第10話 脱走

 机と机を固定している紐を切って解き、塞がれた通路を切り拓く。シバとストリクトが紐を切る係で、レガシーとフィートが机を移動させる係だ。

「外に出た後はどうするんだ」

 フィートが机を持ち上げながらレガシーに訊く。

「各自好きなところへ行って、八時間後に再集合」

「それまで何をしてもいいの」

 シバが訊く。レガシーはシバに言おうとしていたことがあったが後回しにした。

「いいよ。単独でもいいし、皆は一緒に行動してもいい」

「やっぱりやめようよ、こんなことしたらいけないよ」

 ストリクトが震える手で紐を切りながら全員に向けて言う。

「何もしないで戻されるより、色々してから戻された方がいいだろ」

 フィートとシバが同意する。ストリクトは多数決で決まったことには反論しない。

「レガシーはどこへ行くのか決まってるの」

 シバが机の上に乗ったレガシーを見上げる。レガシーは何を言おうか考えて数秒黙る。

「レガシー。どこに行くのかって、シバが訊いてるぞ」

 フィートが言うと、ストリクトもレガシーを見つめる。全員の視線がレガシーを捉える。

「俺は外の世界を探検する」

 レガシーは机をいくつか移動させて奥へ進んだ。さらに長い廊下が続いていた。レガシーは三体を呼んで机の上を通過する。レガシーには出口までの道がわかっている。真っ直ぐ出口を目指す。三番目のT字路で左に曲がる。その先に階段がある。フィートがストリクトを背負って階段を駆け上がる。三階分の階段を一気に上り、隙間から光が見える扉を開けた。

 レガシーは扉を出るとその場に立ち竦んだ。後ろにいたシバがレガシーの背中に顔をぶつける。フィートはストリクトを背負ったまま走り始めようとして、レガシーを振り返る。

「どうしたんだよ、レガシー」

 レガシーは動かない。視覚センサーだけがきょろきょろと辺りを見回して微動している。フィートがストリクトを下ろす。二体がレガシーに近づいてくる。レガシーの視界では二体の胸から棒線が伸びて、先端に「未設定端末」という表示が出ている。後ろからシバの声がする。音声解析の結果が表示されるがこれも「未設定端末」だ。横を向くと遠くから何かが近づいてくる。ヒューマノイドと同じ形をしている。棒線が現れ、「学生」という表示が出る。

 何が原因かレガシーはわかっていた。ゆっくりと歩き出し、周囲を見回して三体に指示した。

「今から自由行動開始だ。八時間後にここに再集合」

 レガシーは初めての外の世界に勢いよく飛び出した。

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