第24話「シェアハウス」




「これがその屋敷か……」


 俺達はおっさんに案内されて例の屋敷に来ていた。

 屋敷は思ったよりでかく二階建てのファミレスくらいの大きさだ。


「へぇーこれだけ豪華な屋敷だと値段も結構高いんでしょうね」

「うむ、確かに普通なら2千万エリスはくだらないだろうな」


 屋敷を見て感想を漏らす、るりりんとアプリにおっさんは苦笑いを浮かべながら答えた。


「いえいえ、実はこの屋敷は今までに無い新しい作りをしておりましてお値段はたったの300万エリスなのです」

「安っい! え、何それ! 超気になるんですけど!」


 金の亡者であるマリアが驚いていると言うことはそれだけ、この屋敷は安いのか? うーん、俺は家の値段の基準なんか良く分からないからな……でも、俺のいた世界で考えれば俺の父親が買った安いマンションが一千万くらいだったはずだから、この屋敷が日本円で300万円で買えると考えれば…………うん、安いな。


「なぁ、何でこの屋敷はそんなに安いんだ?」

「はい、実はこの屋敷は昔ある冒険者の方からいただいたアイディアを元に作っておりまして元々は貸し出し制の寮だったのですが、少しわけがありまして」

「「「寮?」」」

「まぁ、詳しくは屋敷の中を見ていただければ分かるかと……」


 と、言うわけで俺達は屋敷の中を案内させてもらった。


「おおお! 何だこれリビングなのか? めちゃくちゃ広いじゃないか!」

「マサヤ! マサヤ! それだけじゃありませんよ! この台所も広い上に最新式の魔道調理機具まであります!」

「ふむ、それにこの家の椅子もテーブルも食器も、全ての家具が中々に有名なものばかりだぞ」

「おいおい、おっさん! これの何処がわけありなんだよ!」


 これで300万エリスなら俺が欲しいくらいだよ! そりゃあ確かに何度失敗しても除霊を頼んで売りたくなるわ。


「ねぇねぇ、マサヤちょっと来て! この屋敷作りが変何だけどー」

「あー? 何だよマリア、お前の目が腐っているだけじゃないのか?」

「ちょっとそれどういう意味よ! いいから二階に上がって見なさいって!」


 マリアがうるさいので言われて二階の様子を見る。


「あれ? 二階の部屋は思ったより狭いな」

「でしょ? 二階はこれくらいの狭い部屋とトイレ物置があるだけなのよ」


 確かに二階の部屋はかなり狭かった。日本で例えるなら畳3枚分くらいだ。下のリビングやキッチンなどは豪華で広いのにこの違いはなんだ? すると、今度は下の階から、るりりんとアプリの声が聞えた。


「マサヤ、こっちも少しおかしいのですが」

「うーん? 何がだ」

「聞いてくれ、この屋敷にはトイレも風呂も一つしか無い」

「それの何がおかしいんだよ?」

「マサヤ、もしかしてもう忘れたのですか? この屋敷はさっきあのおっさんが寮だといったでは無いですか、これだけ広いのはいいですが寮だというのならキッチンもトイレもお風呂も普通は別々に用意してあるんじゃないですか?」

「あ、そうか」


 るりりんの意見に俺が納得すると、おっさんが「ついに気付きましたか……」と、事の説明をしてくれた。


 実はこの屋敷は昔、おっさんが経営に苦しんでいたころ知り合いの冒険者がくれた意見を参考にしたもので一つの屋敷を複数の人間が同時に借りるいわゆるシェアハウスのような作りになっているのだ。


「なるほど、異世界のシェアハウスみたいなものか」

「しゃ、シャアハウス? マサヤ、それは一体なんですか?」


 るりりん、お前すげえ聞き間違いの仕方だなそれ……なんだよそれ家全体が赤くて三倍なのか? しかし、なるほどな。この世界ではシェアハウスの概念はないのか? っということはそのおっさんにシェアハウスのアイディアをくれた冒険者って俺と同じ転生した奴なのかもな。


「シェアハウスだよ。一つの家にいろんな人間が借りて住むんだ」

「ねえねえ、何でわざわざ一つの家に住むの? 多くの人が部屋を借りるなら宿とかでいいじゃない?」

「ふむ、そうだな。それか全員が別の家に借りて住めばいい」

「家賃が安くなるんだよ。一人では高くて住めない豪華な家も皆で金を出し合えば借りれるだろ? そのかわり、自分の部屋以外は全て家を借りてる奴らの共同スペース扱いになるんだ」


 俺が簡単に説明するとおっさんは驚いていた。


「おお! 貴方様は意外と知識が深いのですね!」


 意外とは余計だ。


「そうなのです。話を聞いた時は私も新しい屋敷の売り方だと思ってそのシェアハウス式の屋敷を作り売り出したのですが……この町の人にはシェアハウスの話を聞いても他の方のように宿に止まればいいじゃないかと言うわれてしまって全然売れなかったのです」

「ああ、それでドンドン値段が下がったのか」

「はい……おまけに幽霊まで住み着いてしまって、これでは維持費ばかりかかるだけなので解体し新しい屋敷を建て直そうと思っているのです」


 それを聞いてアプリがおっさんの補足をしてくれた。


「なるほど、確かに売れない屋敷は土地代や設備費がかさむだけだから商売としてはマイナスにしかならない。ならば、解体費はかかるが壊して新しい家を建てて売った方が利益は出る。しかし、新しい家を建ててもまた家に幽霊が住み着く可能性もあるだろう?」

「はい、それが問題なのです……でも、このままでは赤字で商売が……それならいっそ立て直してみるしか手は無いのです」


 なるほどな……ふーん。


「おい、マリア。ちょっとこっちに来てくれ」

「な、何よ?」

「お前さ、この屋敷に幽霊が住み着かないようにとか出来ないの?」

「できるわよ」

「出来んのかよ!」

「わ! ちょ、いきなり叫ばないでよ! 確かにこの屋敷には結構な数の霊がいるけど、私くらいのアークプリーストならチャチャっと払った後に結界を張ればこんなショボイ霊達はもうここにはこれないでしょうね」

「出来るのか……よし。でも、なんでおっさんはそれをしないんだ?」

「そんなの結界を張ってもらうにもお金がかかるからでしょう。それにこの町は見習い冒険者の町よ結界まで張れるプリーストなんて私くらいよ」

「なるほどな」


 他にも結界は効力が切れたら張りなおさなければいけないので維持費が高いのだと言う。でも、それなら大丈夫だな。


「よし、おっさん! 交渉をしないか」

「交渉……ですか?」

「ああ、俺達にこの屋敷をタダでくれ」


「「「「はぁあああああ!」」」」


 俺のその言葉にその場の全員が驚きの声を上げた。





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