最終話「念願叶う時 後編」

 念願叶い仕官出来た彦右衛門だった。

 

 謁見の間。

「彦右衛門、これからよろしく頼むぞ」

「ははっ!」

 彦右衛門は頭を下げた。

 その後ろには香菜もいた。


「さて香菜、そなたにも何か礼をせねばな」

 殿様が香菜に声をかけた。


「え? わたしは別にいいですよ」

 香菜はそう言って固辞するが、

「いや、それでは私の気が済まぬ。どうだろう、ここは私の顔を立てると思って何か受け取ってほしいのだが?」


「それでは……あの、わたしもここで働かせてもらってもいいですか? なんでもしますので」

「そんな事でいいのか?」

「はい」

 香菜の目線は彦右衛門の方を見ていた。

「ん? そうか、わかった。それでは香菜も当家で働いてもらおう、仕事は彦右衛門の世話係だ」

「は?」

 彦右衛門は間の抜けた声を出した。


「そなた独り者であろう。それで勤めがおそろかになってはいかんのでな、世話係をつけることにした、私の恩人でもあるし」


「あの、別に拙者は」

「えーからそーせい!」

 殿様は「わからんのかお前は!?」と思いながら怒鳴った。


「は、ははっ!」

 彦右衛門は慌てて平伏した。

「香菜、それでいいか?」

「お殿様、ありがとうございます」


 こうして彦右衛門と香菜はとりあえず城下の長屋で暮らす事になった。

「えと、香菜……これからよろしく頼む」

「はい」


 その後二人共しばらく無言だったが

「あ~、香菜」

「はい」

「その、あのな」

「?」

「もう少し待ってくれ、いろいろあるのでな。それと気持ちを整理したら、その」

 彦右衛門は顔を赤くして小さな声で言った。

「ええ、いつまでも待ちますよ。というか絶対逃がしませんから」




 そして


「綺麗な海ですね」

「そうだな」

 二人がそう言って歩いている所はとある漁村の砂嘴、そこは「伊予の天橋立」とも言われる絶景の場所だった。

「あ、あそこにありますよ」

「ああ」

 そこにあったのは八幡神社、その昔宇佐八幡の分霊が流れ着いたとされる場所でもある。


 境内の前で二人は手を合わせた。

「ありがとうございました。これからも見守っていてください」


 ああ、幸せにな……


「さて、行こうか」

「ええ、あなた」

「それはまだ早いだろ」

「もー、今から祝言するんだからいいじゃないですか」


「あのさー、いちゃつくのもいいけど早くしてくれない?」

「うおっ!?」

 二人に声をかけたのは

「猫又ではないか、よく来てくれた」


「そりゃー彦右衛門さんは私達の恩人だし」

「具吉は?」

「あっちで子供達の世話してる」

「そうか、旦那と子供達を連れてここまで来るのは大変だっただろ」

「それがね、何でか知らないけど子供産まれた時にね、彦右衛門さんにあげたはずの力が戻ったのよ。だからそれほどでもなかったわよ」

「何だそのご都合主義は?」


「彦右衛門さん、おめでとう」

「おめでとうございます」

 河童の武蔵と鮫も来た。

「武蔵、それに鮫、でいいのか?」

「あ、オレの事は鮫蔵と呼んでください」

 鮫の鮫蔵は自分を指さして言った。


「ああ、鮫蔵、武蔵、来てくれてありがとう」

「これはおれからのお祝いだよ、きゅうり一年分」

 そこには山積みのきゅうりがあった。


「そんなに貰っても」

「漬物にでもすればいいじゃん」

「まあそうだな。ところで武蔵」

「何?」

「いや、なんとなくだがお主はいずれ人々に語り継がれる凄い男になりそうだと思うのだ」

「そうかな? でももしおれがそうなるとしたら、彦右衛門さんは神様にでもなるんじゃないかな?」

「そんなわけなかろうが」


 だが武蔵が言ったとおり彦右衛門は本当に……それは別の物語で。



 おお、あれを見ろ嵐童

 あ、彦右衛門殿・・・・・・いい縁に恵まれたようですな。

 さすがに儂らが出て行ったらあれじゃから、ここから彦右衛門殿を祝うとするか。

 はい、御館様。



 あー、ワシも娑婆へ行けばよかったのー

 あんたが出てったらややこしいからやめときんさい。

 それもそうか。じゃあここで見てるとするか。なあおかか。

 はいはい

 


「おお、浪人、じゃなかったの。彦右衛門どの」

 彦右衛門に声をかけてきたのは初老の坊さんだった。

「あなたは、もしやあの村のお地蔵様?」

「ああそうじゃ。彦右衛門どの、ワシが渡した数珠や力は役に立ったかの?」

「ええ、だけど事前にいろいろ説明して欲しかったですよ」


「すまんの。あの時は力が減ってたんですべてに気が回らなかったんじゃ。あ、そうじゃ、他の縁者で来れそうなものはワシが連れてきてやったぞ、人間の足じゃここまで来るのは日数がかかって大変じゃろうからな」


「え、いいんですかそれ?」

「構わんよ、お主達はこのくらいでも足りんくらいの事をしてくれたのじゃ、さ、皆の衆」


 お地蔵様に言われて茶店の主人達や弥助とおなつとおあさ、他にも旅先で会った者達、さすがに御老公様は来てないが代表してお銀が出てきた。


「香菜、幸せになるんだよ」

「はいお銀さま。いえ、お姉さん」

 

「皆・・・・・・ありがとう」


 こうして彦右衛門と香菜の祝言が行われた。

 殿様の計らいで村で有名な旅籠を使わせてもらった。



「改めて・・・・・・これからよろしく」

「はい、あなた。二人で歩いて行きましょう」






 昔々一人の浪人が旅をしてた。

 旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探してたが

 ひょんなことから妖魔を退治したりとまあ色々あったが、浪人石見彦右衛門の旅は終わり・・・・・・


 彦右衛門は香菜と二人で人生の長い旅路を幸せに歩いていった。




おわり

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とある浪人の不思議道中記 仁志隆生 @ryuseienbu

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