第20話「大道芸人のバニルさん」





 ダンジョンの最深部に潜んでいた大悪魔を前に……俺は素直にギブアップを宣言した。


「ま、マサヤ……何を言っているのですか? ここで降参とか冗談にもほどがありますよ? 私達はすでに二人もの仲間を――」

「惜しい仲間を亡くしたな」

「すでに死人扱いですか!」


 そんな俺を見てバニルは本当に俺に戦う意思が無いと読み取り戦闘態勢を解いた。


「フム……油断をさせて不意打ちっと言うわけでも無さそうだな。むしろ、この男は完全に諦めている」


 そりゃな。あんな実力を見せられたらこいつと戦闘になった時点で俺達に勝ち目は無い。ならば、ここで俺がとるべき行動は戦闘を起こさないこと一点にかぎる。

 だから、俺は――


「マサヤ! 正気なんですか? ここで降参すると言うことは私達はこの悪魔に殺されるんですよ! 本当に全てを諦めてしまったのですか!」

「るりりん、お前こそ何を言っているんだ? 何でこの『人』が俺達を殺さなきゃいけないんだ? この人が悪魔だって? そんなバカな! 何処からどう見ても偶然ダンジョンの最深部にいた『通りすがりの大道芸人』だろう?」


「そんなバカな!」


 そもそも、悪魔なんていなかったと思い込むようにした。そう、ただの現実逃避である。


「ああ、なんか先ほどは俺の仲間が悪魔と勘違いして襲ってしまいすみませんでした」

「フムフム、なるほど……そもそも敵対しない行動を選ぶか…………確かに、ここに来たのは昔に弄った練習用のダンジョンが気になっただけで、今は魔王の奴から命令を受けているわけでもないしな…………

 良い! 気にしなくて結構である! 確かに我輩は偶然このあたりを通りすがったただの大道芸人のバニルである!」


「乗っかった! この悪魔! 何故かマサヤのアホみたいな言い訳に乗っかりました!」


 アホみたいな言い訳とは何だ! しかし、やっぱり乗っかってくれたか。さっきからこのバニルって奴俺達をおちょくってはいたが、俺の『直感』が殺されるほど危険では無いと言っていた。戦ったらヤバイとは『直感』が告げていたが、それは戦わなければ危険では無いと言う証明だ。


「いやー本当ただの一般人に仲間が攻撃を仕掛けてすみません!」

「まったく、本当である! 攻撃をされたのが我輩だったから良かったものの他の人間では事件だぞ? ずるがしこい男よ」

 

 話を合わせながらのんきに語る俺達をるりりんが思いっきり叱咤した。


「いやいやいや! 何を普通に『ただの大道芸人』で済まそうとしているんですか! 最初にアプリがこの男を『魔王軍幹部の大悪魔』って言ってたのを聞きましたよね!」


 はて、ナンノコトカナ?


「『魔王軍の大幹部』というサーカスに所属されているんですか?」

「いかにも! 我輩は『魔王軍の大幹部』というサーカスに所属している『大道芸人のバニルさん』である!」

「だから、何で敵である貴方もそんな冗談に乗っかっているんですかぁああああああああ!

 もういいです! マサヤがその気なら私だけでもこの悪魔を打ち倒して見せましょう! そう、この炸裂魔法で!」


 そして、ついに切れたるりりんがこんな狭い洞窟で炸裂魔法なんて自殺行為をしようとすると――


「こんなダンジョンの奥で爆発系統の魔法を使おうとするバカがいるか! ほれ」

「あうぅ~~」


 大道芸人のバニルさんがるりりんに向かって手をかざして魔力のような波動を送った。すると、るりりんは催眠にかかったかのようにトロンとした眼差しのまま動かなくなってしまった。


「あ、あの~……バニルさん? 一体何を――」

「安心しろ。一見自分だけ助けえればいい見たいな考え方をしながらも、心のそこでは仲間が無事だといいなと考えている欲深い男よ」


 べ、別に! 俺さえ助かれば他の奴らなんかどうなってもいいんだからね!


