第11話「プリースト」
翌日、俺はるりりんと共に宿として借りた馬小屋を後にして街で昨日のクエスト報酬で着替えと装備を整えてギルドの酒場に来ていた。
そう、着替えだ! 昨日までは高校の制服を着ていたがあれはいかんせん動き回るには向かないし、この異世界では目立つ! だから、俺はこの世界でも目立ちすぎないような普通の冒険者用の服を買い揃えてきたのだ。そして、ついでに武器やで安い片手剣も買っておいた。
「マサヤ、服と装備を整えて嬉しいのは分かりますがそんな剣ばっかり眺めてニヤニヤされると若干気持ち悪いのですが……」
「何だよ! 剣見るくらいいいじゃねぇか! っくぅ~わ! やっぱり異世界といったら剣だよな! なんか途中の武器やで剣を売っているのを見た瞬間、京都で木刀を買う奴の気持ちが分かった気がするわ!
決して安くは無い出費だったがこの剣は大切に使おう……」
「何を言っているんですが、買ったのはお店で一番安い剣でしょう。それでも、今の私たちからしたら痛い出費でしたが……しかし、その分マサヤにはその剣でしっかりと働いてもらいますから覚悟してくださいね!」
「おうおう、分かってるよぉ」
うーん。しかし、なんだろうな? 何故かこの剣を見ると大事な事を忘れている気がするんだよな……なにかこう目的があったような。
装備?
武器?
剣?
「うーん、何かとっても大事なものを探していた気がするんだけど…………
まっ! いいか」
うん! 思い出せないってことはとくに大した事じゃないんだよ! きっと、重要だったらそのうち思い出すさ!
最早、剣という世の中の男子高校生が憧れる武器を手にした俺は最高に気分がいいので小さなことは気にしない!
「しかし、マサヤ。パーティー希望者来ませんね……」
「ああ、そうだな」
ちなみに、俺とるりりんがここにいるのはただの暇つぶしではなく今日からギルドに張り出された俺達のパーティーメンバー募集のチラシの効果を知るためだ。
一応、チラシが張ってあるのだからギルドで待っておけば2、3人くらいはチラシを見たという冒険者が来るのではないかと思ったのだが…………
かれこれ二時間近く経っても全く来なかった。
「はぁ……やっぱり、るりりんに半分書かせたのがまずかったんだよな。あんな中二だらけの文章で人が来るわけ無いんだよ」
「おうおう! マサヤ、それは私に喧嘩を売っているんですね? そうですね?」
「止めろバカ! だから、そうやって直ぐに炸裂魔法を使おうとするな! 何でお前は怒ると直ぐに魔法を使いたがるんだ! そんな行動をするから俺達の周りには他の冒険者もよってこないんだよ!」
「な、なな! なにおう! マサヤ、言ってくれましたね? 言っておきますが人が来ないのはマサヤの書いた文章がおかしいからでしょう! 何ですかあの詐欺師がいかにも使いそうな誘い文句満載の文は! あれではいくら私の書いたチラシが最高でもマサヤの所為で誰も来ませんよ!」
「何おう!」
「何ですか!」
そうやって俺とるりりんが言い争っていると誰かが俺達のいるテーブルに近づいてきた。
「ねぇねぇ、一ついいかしら?」
「「あ?」」
俺達が振り返るとそこには白いプリーストの服を着た透き通るような青いショートヘアーの美少女がいた。
「はい! 何でしょうか?」
「ぶべっ!」
相手が美少女と分かった瞬間、俺は目の前のるりりんを突き飛ばしてその女の子の手を握った。
うーん、見た目はすっごい美人! プロポーションもどっかのアークウィザードと違ってなかなか……年は俺と同じ16くらいか?
「ちょっとマサヤ! 何でいきなり突き飛ばすんですか!」
「失礼、よければ貴方のお名前を聞かせていただいてもいいでしょうか?」
「ねぇ、その子めっちゃ怒ってるけど無視して大丈夫なの? え、かまわない? じゃあ……コホン、私の名前はマリア! アクシズ教のアークプリーストにして、この町の教会で働いているわ!」
「…………アクシズ教?」
聞いたことのない宗教だが、なんとなく嫌な予感を覚え俺が頭を捻っていると、るりりんが突然叫んだ。
「あーーっ! アクシズ教と言ったら水の女神アクアを御神体として、日夜近所迷惑も考えずにエリス教徒への嫌がらせや一般市民達への勧誘という名の迷惑行為をしていると有名な、あの魔王軍でさえもウザイししぶといから寄り付かないと有名なアクシズ教じゃないですか!」
るりりんがそう言うと目の前の美少女は顔を激昂させてるりりんに食いかかった。
「はぁああ! アンタ何ふざけたこと言ってんのよ! 私達アクシズ教徒はただ女神アクア様のすばらしさより多くの人に伝え、忌まわしきエリス教の邪教徒から守っているだけですぅー! はっ! そんなアンタはそのイッターイ見た目……紅魔族でしょう? プップププのプー! 紅魔族って言ったらアレじゃなーい。アホみたいな名前にセンスの無さ! あの魔王軍でさえもイタイ、見てられないって手を上げる紅魔族じゃなーい プププのプー!」
次の瞬間、るりりんとマリアが無言で睨み合いメンチを切り出した。
「はぁ? 貴方、この私にケンカを売っているのですか? いいでしょう……そのケンカ買います。お題は私の超強力な必殺魔法で支払ってあげますよ。いえいえ、お釣りは結構です。だってアクシズ教徒の方にはこの私の魔法に見合う実力は持っていないでしょうから」
「カッチーン……! 超頭に来たんですけど……? アンタ調子に乗っているわね。いいわ……だったらアクシズ教徒の中でもトップクラスの実力を持つこの私の力を見せてあげるわよ」
二人が仲良く言い合う中、俺はるりりんの言葉の何かが気になり、それを思い出そうとして気づいた。
「あああああああああああ! 女神アクアってあの、俺をこの世界によこしたちゃらんぽらんの駄女神かぁあああああああ!」
「はぁああああ! アンタ今、アクア様を何て言ったぁああ! もう許さない! この邪教徒ども! アークプリーストでアクシズ教でもっともアクア様を愛すこのマリアが神に代わって天罰を食らわしてやるわ!」
そして、取っ組み合いのケンカをしだした俺達は十分後仲良く三人でギルドの酒場からたたき出された。
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