第26話「二番目に好きなのは」




「ほら、マサヤ! 早く来なさいよ!」

「ま、マリア、待ってくれ……少し、少し休もう」

「何、もうへばったの? だらしないわね。まぁ、休みの日は一日中部屋に閉じこもるなんて主張をする引きこもり体質のマサヤだから仕方ないわね」

「あのなぁ……俺が休みは部屋でゆっくりしたいのは日ごろのクエストでお前らが何買いsらの問題を起こして結果的に俺が大変な立ち回りを要求されるからなんだぞ? 誰かさんが無駄に突っ込んで敵のモンスターを連れてきたり、戦力であるはずの誰かさんが魔力切れ起こしたり、同じく戦力の誰かさんがいつまでもチマチマとモンスターを無駄に生かしているおかげで俺が必要以上に他のモンスターを倒さなきゃいけなくなるからだ!」

「はいはい、でも、体力も戦闘力も無いマサヤがあの強力なモンスターと渡り合えるのはこの素晴らしいアークプリーストの支援魔法があるからだって事を忘れないで欲しいわね!」

「おうおう、だったらその素晴らしいアークプリーストさんとやらは誰かが必死に考えた作戦を『全部のモンスターを私一人で倒せば報酬は全て私の物!』っとか言って台無しにはしないんだろうな?」

「な、何の事かしらね~?」


 俺達のパーティーはクエストは受けないで今日は休日にしていた。先日俺の交渉の結果みごと屋敷を手に入れたので今日を使いその屋敷への引越しをするためだ。

 比較的、皆持ってくる荷物は少なかったので引越し事態は直ぐに終わったのだが、マリアは『せっかく屋敷を手に入れたんだから自分の部屋で使うものを揃えないと! 今までは教会の部屋を借りていたからあんまり自分の物を置けなかったけど、この屋敷なら好きなものを買って置いても怒られないわ!』っと、言う事で町に出て俺はその荷物持ちを命じられたのである。因みにアプリは引越しの報告で実家に一度戻っており、るりりんは屋敷で軽く掃除をすると言っていた。


「しかし、まだ町を回るのかよ……もう、カーペットも買ったしカーテンも買ったし十分だろ?」

「何言ってるのよ! せっかく町で買い物に出たんだから今日は他にも欲しいものをいろいろと見て回るんだからね! ほら、キリキリ付いてきなさい!」

「ヒィイイイイ!」


 かれこれ屋敷を出てもう二時間近くになるがマリアの奴は町を自由に回っては部屋に付けるカーテンや置く小物などいろいろ見ては買っていく。これ結構量があって重いんだが……


「それにしても、マリアって確か金を集めるのが趣味なんだよな? なのにこんなに無駄使い――じゃなくって、こんなに金を使って大丈夫なのか?」

「マサヤ、アンタ何を言っているの? 確かに私は金がこの世の何よりも一番好きだけど、それは『お金を貯める事』では無いわ。私が好きなのは『お金』そのものなのよ。確かにお金を貯めるのも好きだけど、お金って言うのは使ってこそその価値を発揮するのよ! つまり、貯めていてもお金を使う気が無いのならそのお金はただのくず鉄同然なのよ!

 私はお金を貯めるのも好きだけど、それ以上にお金を使うのだって大好きなのよ! それらの全てをひっくるめて私は『お金』が一番大好きだって豪語しているのよ!」


 はぁ、なるほど……流石は我がパーティーの駄プリーストだわ。


「しかし、お前ってこれでも一応は聖職者なんだろ? ああ、でもアクシズ教はそんな駄目駄目なお前の趣味もなんでも許されるんだっけ?」

「そうよ! 私が駄目駄目って部分は引っかかるけど、アクシズ教はそれが犯罪で無い限り、全てが許される教えなの! ねぇ、マサヤ! だから、アンタもアクシズ教に入りなさいよ? 私と一緒に信者を増やしましょう! きっと楽しいから? ねぇ?」


 そう言って、マリアは俺の服に入信書を何枚もねじ込もうとしてきた。


「近い近い近い! てか、俺は絶対にお前らの宗教なんか入らないからな! 誰が好き好んであんな奴の宗教に入るか……」


 だって、アクシズ教ってあの駄女神アクアを崇拝しているんだろ? 俺なんかあいつの所為でいきなり森に飛ばされてモンスターに殺される所だったんだからな!

 って、あれ? そう言えばあの駄女神関連でもう一つなにかあったような……


「ねぇ、マサヤ。急に静かになってどうしたのよ?」

「え、いや……うん、大丈夫だ。何でもない」


 まぁ、思い出せないならそんなに大した事でもないだろう。


「てか、マリア。お前『金』が一番好きとか言っているがその肝心な女神さまは何番目に好きなんだよ?」

「マサヤ、アンタバカ言ってんじゃないわよ! 私達アクシズ教徒が崇拝するアクア様をそんな何番目とか順位をつけることこそがおこがましいわ! アクア様はそんな順番をつけるレベルの存在ではないのよ! でも、しいて言うのなら私が大事に思っているお金の数段上のレベルね! もう、それこそアクア様がいなくなったら世界が滅ぶくらいに大事なんだから!」


 ほう、以外だった。てっきり二番目とか思っていたのにそこまで大事なのか。


「じゃあ、お前の中で金の次に大事なのって何なんだ?」

「うーん、そうね。やっぱり自分かしら? 私自身がいないとお金もなにもあったもんじゃないしね。それが 三番目 で、四番目が私達アクシズ教徒かしら? 私って実は孤児だったのよ。それで、昔は食べるためにいろいろ悪いことして大人から怒られていたんだけど……

 ある日、アクシズ教徒の『ゼスター』って言うおじさんに出会ってね。


『ふむ、おじょうさん。生きるためとはいえ盗みはよくありませんぞ。我らが女神アクア様も犯罪は駄目だと仰っています。どれどれ、あと十年くらいしたら私好みの女性に育ちそうですし、良ければ私達アクシズ教徒の元へ来ませんか?』

『お断りします。人を呼びます。賠償金ください』

『ごめんなさい! 逮捕は勘弁してください! またセシリーに怒られてしまいます! あ、因みに私達、アクシズ教徒に付いて来るなら2万エリス出しますよ?』

『誰か助け――』

『わわ、分かりました! 5万! 5万エリス出しますから!』

『行く!』


「っと、まぁそんな経緯で私はアクシズ教徒に拾われたのよ。だから、あの時ゼスターのおっさんに拾われてなかったら今のアタシは無かったわけ」

「…………」


 うーん、何だろう。本来なら感動する話かもしれないんだが一歩間違えたらガチで豚箱行きの話しに聞える所為で素直にうけれねぇよ。てか、そのゼスターっておっさんも大概だが小さい頃からマリアって金の亡者だったんだな。


「まぁ、私ってほら、こんな性格だからまともに付き合ってくれる相手っていなかったのよ。だから、私の性格を理解してくれた上で一緒にいてくれる相手って貴重なわけ」

「ふーん、ってあれ? 自分が3番目でアクシズ教徒が4番目ってことは……おい、2番目は何なんだよ!」


 俺がそう言うと、マリアは何故か急に顔を赤らめてモジモジとしだした。


「そ、それは――……も、もちろん。

 ひ! ヒミツよ。バーーーーカ!」


「はぁああああああああああああ!」

「ほら、まだ靴や服も見たい店がいっぱいあるんだから早く行くわよ!」


 結局、マリアの二番目に好きなものは教えてもらえなかった。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る