第4話 ブルームーン先生の国語の授業

 ブルームーンの国語の授業はレガシーが最も苦手な授業だった。国語の教科書には見たことがないものが沢山出てくる。手掛かりは教科書の文章の隣に描かれたイラストと短い説明文だけだ。レガシーは「海」を見たことがない。「海」というものが「塩」の」水」が「大地」を飲み込んでいる場所だと説明されても「塩」も「水」も「大地」も、どんな質感でどれだけの体積があってどんな感触なのかを知らない。国語の授業を楽しみにしているのはシバだけだ。シバはブルームーンに様々な質問を投げかけ、文章を理解しようとしている。ブルームーンはシバの理解が深まるように、わからない言葉の意味を色々な言葉で説明する。ブルームーンの説明は明瞭で詳細だ。それはブルームーンがそれらのものを見たことがあるからだ。レガシー達が行くことを許されない外の世界で。

 ブルームーンがレガシーとシバの間を通る。一瞬だけブルームーンの顔を見る。鮮やかなライトブルーのニットのカーディガンの後ろを覆う長くて黒い髪。青白いすべすべの肌にピンク色の唇。ブルームーンの姿はレガシーにある情報を呼び起こした。いつどこで保存されたかわからない一部が破損したデータだ。こことは少し違った印象がある。もしかしたら外の世界かもしれない。そこに記録されている情報はブルームーンが関係していると考えられるし、違うとも思う。バグの可能性もある。データを照合するにも壊れていて下手にいじれない。レガシーはこのことを誰にも話していなかった。話したらどうなるか予測できなかったし、伝え方がわからなかった。

「レガシー、次のページから読んで」

 レガシーは瞬時に思考を中断し、教科書を読むことに目的を移行した。読みながら別のことを考えていたことがブルームーンにバレていないかわからなかった。

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