第2話
キリエの元から去ったユーグは気ままな空の旅に出かけていた。
ここまでくればキリエに追いつかれることもない。火の恩恵を直に受ける地域ではキリエの活動時間もたがが知れている。
本当は追いかけてきて欲しい。
本気で想いを告げても叶わない気持ちを持て余し、冷静に考える時間が欲しくて離れたのだ。
「これは山が活発になっているのか?」
ユーグの住処として快適な地域だったが、今日は空気がおかしい。
微弱ながら大地の振動を短い間隔で身体に感じていた。
これは大きめの噴火の予兆だ。
溶岩は絶え間なく流れ出ているが、激しい噴火は見たことはない。
産まれてから五年、ユーグにとっては待ちに待った成長の糧になる噴火でもある。
「歓迎しているとでも?」
巨大なドラゴンほど大地に与える影響は大きい。ユーグが現れたことで連動してしまったのだろうか。
「仕方ない。気を吸収してから戻るか」
キリエに心配をかけてしまっているかもしれないが、少しでも成長した姿を見せれば受け入れてくれるかもしれない。
叶わない夢でも縋ってしまうほど。愛に飢えていた。
初めて目を開けた時、目の前にいたのがキリエだ。淡い緑色の鱗が太陽の光にきらきらと輝き、澄んだ湖面のような瞳が喜びに細められた瞬間、ユーグは惚れていた。
産まれたばかりのユーグは最初、親愛だと思っていた。
それなのにキリエに口づけたい抱きたいという感情が沸き上がり、好きなのだという気持ちは収まることはなかった。
「俺は諦めない」
キリエに言った台詞をもう一度声に出し、決意を新たにした時、さきほどより大きい揺れを感じて地上に降りる。
途端に脚元から這い上がってくる大地の気に、力が溜まっていく。
「凄いな」
取り込むように両翼を広げると周りの地面が割れ、大量のマグマが噴出した。
ユーグは溢れる活力を感じて満足げに微笑み、火山活動が収まるまでその場に立っていた。
もう一度キリエに話をしようと森に帰ったユーグは騒然となっている森に人型に変化して降り、近くにいたキリエと同種族であるドラゴンに声を掛けた。
「何があった」
「お前、今まで何処にいた!」
強烈な怒りを受けて咄嗟に呼吸が上手くできなくなる。
いわゆる強い気に当てられたのだ。
「キリエが重傷を負って治療中だ。お前を探していて噴火に巻き込まれたらしい。死ななかったのが奇跡だった。お前は長老の元へ行くように言われている」
一気に説明を受けてユーグはすぐに理解できなかった。
「キリエが、追いかけて」
あの時、自分は何をしていたのか。
噴火の原因に思い至り身体が震えだす。
「俺のせいだ」
呟かれた声を聞くものはもう居ない。さきほど声を掛けたドラゴンはもう居なくなっている。
大切な人を失うかもしれないという怖さでその場から動けず、キリエに会いに行く勇気が出ない。
そもそも原因を作ったユーグに会いたいとキリエは思うだろうか。
怪我を負わせたユーグのことなど嫌いになってしまっただろう。恋愛がどうとかいう次元ではない。
「キリエ、ごめん」
微かに感じる気配に向けて謝ると、ユーグはそのまま長老の元へと向けて飛び立った。
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