第11話 フィートVSオリュンポス(本人)

 ストリクトはフィートと一緒に行動することにした。体が丈夫なフィートなら誰かに見つかって逃げる時に背負ってくれるからだ。フィートは初めて見るものを一つも見逃さないように走り回っている。黒くて小さな粒が固められた道の先に白く塗られた金属製の門がある。門の向こう側の道は赤と白で色分けされたタイルが敷き詰められている。茶色くてかさついた表面に覆われた太い柱が空高く伸び、無数に分かれた細い管のそこここから緑色の平たいものが広がっている。

「なあ、ストリクト。この大きいの何だろうな」

「わからないよ。シバに訊いてみたら」

 シバはレガシーを追いかけてどこかへ行ってしまった。残されたフィートは八時間後にアラームを設定してストリクトの手を引いてここまで来たのだった。ストリクトは先生に見つからない方法を考える。周囲のものを観察することを目的としたフィートを目立たないように行動させるには何をしたらいいのか。最悪の状況をいくつも想定しておく。下を向いて歩いているとフィートがまた急に走り出し、掴まれた手を引っ張られる。フィートにゆっくり歩くように言おうとするが、口が思うように動かない。引き摺られるようにフィートについて走っていると、前から来る人間に声をかけられ、フィートが急ブレーキをかけた。

「フィート、ストリクト。お前達、こんなところで何してる」

 声の主の顔は見覚えがあった。ストリクトが焦点を合わせてよく見ようとしていると、フィートがストリクトを背負い、全速力で声の主と反対の方向へ走った。

「フィート、今のって」

「オリュンポス先生だと思う」

「無理だよ。追いつかれる」

 フィートは走りながら右に顔を傾ける。

「あっちに細い道が見えるだろ。俺がオリュンポス先生を引き付けてる間にお前は逃げろ」

「そんなのできないよ」

「できるって。もうダメ。重い」

 琉星がストリクトの服の端を掴みそこなった瞬間、フィートが方向転換し、右足を踏ん張ってストリクトを投げ出した。ストリクトは道路を転がってフィートが示した細い道の近くに倒れる。ストリクトは走った。フィートと琉星は正面から睨み合った。

「遊ぼうよ先生。俺、外の世界を見るよりそっちの方がいい」

 シャツの袖をまくってすっかり公園の子供達そっくりな身のこなしのフィートが言う。琉星はフィートの予測とは違う行動を取った。

「あのな、今遊んでる場合じゃないぞ。ブルームーン先生はどうした。後で大変なことになるぞ」

「ブルームーン先生はもういないよ。レガシーが壊したから」

 琉星は驚いた表情をする。

「そうなのか。これはまずいことになったな」

琉星は口から息を吐き出して、フィートと同じように拳を構えた。

「仕方ない。お前に格闘技を教えたのは俺だからな」

 フィートがバネを生かして高速で琉星の間合いに飛び込んでくる。琉星は反射神経でそれを避け、フィートの空いた脇腹に軽い蹴りを入れる。フィートは自分が飛び込んだ勢いでその蹴りをまともに食らい後ろに突き飛ばされる。道路にフィートの表面を覆った人工皮膚の欠片が練り込み、剥き出しになった金属部分が音を立てて削れる。琉星がその音に反応し動きが鈍くなった瞬間をフィートは逃さなかった。素早く体勢を立て直し琉星の横っ腹に突進する。琉星はまたもやフィートの動きを先読みし肩の関節部分に拳を当てる。フィートは垂直にその場に叩きつけられる。フィートは肩に異常を検知するが自分ではどうすることもできない。

「こんなことしたら際さんに怒られそうだけど、仕方ないよな」

 琉星が近くに落ちていた太い木の枝を掴み、フィートの頭部と胴体の接続部分に何度か当てる。そして枝を頭上高く上げた。

「先生、何するつもりなんだよ。ちょっと待って」

 うつ伏せで動けないフィートは頭部を持ち上げて琉星の行動を凝視する。琉星は枝を力いっぱい振り下ろそうとした。危険察知センサーが大音量で鳴った。と同時に、げほっという聞きなれない音が聞こえた。

 気が付くとフィートは立たされて肩を元に戻されていた。琉星が息を荒げて立ち上がり辺りを見渡す。琉星を吹き飛ばした何かは姿を消していた。フィートと琉星は互いに見つめ合った。フィートは走った。琉星は追いかけるより先に際に事態を報告しようとポケットからタブレット端末を出した。悠真からの着信履歴が数十件入っている。ぎょっとしてタブレット端末をポケットに戻すと、財布がないことに気付いた。琉星は真青になって監視室に向かった。

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