第46話 借金王、あきれる

「待ちやがれ!」


だが、追いかけた先で俺達が見つけたのは固く閉ざされた隠し扉だけだった。


「くそっ、逃げられちまった。黒幕はエルフなのか? 妖精達の女王がどうこう、とか言ってたよな」

「まあ、関係があるのは確かでちね。とにかく、これで敵の手口はだいたいわかったでち。都市や集落に共通の水源がある場合はそこを汚染。無い場合は黒死病に感染したネズミを召喚するというわけでち」


アリーゼは床の魔法陣を調べ始めた。一方、クリスはエルフの魔女が残した品々を漁っている。


「ふん……なかなか高く売れそうな宝石類があるな。悪くない稼ぎだ」

「あっ、クリスっち! 独り占めするつもりでちか!? 」

「こういうのは早いもの勝ちだろう?」

「ずっ、ずるいでちー!」

「そういうのはあとにしろよな……。早くこの魔法陣を破壊して、メアリに報告しようぜ。恐らく他の街にもこんな仕掛けがあるはずだろ。……おーい、聞いてるかー?」


俺を無視して口喧嘩を続けるアリーゼとクリスにあきれていると、ジャンヌが背中にそっと触れてきた。


「ダリルさん……あのエルフの人が言っていた『巨人達』って?」

「イングランド北方、スコットランドに住んでる巨人族だろうな。嵐の巨人、炎の巨人、毒の巨人、丘の巨人……色々いるんだが、そいつらが軍勢になって襲ってきたら……かなりやばい」

「また、戦争になるのですか……」


ジャンヌは悲しそうな顔をした。


「ああ。だが、やらなけりゃ……皆殺しにされちまう。守りたいなら、戦わねーとな。大丈夫だ、俺がずっとそばにいる」


俺がジャンヌの背中をポンポンと叩くと、彼女はうなずき、笑顔を見せてくれた。


「そうですね、大切なものを守るためなら……戦えます。私は剣を振るうことはできないけれど、ダリルさん達が怪我をしたら絶対に治しますから、ね?」


そして彼女は静かに俺に身体を寄せてきた。

その瞬間。


「そこまででち!」

「んんん! んんん!」


すぐ後ろからアリーゼの叫びとクリスの咳払いが聞こえた。


「あっ、あぶないところだったでち……ボクたち、目先のアイテムに目がくらんで、もっと大きな物を失うところだったでちよ」

「そ、そうだな……。私としたことが油断していた」

「なっ、なんだよ。もういいのか?」

「ダリルっち、まるでボク達が邪魔者みたいな言い方でちね?」

「俺が声をかけても無視してたのはお前らだろ?」

「もう終わった!」

「もう終わったでち!」


アリーゼとクリスの息は、見事にぴったり合っていた。

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