第43話 借金王、げんなりする
「地下道に入る前に……クリスっち、こないだ
「あと三つある」
「俺も。
「それなら大丈夫でちね。敵はネズミを使役する魔術師でちから、きっと火を使う場面があるでちよ。クリスっち、念のためジャンヌっちにも一つ渡しておいて欲しいでち」
「わかった」
ジャンヌはクリスに渡された油袋を珍しそうにつついた。
「うわ……けっこう、プニプニしてるんですね」
「使うまでは、この油を含ませた羊皮紙の筒に入れておけ」
そんなやり取りを見ているアリーゼの目が、なぜかあやしく輝いた。
「ダリルっち……あの油袋って、豚の膀胱なんでちよね? それを手渡すクリスっちと、もてあそぶジャンヌっち……これってかなりエロい場面じゃないでちか?」
「え、エロいのはおまえの脳みそだろ!」
だが彼女はさらに顔を近づけ、鼻息も荒く主張してきた。
「でもでも膀胱、つまり……た、タマタマを手でサワサワしてフニフニしてるんでちよっ!? エロエロじゃないでちか!」
次の瞬間。
アリーゼの後頭部で軽やかな破裂音がしたかと思うと、彼女は頭から油まみれになっていた。クリスがクールに言い放つ。
「手が滑った。それから油袋は残り二つだ」
「言われなくてもわかるでち!」
あわててジャンヌが布で拭き取ってやろうとしたが、油はあまり取れなかった。まあ、そりゃそうだ。
「ごめんなさい、これ以上は……」
「ああ、大丈夫でち。……
アリーゼが小さく指を鳴らすと、一瞬で彼女にこびりついていた油は消滅し、長衣の染みもなくなった。クリスが腕組みしながら感心したように言う。
「……便利なものだな」
「えへん。魔術師が最初に習う初歩の魔術でちよ。洗濯・掃除・繕い物など、家事全般なんでもござれでち」
「これから私の服の洗濯はお前にやってもらおう」
「お、お断りでち!」
「おまえら……口喧嘩してる場合じゃねーだろ! さっさとロンドン塔に行くぞ!」
にらみ合うクリスとアリーゼを俺は必死に引き離した。まったく……イングランド王国の命運を託されたフランスの英雄達(?)が、こんな間抜けな争いをしてるのをメアリが見たらなんて言うだろうか?
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