんと俺の話を聞いてくれよ」


 いくら俺でも冬を越す為に屋敷が欲しいからと言ってなんの利害関係も無しにこの屋敷をくれと言っているわけではないんだ。


「状況を確認するが、おっさんはこの屋敷の幽霊をどうにかできない限り屋敷を売ることができず、維持費があるため赤字になる一方だ。そして、屋敷を建て直してもそれにさえ金はかかり、立て直した屋敷も幽霊がまた住み着く可能性があるので売れるともかぎらない。

 そうだよな?」

「え、ええ……しかし、それがどうして貴方達に屋敷をただで譲る道理になりますか?」

「簡単だよ。この屋敷はおっさんが持っている限り維持費がかかり赤字を生むだけなら、むしろ俺達にタダで譲れば維持費はいらなくなるし、これ以上の赤字は生まないだろう? それに売れない屋敷という不良物件を手放す事が出来る。そして、俺達にはアークプリーストのマリアに頼めば幽霊の問題を解決してこの屋敷に住む事が出来る。

 つまり、おっさんは赤字を生む屋敷を手放せて、俺達には冬を乗り切る屋敷が手に入る! 両者にとって損の無い話だろう?」


 俺がそう言うと、その完璧な意見にるりりんが口を挟んでそれにおっさんも抗議してきた。


「いやいや、マサヤ、それは私達にとってはタダで屋敷が手に入るのでプラスですがこのおっさんには赤字を生む屋敷が消えるだけで、他に何も得が無いのではないですか? それでは一方にしか得の無い交渉に思えるのですが」

「そうですよ! それに屋敷の幽霊をどうにかできるのならお金は支払いますので、それをしてください! 私としては少しでもこの屋敷を売れるのなら売って今までこの屋敷にかかった費用を回収したいのです!」

「うーん。でも、おっさんこの屋敷の幽霊を完璧に除霊できるのはウチのアークプリーストのマリアだけだぞ。それにそのやり方も除霊した後に強力な結界を張るやり方であり結界にも莫大な費用がかかる。さらに、その結界も定期的に張替えが必要だから屋敷の維持費はとんでもない額になるだろう。じゃあ、果たしてこのシェアハウスという人気の無い屋敷でその莫大な維持費を回収できるかな? 俺は下手したら赤字の方が多くなると思うんだが?」

「そ、それは……」


 よし、おっさんが迷い始めたな。ここいらで一気に決めるか。


「それに、残念だがマリアは絶対におっさんからの除霊の依頼は受けない。むしろ、俺が受けさせない!」

「そんな!」

「ちょっと! マサヤ? 別に私は除霊を受けないとは言ってないんですけど! むしろ、お金がもらえるのなら受けたいんですけど!」

「そ、そうですよね! アークプリースト様! 私はアクシズ教を信じていました!」


 俺の言葉にマリアが抗議をしてきたので、俺はマリアを皆から少し離れた場所に誘導して、そこで俺の意見をマリアに伝えた。


「だって、考えてみろよ。この屋敷の幽霊の問題を解決できるのはマリアだけなんだぞ? そして、除霊の依頼を受けてももらえる報酬はたかが知れている。何故ならあのおっさんは今までの屋敷の維持費であまり金は持っていないはずだからな。だったら、除霊するより、除霊をしないでいればおっさんは屋敷を維持できなくなるんだから屋敷を手放すだろ? それを俺達が貰うんだよ。いいか? よーく、考えろよ……除霊してはした金を受け取るか? それとも、除霊をしないで屋敷をゲットするか?

 どっちがいいよ?」


 すると、マリアはしばし悩んでからおっさんの方を振り向き笑顔で――


「おっさん、ゴメンなさい。アタシ絶対にこの屋敷の除霊なんて引き受けないわ♪」

「畜生! これだからアクシズ教徒は嫌いなんだ!」


 すると、状況を若干引きながら見ていたアプリが俺に忠告をしてきた。


「おい、マサヤ。なんだか段々と地上げ屋みたいな流れになっているがこれ以上相手を脅すような

やり方で屋敷を貰おうとするなら流石に私も騎士として見過ごすわけにはいかないのだが?」

「大丈夫、安心しろ。ちゃんと、最後はあのおっさんにも納得した上で屋敷を貰う予定だから」

「本当に、あのおっさんを納得させられるのか?」

「まぁ、見てろって……

 さぁ、おっさん! そろそろ決めてもらおうか? このまま維持費のかかる屋敷を残すか? それとも俺達に譲りお荷物の屋敷から開放されるのか?」

「う……し、しかし、いくらなんでもタダで譲るわけには」


 頭では俺達に屋敷の除霊をしてもらわないと赤字になると理解していても、やはりおっさんは理性で自分の利益が無いと言う部分を気にして答えを渋っている。なら、そこで利益を俺が提供すればいい。


