第5話 オリュンポス先生の体育の授業
体育の授業は朝礼や座学の授業で使う教室の隣の、教室二個分の広さがある運動場で行われる。それぞれの興味や能力に合わせてカリキュラムが異なり、四体は別々にオリュンポスから体を使った作業を教わる。オリュンポスは特にフィートの教育に精力的で、複数の格闘技の型をダウンロードし、自分が相手になりながら実戦経験を積ませている。
フィートの小さい拳がオリュンポスの腹に直撃し、鉄板の装甲が少しへこむ。
「おお、フィート。お前もやるようになったな」
「昨日、レガシーと一緒に改良したんだ。俺の腕、もっと強い力が出るようにしようって」
「あんまり改造しすぎると、ブルームーン先生に怒られるぞ」
「何で」
「俺達は壊されても構わないが、他の生徒を誤って壊したらどうする」
「レガシーに直してもらうよ」
オリュンポスは数秒フィートから目を離し、虚空を見つめた。レガシーは逆さまに見えているオリュンポスの動きを録画する。
「あのなあ、レガシーだって万能じゃないんだぞ」
オリュンポスが話し始めたところで録画を止める。レガシーは全身に力を込めて絡みついた縄を振り子の原理で揺らした。勢いがついたと判断した瞬間縄を解き、空中に飛ぶ。計算通りの放物線を描いて話している途中のオリュンポスに激突した。倒れ込んだオリュンポスが立ち上がりながら叫ぶ。レガシーはすぐさま立ち上がると走って垂れ下がっている縄にしがみつき、天井近くまで上った。
「フィートより先にオリュンポス先生を倒したぞ」
「やい、レガシー。下りてこいよ」
フィートが真下で喚いている。レガシーは保存したオリュンポスの映像をサブフレームに開いて再生しながらフィートの相手をする。
「やだね。悔しかったらこのくらいのことしてみろよ」
「俺が物を使うのが苦手なのを知ってる癖に」
「慣性の法則をうまく利用すれば、ここから三回転して着地することもできる」
レガシーは腹部を急激に縮めて体を丸め、縄を離し、回転しながら後ろ向きに飛んで床面に着地した。部屋の隅で座って見学していたシバとストリクトが歓声を上げる。フィートが悔しがる。オリュンポス先生はフィートの頭をがしがしと撫でる。
「今まで色んな身体美を見てきたけど、あんなのは初めてだ」
「先生までレガシーを褒めるのかよ。先生はああいうのもっと沢山見たことあるの? 俺もできるようになりたいよ」
「ああ、外にはもっと沢山、驚くようなものがあるよ」
「そういうのデータ化して俺に送ってよ」
「いや、ダウンロードしたくらいじゃ全然再現できないくらいすごいよ」
「じゃあ、俺達が外に出たら教えてよ」
「ああ、約束だ」
オリュンポスはまたフィートの頭を強く撫でた。フィートが手を振り払ってまた何か言う。レガシーはオリュンポスの反応を一つも漏らさず記録していた。
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