第3話 超えた

 この寺の改修が始まった。寺の本堂をからくり舞台にする。歌舞伎のような芝居を打つ。役者は墓から帰って来た亡霊である。これに命を入れるのが住職の務め。

「どうしてそんなことができるのだ」

「恐山があるではないか」

「いたこの口寄せを真似るというのか」

「真似るのじゃない。ダイレクトでやる。映像空間を共有する」

聞き手と話してが納得しあっている。 

「本物よりもコピーのほうが信頼される。コピーには永遠の命がある」

「なるほど、本物は死者でも霊魂は永遠だってことか」

「それを呼び出すのがいたこの力だ。僧侶にその力を伝授する」

「昔の僧侶に戻すだけの事か。空海も最澄も超能力者だったからね」

「曼陀羅の世界をこの寺で創り出すのが私たちの仕事だ」

「今はやりの欧米流の複雑系というのは、曼陀羅の世界だからね」

「この寺を曼陀羅の世界にすれば最高の楽しみが生まれる」

話し手が自己満足している。

「それを我々が共出来すれば素晴らしい」

聞き手が期待している。

「これからの世界は本物と写体が入れ替わった世界になる。それに成功したものが勝者になる。無人戦争の時代の扉が明けようとしている。宇宙の果てから攻撃してくる」

話し手は興奮している。科学の進歩が人間を超えたと紅潮している。

「超能力の世界は科学以前から存在している。宗教家がすでにそれを体得している。我々はその能力を科学信仰によって失ったのだ。これからは科学を駆使して超能力を取り戻す。洗脳空間に人間が住む。生殖、再生、移植の三つの医療で人間が

永遠の生命を得るだろう。神仏はそんな知恵を人間に与えたのだ。超能力人間が生まれている。異次元の世界が地球に生まれている。科学以前の世界が科学によって再現されている。それが超能力の世界だ。皮肉なことだが、科学は宗教の世界に足を踏み入れている。それをこの寺で証明するのだ。電脳空間と超能力空間の同一性を証明するのがわれわの仕事である」

聞き手はいつの間にか話し手のお株を奪ってしまった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る