ねえねえなんで?
あれ、もしかして、と思ったのだそうだ。今までどうして気がつかなかったのかが謎だが、ともあれ、その日、ソキはナリアンと右手同士をぺたりとくっつけて、それはそれは衝撃を受けた。
じんわり涙が浮かんで来る。
「ナリアンくん……!」
『……うん?』
「おてて、おおきい、です……!」
結構な差があったのだという。
だってねえあのねえろぜあちゃんそきねえおおきくなるんですよそきねえこれからしんちょうだってのびるんですよだってりぼんちゃんもそきにはもっかいせいちょうきくるっていってたですよそれでねえそきねえもちょっとろぜあちゃんとおおきさちかくなるんですよそきねえそきねえだからちっちゃくないんですよ。
なにがそんなに悲しいのか、半泣きでふにゃふにゃ話すソキの言葉はものすごく聞き取りにくいが、それはそれ、慣れである。要するに、自分の手がちいさいかも知れないということがびっくりしたのだろう。
ベッドに座りこんで話すソキの頭を撫でてやりながら、ロゼアは不可解な光景にひとつの答えを見出した。
道理でメーシャを捕まえて、右手をぺたぺたくっつけていた筈だ。計っていたのだろう。
寮長やガレン、ユーニャやスタン、ルルクといった最近知り合った面々にも珍しく積極的な態度で話しかけては、屈んでもらって手をぺたぺたとくっつけていた。そしてそのあと、必ず落ち込んでいた。
全滅だったに違いない。聞かないでも分かった。
だいたい、ソキのつくりは全体的にすこしちいさめだ。ずっと昔からそうなので特に気にすることではないと思うのだが、ソキはずっとすんすん、不満そうに、そして悲しげにむくれている。
だって、ナリアンくんのおてて、おおきいですよ。身長もたかいですよ。やだやだ、ソキもおおきくなる。ずるい。
ふにゃふにゃした声で悲しげに告げられて、ロゼアはそっと少女の額に指先を押し当てた。体調不良の前兆が出ている。
このままだと、明日には熱を出すだろう。びっくりしたのと、悲しいのと、ずっと泣きそうなのに、体力がついていかなかったせいだ。
寝かせてしまうのが一番なのだが、この様子では自然に眠るまで待っていたら、その前に熱を出しそうだった。どうしたものかと考えながら口唇を開く。
ソキ、と呼ぶと泣くのを一生懸命我慢している様子で視線が持ちあがり、ロゼアちゃん、とむくれた声で返事をされる。
「て!」
右手を伸ばして告げられる、その意味はあまりに明白だ。苦笑しながら手を重ねれば、ソキはちょっと唇を尖らせて、すごく不思議そうに首を傾げた。
ロゼア以外には、ぷーっと頬を膨らませて、不満です怒ってますっ、と言いたげな態度だったのだが、こと傍付き相手には不思議さが先に来るらしい。
「……ロゼアちゃん、おてて、おおきいです」
「昔から、俺の手はソキより大きいだろ?」
うーん、と考え込むように眉を寄せながら、ソキはこくりと頷いた。
「ロゼアちゃんのて、なんで大きいですか?」
「なんで……」
理由がなければいけないものなのだろうか。
「……あ、ソキの手が包みやすい」
そうなんですか、とソキはちょっと幸せそうに笑い、また不思議そうに首を傾げる。
「ロゼアちゃん、なんでソキより身長高いですか?」
「んー……? えっと。ほら、昔はおんぶだったけど、伸びたから、今は抱っこもできるだろ?」
そっか、とばかりソキは頷いた。手の体温に、気持ちが落ち着いてきたのだろう。すこしだけ寝むそうに、ふぁ、と息をした。
「……ろぜあちゃんは」
「うん」
「じゃあ、おおきくて、いいです……」
眠くてふわふわした声で言われる言葉に、頷く。頭を胸に抱き寄せれば、もそもそと動いたソキの手が、ロゼアの服をぎゅぅと掴んだ。
「ロゼアちゃん」
おやすみなさい、というソキは、今日も自分の部屋で寝る気がないらしい。おやすみ、と囁いて、やや熱っぽい体を抱き寄せる。起きて頭が痛いと言いださなければいいな、と思った。
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