Case23 電話対応
「もしもし、浄化法人の保安局ですか」
「はい、お電話ありがとうございます。こちら、浄化法人ニューノール支社・保安局コールセンターです。緊急のご用件でしょうか」
「そうです」
「ご自宅からお掛けになっていますか」
「はい」
「怪異はご自宅でしょうか」
「そうですね」
「緊急のご用件ですか」
「そうです」
「そうですか。怪我人はいらっしゃいますか」
「はい」
「ご家族ですか」
「私です」
「世帯主様でいらっしゃいますか」
「そうです」
「何人家族ですか」
「単身です」
「そうですか」
「はい」
「怪我の具合はどうですか」
「内臓が飛び出て血が溢れています」
「そうですか。緊急のご用件ということですね」
「はい」
「それではいくつか質問をいたしますので。怪異はどのような状態ですか」
「でかい化け物が廊下に出現している状態です」
「形状は」
「人型です」
「巨人ですね。姿勢はいいですか、悪いですか」
「悪いです」
「武器を所持していますか」
「巨大な包丁を持っています」
「そのほか、併発している怪異はありますか」
「ありません」
「家族構成を伺ってよろしいですか」
「両親と弟です」
「現在同居中ではありませんか」
「一人暮らしです」
「家主様ですか」
「そうです」
「緊急を要する案件とのことですが、どういった理由からでしょうか」
「腹から内臓が出て、出血もひどいという理由です」
「怪異の処理に際して、要求はございますか」
「いえ」
「ございませんか」
「ええ」
「処理班の人員に関して、指定はございますか」
「ないです」
「指定なさらない場合ですと、新人が選出される場合もございますが」
「かまいません」
「そうですか」
「ええ」
「その理由をお伺いしてもよろしいですか」
「新人に必要なのはまず経験だからです」
「なるほど」
「到着までどのくらいかかりますか」
「その質問にお答えする前に、出動部隊を確定させますので、少々お待ちください」
「はい」
「現在、巨人は移動していますか」
「いえ」
「どこにいますか」
「まだ廊下にいます」
「移動しておりませんか」
「ええ」
「ええと、緊急を要する案件ではありませんか」
「いえ」
「緊急を要する案件ということでよろしいですか」
「要します」
「その理由をお伺いしてもよろしいですか」
「腹部から内臓が出て大量に出血しているからです」
「かしこまりました。保安局へのご依頼はこれが初めてですか」
「ええ」
「会員登録はお済みですか」
「いえ」
「巡邏局への依頼は以前にございましたか」
「ないです」
「会員登録はお済みですか」
「いえ、していないです」
「会員登録されると依頼ごとにポイントが付きますのでお薦めです」
「いえ、いいです」
「保安局、巡邏局双方ともに作らないということでよろしいですか」
「ええ」
「かしこまりました。ご自宅は平屋ですか」
「賃貸マンションです」
「二階ですか」
「四階です」
「エレベーターはございますか」
「ありません」
「かしこまりました。怪異に遭遇した状況を詳しくお聞かせ願いますか」
「朝起きて廊下に出たら巨人がいて、巨大な包丁で切られて内臓が出て血も出ています」
「かしこまりました。この依頼と同時に、ほかの怪異の処理もご依頼いただけます。同時依頼ですと価格が十パーセントオフとなりますので、大変お得なサービスとなっております」
「いえ」
「依頼は一件でよろしいですか」
「はい」
「かしこまりました。ではただいまより部隊へ連絡いたしますので」
「あの」
「何ですか」
「近くの支部から巡邏官を派遣していただくことはできないのですか」
「なぜですか」
「そのほうが早そうなので」
「いえ、そちらが早いということはないですよ」
「そうですか」
「そうです」
「しかし、できればそうして欲しいのですが」
「あいにく、巡邏局と保安局では管轄が異なるので、こちらの権限で巡邏官を出動させることはできないのです」
「そうなのですか」
「ええ」
「では、巡邏局に連絡すればいいのですか」
「そうされると、時間が余計にかかりますよ。緊急の要件ということでしたね」
「はい」
「巡邏局は基本的に都市の見回りと、予約された怪異を順次処理していくことを担当しています。一方、保安局は特務官による修復などの対怪異処理と、緊急出動の二つの部門に分かれていて、この後者をお客様は現在必要とされていると思われますが」
「そうです」
「しかし、巡邏局へ連絡すると予約扱いになり、保安局の緊急出動部隊を使用できず、結果的に遅くなると思われます」
「ああ、そうなのですか」
「なので、緊急を要するというのなら保安局が正解です。要しますか」
「要します」
「その理由はなんでしょうか」
「内臓が飛び出て出血がかなりひどいからです」
「なるほど。かしこまりました」
「では、緊急出動をしていただけるのですね」
「いえ、それは不可能です」
「なぜですか」
「なぜなら、こちらは保安局ではないからです。あなたは電話番号を間違えて、一般の家庭へかけています」
「そうだったのですか」
「ええ、そうです。暇だったので保安局であると偽ってここまで会話していましたが、飽きたので真に勝手ながら、対応を終了させていただきます。緊急を要するということでしたら、今すぐに切って、保安局の番号をお確かめの上かけ直すのがよろしいかと存じますが」
「ではそうします」
「ありがとうございます。またのご利用をお待ちしております」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます