【05】街外れの丘にて
~夜~
剣「……む。どうしたのだ、少女。こんな時間にこんなところに。危ないぞ」
少女「えへへ……パーティも終わったから……来ちゃった……隣、寝転んでもいい?」
剣「あぁ、構わん。……楽しかったか?」
少女「うん、とっても。とってもとってもとっても、楽しかった。お姫様とも仲良くなれたんだよ。一緒に踊ったんだ」
剣「それは、よかったな」
少女「ツルギさんも来ればよかったのにぃ」
剣「私はここから動けないからなぁ」
少女「うそつき」
剣「本当だ」
◆
少女「わたし、ツルギさんと出会って勇者になりたいと思ったんだ」
剣「知っておる」
少女「勇者になるために剣が強くなりたいと思ったから少年くんと出会えたし、勇者になるために魔法が使えるようになりたいと思ったから眼鏡ちゃんや商人さんと出会えたんだ」
少女「……それだけじゃなくて。八百屋さんも、薬屋さんも、鍛冶屋さんも。……きっと、みんなみんな、わたしとツルギさんが出会ったから出会えたんだと思う」
剣「それは違うぞ。少女は少女だから、会えたんだ」
少女「ううん。やっぱり、わたしはツルギさんと出会えたからここまで色々な人と出会えたんだよ。じゃないと、剣のときも、魔法のとしも、薬草のときも。……もしかしたら野球だって。わたしは何もしようと思っていなかったんじゃないかな、って思うもん」
剣「そんなことはないだろう」
少女「……それだけじゃないよ。街でもそうだし、今日のパーティだって、そう。今日もお姫様だけじゃなくて、いろんな人がわたしに話しかけてくれたんだよ。わたしね、それがとってもとってもとっても、嬉しいんだ」
少女「わたしはね。ぜんぶ、ぜんぶ。まだわたしの気がついてないとこまで、ぜーんぶ。ツルギさんのおかげだと……ツルギさんとの出会いのおかげだと思うの」
剣「……そうか。では、そういうことにしておこう。少女が人の話を聞かないのは今に始まったことではないしな」
少女「ツルギさんの話は"人"の話じゃなくて、"剣"の話だよ」
剣「はっはっは。確かにな。……しかし、なんというか、こそばゆいな」
少女「……ねぇ、ツルギさん」
剣「どうした?」
少女「星、綺麗だね」
剣「……うむ。ここは街より灯りが少ないからな」
少女「わたし、ツルギさんと出会っていろんなことを知ったよ」
少女「まだまだ強くないかもしれないけれど少年くんのおかげで剣が使えるようになったし、眼鏡ちゃんに教えてもらって魔法も少しは使えるようになった。商人さんも、ときどき薬草の話をしてくれるんだ」
剣「それはいいことだな」
少女「でもね、わたしにはね。まだまだ、ほんとにまだまだ。知らないこともできないこともわからないことも、いっぱいあるんだ」
少女「この街の外のことはなーんにも知らないし、まだまだ知らない魔法も薬草もいっぱい。……ここから見える星空がこんなにも綺麗だなんてことも知らなかったんだよ」
剣「知らないことは恥ではない。ゆっくり知ってゆけばよい」
少女「……それでね。今日、わたしね。お姫様に冒険者になるかどうか、聞かれたんだ」
剣「ほう、冒険者か……」
少女「街の外に行けばもっともっといろんなことがわかるようになるのかな?いろんなものを知れるのかな?……もっともっと、いろんなことができるようになるのかな?」
剣「それは……そうだろうな。外の世界は広い」
少女「だよねぇ……」
剣「しかし、勇者になるのとは別の話だ」
少女「……へ?」
剣「確かに、街の外に出れば少女は色々なものを知ることができるだろう」
剣「確かに、街の外に出れば少女は色々なものがわかるようになるかもしれん」
剣「確かに、街の外に出れば少女ができることも増えるだろう」
剣「過去にはそうやって"力"を養い、私を抜いた勇者も数多くいた。……しかし全く何も知らずとも、全く何もわからずとも、ただひたすらに剣術だけを磨き上げ、私を抜いたものもおる。
剣「まだつぼみであっても才覚だけを持ってして私を抜いたものもな」
剣「一重に、勇者を目指す道に正解などはない。様々だ。千差万別だ。それは勇者の剣である私が保証する」
剣「……ならば、大事なのは後悔のないように己の進みたい道を信じて歩んでいくことだと、私は思うぞ」
少女「……えへへ、ツルギさんの言ってることは長くてよくわかんないや」
剣「話しがいのないやつだ。……少女は難しいことを考えずに選びたい道を選ぶのがよい、という話だよ」
少女「はぁーい。……もう少しここで星を見ていても、いい?」
剣「……好きにしろ」
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