第2話 神と白物家電

「いいわけないだろ。」


反射的にそう答えていた。


「えー私早く帰って録画しといた午後ロー観たいのに。」


「今日の午後ローはあんまり面白くなさそうだったぞ。」


「君は午後ローの素晴らしさがどこにあるかわかってないね。あのB級感を私は求めてるんだから。他じゃ見れないよ。唯一無二だよ。」


「それもそうか。確かに午後ローが名作ばっかり放送するのは何か違う気もするもんな。」


「そうなんだよ。私は午後ローのそういうところが好きなんだから。」


 本当に午後ローが好きなのだろう。幼女は自信満々に言い放った。

 ちなみに午後ローとは正式名称を午後のロードショーと言い、テレビ東京で月曜から木曜のお昼に映画を放送している放送枠のことである。金曜も映画を放送しているのだがそれは金曜シアターと言い、また違う枠なのはあまり知られていない気もするが、俺の完全な主観によるとB級映画がメインであり、たまに名作を放送するといったバランスな気がする。

 いきなり話が逸れてしまったが、この会話をテレビ東京の人が聞いたら泣いて喜んでくれそうな気もするしまぁいいか。とりあえず話を戻そう。


「何でこんな状況になったんだ?」


「わかんない。気付いたらこうしてたの。」


 何とも暴力的である。どうやら感情をすぐぶっ放してしまう曹操みたいな幼女らしい。


「じゃあどうやってこいつを気絶させたんだ?」


「それはこの拳だよ。」


「かっこよすぎるだろ。」


 危ない。危ない。

 俺ほどの人物じゃなければあまりのかっこよさに惚れていたところだろう。幼女とは思えないハードボイルドっぷりだ。


「もうひとつ聞いてもいいか?」


「いいよ。何でも聞いて。」


 幼女はやたら嬉しそうだ。


「まさかこの学校の生徒じゃないよな?何でここにいるんだ?」


「私って神様なんだけどこっちの業界も人手不足でさぁ。だから優秀な人材をスカウトしに来たんだけど彼に拒否されちゃって...」


 そう言って幼女は鳴海を指差した。


「だから殴ったの。そしたら気絶しちゃった。」


「何でこうなったか完璧にわかってんじゃねぇかよ。」


「私はちゃんと説明したんだよ。私は神ですって。」


「誰がそんな自己紹介信じるか。明らかに怪しいわ。」


「だいたいその説明に突っ込みどころが多すぎるわ。どこから突っ込めばいいんだよ。」

 俺は頭を抱えた。どこから突っ込んでいいか分からず流しちゃったけど神様?

今時の小学生はそんな雑な嘘をつくのか。

いや、でも鳴海を気絶させるほどの力を持っている訳だし...。

本当に神様なのか?いやいや、そんなわけないだろ。落ち着け。目白栄。

まさか冒頭で神様信じてますとか言ったから本当に出てきちゃったの?

そもそもこんな物騒な娘が神様なの?

イメージ違いすぎない?もうちょっと威厳感じさせてくれない?

勘弁してくれよ。

 とにかくまずはこの幼女が本当に神様なのか確認しないと。俺は自分に言い聞かせ、深く深呼吸をした。


「とりあえずお前が神様(笑)なのはわかったよ(笑)」


「小説だからってバカにしてるのがばれないと思ったら大間違いなんだからね。」


「いやいやしてないって(笑)」


「やっぱりしてるじゃない。(笑)を多用してるじゃない。」


 幼女は少し怒っていた。そして、怒った顔もただの幼女だった。

全く神様には見えない。


「でもいきなりそんなこと言われて信じろって言うのも無理がないか?どう考えても小学生の悪ふざけとしか思えないし。」


「それもそうか。そうだね。」


「どうにかして証明できないのか?神様なら口から火吐いたり雷落としたりしてさ」


「神様への要求が高すぎるよ。私は確かに神様だけどそういうラスボス的な神様じゃないの!メラゾーマとかイオナズンは出せないの!」


「でもその代わりと言っちゃあなんだけど本当は下界では見せちゃあいけないんだけど特別にこれを見せてあげよう。」


 そう言って幼女は運転免許証のようなものを提示してきた。カードにはご丁寧に顔写真も入っている。


「何だこれ?」


「神様であることを証明するカードだよ。これがあれば私たちの世界ではいろんな恩恵が受けられるんだから。」


 よく見ると神であることを証明できるカードと書いてある。

 もう少し捻れよ。

 安直すぎてびっくりしたわ。

 一周回って捻ったネーミングみたいになっちゃってるだろ。

 これ以上突っ込んでも時間の無駄なので、俺は質問を続けることにした。


「例えば何があるんだ?」


「いろいろ割引されたり、ポイント貯まったりするし、貯まったポイントは白物家電と交換したりもできるの。」


「そっちの世界も意外としっかりしてんだな。もっと自由な感じかと思ってたわ。」


 白物家電って。なんだか夢を壊された感じだ。


「その顔はまだ信じてないのね。うーん。どうすれば信じてもらえるのかな。」


 そう言うと幼女は少し考え込むポーズをした。そして、何かひらめいたらしい。ドヤ顔でこう言った。


「さっきから誰も通らないと思わない?」


 言われてみればさっきから誰もこの自転車置き場に来ていない。

授業が終わっているにもかかわらずだ。確かにそこに違和感を感じていないわけではなかった。


「まさか...?この近くにいた人全員消したのか?」


 こいつならやりかねない。


「何でそうなる。そんな物騒なことしないって。」


 うちの生徒会長にしただろ。と思ったが口には出さない。


「じゃあ何でなんだ?」


「私が結界を張ったんだよ。さすがに聞いたことあるよね?結界。」


「結界!?それはすげぇ!」


「君が食い付く基準がわからないよ。今までにもっと食い付くところあったはずだよ。」


 そう言われても全く思いつかなかった。どう考えても結界がぶっちぎりの優勝だろ。


「じゃあこれで私が神様だって信じてくれるよね?」


 わかりました。信じましょう。いや、決して結界に心動かされたとかじゃなくて実際のところ、これだけの時間自転車置き場に人が来ないのはおかしいし。完全にとはいかないけど、少しは信じてやろう。


「結界見せてくれたし信じるよ。」


「どんだけ結界好きなのよ。こっちもそんなに食い付くと思ってないからびっくりだよ。」


 そして、少し気まずそうに言った。


「ところでさ、そろそろ保健室行ってあげたほうがよくない?」

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