第21話「ドSクルセイダーの欠点」
「カバカーバッ!」
「突進が来るぞ! 皆避けろ!」
目の前の凶悪なモンスターが見られてきた突進の構えを取ったので俺が呼びかけると――
「ま、マサヤ……私はもうダメです。すでに炸裂魔法を使い果たしてしまい魔力切れで指一本動かせません」
「るりりんのアホーッ! 炸裂魔法は弾数が少ないんだから、必要以上に連発するなってあれほど言っただろうがぁああああああああああ!」
「カバッァーーーーーッ!」
「どわぁあああああああああああ!」
俺は突進してくるカバのモンスターから、倒れたるりりんを背負ってギリギリでモンスターの突進を避けた。
このカバモンスターこそが今俺達の受けている討伐クエストの相手だ。
名を『ハッスルカバ』という。
そのふざけた名前とは裏腹にハッスルカバは全身ピンク色で敵を見ると闘牛みたいに顔を真っ赤にしながらマッハの速度で突進してくるのだ。幸いなことに奴らの攻撃は突進のみで、しかも一直線に突っ込んでくるだけなので、ちゃんと連携を取って戦えば難しい討伐ではないのだが……そう連携さえ取れればな。
「ぎゃああああああああああああ! ままま、マサヤさーーーん! おねがいしますぃううううう! だすけてくださぁあああああああい!」
少し、離れた場所では「ハッスルカバ? はっ! そんな一直線にしか走れない単細胞なモンスターなんか私一人で十分よ! 見てなさい、この私がアイツらの突進を華麗に交わして木にでも衝突させて自滅させてやるわよ! あ! でも、そのかわり私一人で討伐できたらクエスト報酬は全部私の物だからね!」なんて、アホな事を抜かしたあげく十匹のハッスルカバから止む事の無い突進攻撃の雨を食らっているのだ。
まぁ、しかし……アレだけの突進を死ぬ気とはいえ全部かわし切っているのだから案外マリアも凄いんだよな。
「はぁ……はぁ……はぁ……も、もう……ダメ」
あ、マリアの奴力尽きて倒れた。
「カバカバカバカンバァアアアアアアアアアアア!」
「マリアはもう限界だ! これであいつも少しは勝手な行動を控えるだろう。アプリ! マリアを助けてやれ!」
「フッ、了解した……『デコイ!』」
すると、アプリの囮スキルのデコイが発動し、マリアをひき殺そうとしていたハッスルカバ達の大群はそろってアプリに目標を変えて突進攻撃をしかける。
「フン、甘い! ぬるい! そんな攻撃が私に当たると思っているのか? この豚共が!」
いや、そいつらカバだから……
流石は高レベルのクルセイダーのアプリだ。あのハッスルカバの大群の攻撃をいとも簡単に受け流している。しかも、アプリの奴は逃げるので精一杯だったマリアとは違い、突進を交わす瞬間に持っている剣の腹でハッスルカバのケツを「ペチーン!」っと叩いているのだ。きっと、女王様気分でやっているのだろうが、そんな余裕があるのならハッスルカバの首でも切断して欲しい。
クルセイダーの能力としてかなり優秀なアプリだが、実はアプリには致命的な欠点がある。それはあいつは絶対に自分では止めを刺さないのだ。本人曰く……
『クルセイダーとは仲間を守るのが仕事! だから、敵を倒す事よりも仲間を守ることに集中するのだ! 敵を仕留めるのは信頼する仲間に任せて私は守りながらチビチビと敵の体力を奪うことこそ志向の戦術だと思う』
『で、本心は?』
『せっかく堂々といたぶれる敵を私が自らの手で消してどうする』
流石はドSである。つまり、あいつはモンスターをあんな風に煽りながらペシペシとケツを叩くのは好きだがそれを一撃で仕留めて終らせるのだけは本能レベルで体が拒否するらしい。
因みに、バニルの時は倒せるとは思っていなかったので例外らしい。まぁ、実際に倒せてなかったわけだしな。
「しかし、困ったな……」
「何よ。アプリが有利に戦っているこの状況で一体何が困ったって言うのよ?」
「うん、有利は有利何だけどさ……これ止めをさせる奴がいないんだよ」
「「あ」」
俺の言葉に背中に背負われている、るりりんとマリアが納得の表情をした。
そう、ハッスルカバは意外と皮膚が厚く防御力があるため俺やマリアの攻撃ではダメージが与えられないのだ。だからといってアプリに戦わせてもあいつは止めを刺すのを本能レベルで嫌がるためろくなダメージは与えられないし、唯一の攻撃手段るりりんも何をトチ狂ったのか威嚇とか言いながら炸裂魔法を五発無駄打ちしておまけに残りの五発もハッスルカバの
動きを捉えられず全て外しているのだ。
はぁ、これだったらバニルに会った時にもっと攻撃的なスキルを教えてもらえばよかった。俺がバニルに教えてもらったスキルはこういう討伐のクエストでは使いづらいスキルだからな。
「よし、お前ら今日は一旦帰ってこのクエストはまた今度挑戦しに来よう」
「はぁ……仕方ありませんね」
「いや、仕方ないって、るりりん? 誰の所為か分かっているわよね?」
そして、俺達はクエストを諦めて一度トライアルの街へと戻った。
「フハッハッハッハ! 鈍いぞ! トロいぞ! この豚共が! 貴様らは本当にどうしようも無い豚だ! 悔しかったらこの私にまともなダメージくらいあたえてみろ!
ほうら! ほら! 悔しかったら女王様と――って、マサヤ!
か、帰るのか? ちょっと、待ってくれ! 流石の私でもこのまま『デコイ』で敵をひきつけている状態だとモンスターから離れられないのだが……お、おい! ちょっと待て! マサヤ! マリア! る、るりりぃいいん! お前達、まさか! この私を囮にしてその隙に逃げるつもりじゃないだろうな!
おい! 本当に待て! いや、待ってください! お願いします! 私を置いていかないで――じょ、女王様ぁあああああああ!」
俺達はトライアルの街へと戻った。
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