43-44日目
旅日記 四十三日目
記録人の意識喪失により、案内妖精が代筆する。
代筆を行うにあたって使用した魔術は、意思を読み取り思考の通りにペンを動かす初歩的なものであるが、それ故、雑然とした思考も含まれることを先に述べておくこととする。
なお、代筆は記録人には無断で行っている。
この記録の目的は、記憶の混乱の整理と、それが起こったという事実の記載である。
まず、現在の状況。
ソキが目を覚まさない。
原因:魔力の枯渇、ならびに重度の疲労。
回復手段、なし。
強いて言えば睡眠であることから、現在の意識喪失、昏睡に近いが、それは有効な手段であると思われる。
外部との連絡を試みるが、上手く行かない。失敗している? なにかに邪魔されている?
原因が掴めない。もどかしい。くやしい。
……ソキにも、アタシにも、記憶の混乱が見られる。昨夜なにがあった? うまく思い出せない。
誰かがいて、誰かがソキに危害を加えていた気がするので呪われろ本当に呪われろというか絶対に呪う地の果てまで追いつめてでも呪うお前はアタシを怒らせたいいか覚えてろテメェ絶対に許さないからな!
……深呼吸。冷静に。記録をすること。
誰かが、いて。
誰かが、ソキを助けてくれた。それは確かなこと。アタシはそれを見ていた。
見ていた、筈。顔も見た。声も聞いた。名前も、名乗られたと思う。そんな気がする。
でも、思い出せない。どうして? なんで? 消された? 妖精の記憶を? そんなことが可能である筈がない。
……記録、つづき。
たぶん、ソキは閉じ込められていた。そして、そこから脱出した。
現在位置は、花舞の国境近く。近くに都市はなく、街道からも離れている。
大きな樹の根元で、ソキは眠っている。
どうやってここまで辿りついた? 確か、魔術。でもソキの使った魔術じゃない。……風?
そう、風。たしか、風だった。風が助けてくれた。風に溶け消えた彼が、ソキをずっと守って、移動させてくれている。
こんな場所でソキが動けないのは、移動するだけの魔力が切れてしまって、体調も動かすには危険になってしまったから。
目をさまして、すこし魔力が回復したら、また同じ風がソキを守って移動させてくれる。
風が守ってくれている。だから連絡できない。なにもかもの感知を届かせない代わり、こちらからも繋げられない。
彼がそう言って……彼、は、誰、だっけ。
思い出せない。
思い出せない。記憶が、消されている。
ペナルティ? 誰の? なんの? 分からない。思い出せない。
ソキが目を覚ました!
ソキ、ソキ。大丈夫よ、もう大丈夫。
怖いのは終わったの、もうアイツはいない。アイツはソキを見つけられない。この風が守ってくれてる。
大丈夫、大丈夫よ。
泣かないで、ソキ。
泣かないで。大丈夫、終わったの、全部終わったのよ。
熱があがるわ。もう一度眠りなさい。
悪い夢を見たら、アタシがちゃんと起こしてあげる。
大丈夫、大丈夫よ、ソキ。
アタシがいる。
今度こそ、ずっと傍で、アンタのことを守ってあげる。
おやすみ。
……ん?
え?
あれ?
ちょっと、ちょっと待ちなさい、ちょっと!
魔術切るの忘れてぎゃあああああああ!
よ……読んだら呪う! 呪うからね、絶対呪うからね!
読んじゃ駄目よ、分かったっ?
旅日記 四十四日目
代筆を続行。でもこの文章を読んだお前は呪われる。
前日のと合わせて速やかに忘れるように。
いいか! 読むな! 絶対に読むんじゃないわよっ!
状況。魔力の回復が思ったより遅い。
昼過ぎに一度目を覚ますが、すぐにまた眠ってしまう。
熱は下がったり、あがったり。安定しない。
宿ではないから医者を呼んだり、王宮魔術師に連絡できないのが痛い。
でも、ソキが怖がってるから、仕方がない。
目を覚ますたび、ソキは怖い、と言う。
なにが怖いのか聞いても、上手く答えられない。
単語だけで説明される。
塗りつぶされる? 言うことを聞かされる、逆らえない。怖い。
そうしないといけない気がする、という。洗脳に近い?
でも、呪いは解かれた筈。よく分からない。
……そういえば、リトリアも似たようなことを言っていたことが、ある気がする。
予知魔術師のなんらかの特性? 学園に着いたら文献を調べさせた方がいいかも。
陛下にも報告すること。でも、なにを? どう言えば?
一昨日のことがさらに思い出せない。
誰かが来て、助けてくれた。誰が? なんで? 分からない。
ソキが眠りながら泣いて、ろぜあちゃん、と呼ぶ。
アンタ本当にそればっかりなんだから、もう……。
ソキが目を覚ました。
魔力がゆるやかに回復している。
二時間もすれば移動できる、と思われる。
魔力が回復次第、風が、また、移動を……。
……風?
風って、なに?
助けてくれて、それで。
まだ、守ってくれていて。
彼が。彼は。
……学園へ、向かう。
移動を再開する。
今日中に、国境を超えるだろう。
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