第3話 ディメンション先生の算数の授業
ディメンションが担当の算数の授業は腑に落ちないことだらけだ。人工知能は計算式を直接入力されれば正しい答えを出せるのに、ディメンションは教科書やホワイトボードに書かれた問題をノートに書き写し、途中の計算まで間違えずに書いて提出させる。
「それじゃ、ホワイトボードに書いた事をノートに写した人から問一と問ニを解いて俺に見せに来い」
レガシーは授業が始まってから初めてボールペンを持ち、ノートを開いた。ホワイトボードの計算式は写さず、ページの一番上から問一と問ニの式と答えを書く。一分あれば十分な作業だ。レガシーは一番にノートをディメンションに持っていく。ディメンションはノートを一目見てレガシーに返した。
「おい、レガシー。ホワイトボードに書いた事を写してないじゃないか。それに途中の計算が書いてない。やり直し」
「合ってるんだからいいじゃないですか」
「ダメダメ。読んで、書いて、考えてから答えを出さないと授業にならないだろ」
「俺達、授業なんかしなくても計算くらいできるよ」
「人工知能だからな。やり方をダウンロードすれば何だってできるようになる。でも、この授業はそうじゃないんだ。手や目を使って、自分が見たことが間違ってないか、書いたことと見たことが同じか、途中で書き間違えたりしてないか、そういうことを確認しながら勉強するんだよ」
「でも、間違えたことないですよ」
ディメンションはストリクトが手を挙げて先生を呼んでいることに気付き、片手を上げてレガシーを制してストリクトに発言を促した。
「先生、計算が合いません」
ディメンションはレガシーを従えてストリクトのそばに行き、しゃがんでノートを覗きこむ。レガシーも一緒にストリクトが書いたノートの式を見る。ストリクトは「3」と「8」を間違えて書き写していた。
「ストリクト、この式を読んでみろ」
ストリクトはディメンションの指が示している教科書の問題を間違えずに読み上げた。
「じゃあ、こっちの自分で書いた方も読んで」
「あ、先生。私、書き間違えてました」
ストリクトは消しゴムでノートの間違えたところを消そうとしたが、力の加減ができず、ノートが破れる。ディメンションはテープを持ってきて破れたところを貼り合わせた。
「慌てなくていいから、間違えないようにやれよ」
「はい。ありがとうございます」
ストリクトはノートと教科書をじっくり見比べて鉛筆で式を書きながら計算をやり直した。レガシーはディメンションに肘で小突かれる。見上げるとディメンションの笑顔が見えた。
「お前も、ちゃんと全部やらなきゃダメだぞ」
レガシーは突っ返された自分のノートを乱暴に掴んで席に戻った。
「俺は間違えないし」
「聞こえてるぞ」
教卓に戻ったディメンションがレガシーに向けて言った。
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