【08】街外れの丘にて

少女「あれれ。もう水筒の水もなくなっちゃったや……もう夏だもんねぇ」


剣「無理をしなくてもよいのだぞ?」


少女「……するよ、する。するし、してきたんだもん。しなきゃ後悔するもん」


剣「せめて水くらい補充してきてはどうだ?」


ザワザワガヤガヤ……


少女「……なんだか、街の方が騒がしいね」


剣「呼び掛けが始まったのではないか?」


少女「そっかぁ……って……あれ?なんか音、近づいてきてない……?」


剣「言われてみれば、そんな気がせんでもないな」


…………ザワザワガヤガヤ


「少女ちゃーん!薬、ありがとなー!恩返しに来たぜー!」


「おーい!少女ちゃーん!結婚してくれー!」オイバカッヤメロッ


「盗賊捕まえてくれたお礼にロープ持ってきたよー!」


「お友達、救うんだろ!今度は協力させてくれ!」


「みずくせぇな!もっと早く相談しやがれー!」


「喋る剣とかいう面白いのがいるんだって?かーっ!なんでもっと早く教えてくれねぇんだ!助けるぞおらー!」


「少女ちゃーん!りんごありがとー!」


「俺らが少女ちゃん置いて逃げられるわけねぇだろ!」


「さくらんぼも美味しかったよー!」


……ワイワイガヤガヤ


少女「えっと……これって……」


少年「えへへ、なんというか、いつのまにかこんなことになっちゃった」


怪盗「あんな理想論に反対する人間がいないなんて、クレイジーな街だね」ヤレヤレ


商人「ほら、ロープ繋いでいくぞ。この先はツルギさんに結んでやってくれ。街の全員で引っ張るんだ。綱引きだ、綱引き」


眼鏡「……綱引き、ひさしぶり」


八百屋「ロープが足りねぇぶんは服で補うがな!がっはっは!」


鍛冶屋「俺も手伝ってやる。そん代わりその剣、抜けたら少し見せて貰っていいか?」


姫「私もここまで人が集まるとは思ってなかったよー!」


王「ふぉっふぉっふぉっ……ワシのような老いぼれでも少しは力の足しになるかのう?」


少女「えっと、これって、えっ、あの、えっ……」ポロ……


鍛冶屋「おいおい、なんで泣いてんだよ、ほら、こいつ結べ結べ。後で渡すもんもあるんだ。さっさとやるぞ」


少女「わかってるけどっ……でも、なんでかわかんないけど、嬉しくって、涙が……止まんなくて……嬉しいのに……止まんなくて……うぇ……」ポロポロ……


剣「……どうやら、少女の願いはわがままというわけではなかったようだな」


剣「ここに集まってる人間は全員、少女と同じことを望んでおる。同じ夢を見ておる。同じ道を歩んでおる」


剣「独りよがりでなければ、わがままはわがままとは言わんよ」


少女「うんっ……うんっ……!」ポロ……



眼鏡「……私は、みんなに強化魔法をかける」


商人「この人数にか……?」


眼鏡「……がんばる」メガネキランッ


…………


姫「はーい皆さん結んで結んでー!やることのない人は前の方からロープつかんで待機してくださーい!」


少年「まとめるの上手いですね」


姫「ふふん!お姫様ですから!……ってほら、少年くんも!口じゃなくて手を動かす動かすぅー!」


少年「はぁーい」


…………


怪盗「これ、召喚魔法使えばかなりの戦力アップになるんじゃないかな?」


鍛冶屋「……召喚魔法?」


怪盗「ドラゴンとかミノタウロスとか喚べるんだけどな」


鍛冶屋「……ロープや服が千切れるんじゃないか?」



少女「……ねぇ、ツルギさん。これ……何人いるのかな……」


剣「一万……は越えてるやもしれんな……」


少女「私、知らない間にこれだけの人と繋がっていたんだね……これだけの人が……同じ道を歩んでくれるんだね……」


剣「森で泣いてた頃とは大違いのようだな」


少女「ふふっ……本当……そうだよ……本当に……ツルギさんのおかげで……ううん。これが、私が選んで、私が歩いてきた道なんだよね……。よし!元気が出てきた!……手伝ってくるね!」


剣「……うむ」


少女「私も手伝いまーす!」


…………


「いやいや少女ちゃんはいままでがんばってたんだろ?」


「休んで休んで!」


「えへへ……そんなわけには……」


「おっ少女ちゃん!さくらんぼいるかい?お茶も持ってきてあるぞ!」


「えっ!くれるんですか!?わーいわーい!」


ワイワイガヤガヤ


…………………


…………


……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る