「よし、分かった! なら、こうしよう俺達が屋敷の除霊を受けよう。マリア、悪いが今すぐこの屋敷の除霊をしてくれ、ついでに結界も張って欲しい」

「え、屋敷の除霊はうけないんじゃなかったの?」

「大丈夫、ここは俺に任してお前は除霊と結界に集中してくれ」

「わかったよ」


 そして、マリアは言われたとおり屋敷の除霊をしに屋敷をうろつき始めた。


「おっさん、交渉条件を変えよう。俺達がこの屋敷の除霊を受ける報酬は300万エリスだ」


「「「300万エリス!」」」


 マリアはそそくさと別の部屋に行ったため俺の声は聞えていないが、他の三人は俺の言った報酬の額を聞いて目を見開いた。


「ば、バカ言っちゃいけません! 300万エリスなんてぼったくりだ! 通常この手の依頼は1万エリスが妥当なはず! それを300万エリスだなんて!」

「いやいやいや、おっさんこそ何を言っているんだ? ウチのマリアはこの町では唯一のアークプリーストだそんな凄腕のプリーストの除霊であり、さらに今回は定期的に張替えは必要だとしても結界を施して霊が住み着かないようにしている。いくらプリーストの除霊単価が1万エリスだとしても、そいつらが300人いてもマリアと同じことは出来ないんだぜ? これはこの町が見習い冒険者しかいない事を考慮した適正価格だよ」

「マサヤ、流石に私でもそれは横暴な気がするのですが」

「そうだぞマサヤ! これ以上は騎士の名にかけて見過ごす事はできない!」


 俺の言い分に顔をしかめた、るりりんとアプリに対し俺は手を出して「いいから聞いていろ」となだめた。


「だけど……流石の俺もおっさんがいきなり300万エリスの現金を用意できるとは思っていない。そこでだ! 前払いとして俺はおっさんから300万エリスの手形を貰い、俺はその手形でこの屋敷を購入したい」


「え? …………あれ?」

「ん? マサヤ、それはタダで屋敷をくれと言っているのと同じではないのか?」

「確かに結果は同じかもしれない。しかし、過程が違うんだよ」

「なるほど、屋敷が売れたという事実が残るのか」


 流石はおっさん、不動産経営しているだけあって理解が早いな。


「そう! 確かに結果的にはタダで屋敷を手に入れてはいるが、おっさんは事実上屋敷が売れたことになる。おっさん、実はシェアハウスの物件て他にも売れ残っているのあるだろう?」

「あ、ああ……実は数件ほど建ててしまっていたんだ。もちろん、それらの屋敷も売れてはいない」


 だよな。いくら実験的に建てたとはいえそれが一軒だけとは考えづらかった。だから、数件は建てていると思ったわけだ。


「おっさん、俺達のパーティーはこの町では珍しいアークウィザーとアークプリーストにクルセイダーがいる。俺達がこの屋敷に住めばおっさんは「このシェアハウスはあのアークウィザーとアークプリーストにクルセイダーまでもが利用して住んでいる活気的なシステムです」って宣伝できるだろう。なにしろ俺達のパーティーは目立つからな。それに、シェアハウスもニーズを絞って俺達みたいな冒険者向けに売るんだよ! まったくの他人と共同生活はきびしいがパーティーを組んでいる冒険者にはアジト感覚で売れると思うぜ」

「なるほど! つまり、貴方達にこの屋敷に住んでもらいシェアハウスの宣伝をしてもらうッ徒言う事ですね?」

「そう言う事だ! これなら、おっさんは赤字を生む屋敷を手放し、なおかつ無料でシェアハウスの宣伝ができて、さらに他のあまったシェアハウスを売ることが出来るかも知れない!

 どうだ! お互いにいい提案だと思うんだが?」

「む、ぬぅうう……乗った!」

「良し来た!」



 こうして、俺達は冬を乗り過ごすための屋敷を手に入れた。


 

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