「これはただ簡単な催眠を施したにすぎぬ。我輩もおふざけで作ったとはいえ初めて作ったダンジョンを壊されるのは忍びないのでな」

「そうか……それなら良かった。しかし、作ったっていうけどこれほどのダンジョンを簡単に作れるんですか?」

「それがだな。作ったとは言ったが、正直これは昔に作りかけで放置されていたダンジョンを見つけて知り合いの何ちゃってリッチーに手伝って貰いながら改造を施しただけなのである。だから、一から作ったわけでもないしただ手を加えてトラップを仕掛けただけなので正直、我輩が作ったとは言いづらいのだ」


 バニルさん曰く、だからこれは練習用という感じで割り切っているらしい。いづれそのリッチーの手を借りて本格的なダンジョンを作るのが夢なんだそうな。


「しかし、練習用とはいえ我の仕掛けたあまたのトラップを潜り抜けここまで来たのは褒めてやろう! 我輩もまさかここまで来る冒険者がいるとは思わなかったので驚いたぞ。

 よし、ここまで来た褒美にお前には何か宝のかわりに褒美をやろうではないか!」

「え、マジですか!」


 すると、バニルは催眠状態のるりりんを操り始めた。


「まずはこの小娘にあられもない格好をさせて……」

「うぉおおおおおおおおおおお!」


 バニルがそう言うと、催眠にかかっているるりりんは着ているローブや服を脱ぎながらいろんなものが見えるか見えないくらいのトンでもないポーズを――っ!

 俺はロリコンじゃない! ロリコンじゃない! だけど……だけど!

 これはぁああああああああああ!


「っと、ここで華麗に催眠を解除♪」


「へ?」

「ふぁ……え?」 


 次の瞬間、もう少しでってところで目覚めたるりりんが正気を取り戻して自分の姿を確認し――……


「ぎゅあぁあああああああああああああああああああああああ! なななな、なんなんですかこの状態はぁああああ! わわわ、私は一体何を!」

「ぐぁあああああああああああああああああああ! もう少しだったのにいぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!」


「フハッハッハッハッハ! これは凄い羞恥と落胆の悪感情! 大変に美味である! 美味である!」


 俺とるりりんは大声を上げてバニルははしゃぐほどに喜んでいた。


「なななな、何だかよく分かりませんがこの悪魔が現況なのは間違いありません! 今度こそ私の炸裂魔法で――」

「華麗に出口へご招待!」


 次の瞬間、怒り狂って炸裂魔法を撃とうとしたるりりんがマリア達と同じように一瞬で消えてしまった。きっと、今頃このダンジョンの出口ではるりりんの炸裂魔法が大噴火しているだろう。


「さて、一人になってしまったな冒険者の男よ。しかし、一人になろうが悪魔は約束を守るものだ……ちゃんと、貴様には我輩からこのダンジョンを潜り抜けた褒美をとらせよう!」


 おい、バニル。普通に悪魔とか認めるなよ。現実逃避しづらくなるだろ。


「で、褒美って何をくれるんだ?」

「そうだな……貴様は職業も冒険者なのだな。ならば、我輩がお前に好きなスキルを一つだけ教えてやろうではないか! タダの冒険者が我輩の強力なスキルを一つだけとはいえ教えてもらえるのだ! これほどの褒美は無いだろう!」


 マジでか! 確かに悪魔のスキルなんて普通では手に入らないだろうにきっと強力にちがいない! これは凄い褒美だな!


「さて、これから苦労の耐えない日々を送る男よ。貴様は我輩のスキルから何を選ぶ? どんなスキルでも一つだけ教えてやろうではないか!


 バニル式殺人光線か?

 または、身代わりか?

 それとも、未来予知か?

 

 さて、好きなものを選ぶが良い!」



 殺人光線! 何それカッコいい! てか、苦労の耐えない日々を送る男って……何、その不吉な一言? めっちゃ気になるんだが……


 そして、俺が選んだスキルは――――




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