1−2

 彼らはほとんど最後に乗り込んだため、やはりというか椅子には座れなかった。


「んで、なんだよミっちゃん。わざわざ1坑に来るようなショボくれた組合にでも入っちまったか?」


「あんた、次そうやって失礼な話したら玄翁(げんのう)でタマカチ割ってやるからね」


 多少行儀は悪いが列車の隅に話になって座り込み、鳥越の第一声が気に食わなかったのか玄翁を抜き出して、ミスミはごんごんと床を叩いた。


 ツカサたちの腰には石を掘るためのタガネ、ツルハシ、坑木を削るためのヨキ、玄翁と違い片方が尖ったハンマーが差されている。

 タガネは用途によって使い分けるので10本はあるし、ハンマーは予備含めて2本。これがまたなかなかの重さとなる。


 専用のベルトの留め具部分はちぎれかけているので、そろそろ繕う必要があるかもしれない。

 仕事道具を落として無くしたなんて言ったら、ツカサは水田に酷い仕打ちを受けるに違いない。


「でね、とりあえずあたしの身分証は緑になりました。ほぉら。」


 静かになった鳥越を尻目に、ミスミが作業着のポケットから緑色の身分証明書を出した。

 それはツカサや水田たちのもののようにただの紙ではなくカードのようなもので、中にはチップが埋め込まれていて諸々の個人情報が記録されているという。


「おぉ、おめでとうなぁ。というか薄緑飛ばしたんか。随分思い切ったことをする」


「ちゃんと理由はあるんだから。とにかく、いろいろご教授いただきありがとうございました」


 若干荒々しいところはあるが、ツカサは自分に対していろいろと世話を焼いてくれるいい人なのだと認識している。


 ツカサが水田達の元を離れて一人で坑に入るようになったのはほんの最近であり、水田に教えを乞いに来ていたミスミも一緒に彼らと一緒に坑に入っていた。

 しかしその時にツカサは自分の身の上や住まいを話したのだが、それから何かにつけ気遣いをしたミスミを一度強く水田が叱ったのだ。

 甘やかすなと。


「おめェがわしにいきなり仕事教えてくださいって言うもんだからよ。意味はわかんなかったがそれなりにオツムはいいみたいだな。どうだ、お礼に今夜一杯おごってくれるっつーのは」


 身分証の試験は面接と筆記。

 面接も筆記もそれぞれの職種に関係するもので行う。

 飲食関係ならば衛生関係の、鉱夫ならば坑道内の安全管理や地層、採掘した石に関係するものや道具の使用方法に緊急時の対応。

 砕女ならば鉱石選別やそれに使用する薬品の試験である。


 ミスミは砕女だがそれでも水田たちのもとにやって来た。

 いかに坑道内の様々な分野に明るいか、ツカサはすごい人たちにいろいろ教えてもらっていると誇らしくなったものだとしみじみ思い出す。

 なんだかんだで鉱夫としてのことも教えてもらっていたようで、ミスミは鉱員としての仕事も一通りできたりするらしい。

 水田達の監督のもとという条件付きではあったが。


「それについては感謝してるって……。酒よりももっといい話持ってきたからそれで勘弁して。んでね、ちょっといいとこの組合にも入れたの。マルサカ研究班ってんだけどさ」


 水田の目が一瞬鋭くなったが、すぐにいつもの剽軽(ひょうきん)な調子に戻り爪の間に挟まった泥をほじり出す作業に戻ってしまった。


「マルサカっていやアレだろう。お偉方の気に食わない採掘方法バンバン試してるやつらだろう。火薬でもボンボンやるもんだから近くの切羽(きりば)にゃおっかなくて近寄れねェ。しかも発破かましたってのにろくに石も取らずに帰りやがるから漏斗抜(ろうとぬ)きは後から入ったやつがやらなきゃいけねェし」


 目線を指に落としたまま水田が一応といった体で話を合わせる。


 ツカサのように特に坑道を掘り進めず、ひろったり割ったりこっそりと少し壁を削ったりする程度のものたちからすれば、わざわざ宝石を置いていってくれたようなものだ。

 しかし、鉱石を取らずに発破だけするというのはどういう状況なのだろうか。

 それはいたずらに火薬を消耗するだけで、儲けがないような話である。


「え?なんで石取らないの?」


 疑問に思ったらすぐ質問。

 それが鉱夫として気になるのならば迅速に。

 繰り返し教わったことだった。


 「全くとらねェってわけじゃねェ。組合の運用費用分だけ稼いであとは放置ってことだ」


 それならばまだわからなくもない。

 しかし理由はわかっても納得はできない話でもある。


 「それはあたしから説明するね」


 こほん、と若干わざとらしく咳をしてミスミが話し始めた。


 「マルサカはね、鉱石だけで稼いでるわけじゃないの。採掘道具を別の鉱員たちに売ったりもしてるからそこでも売り上げが上がるってことね。で、自分たちが坑道に入る時はだいたい研究のため」


 「研究のため?何を?」


 その言葉に力を込めるように、ミスミの唇が動く。


 「古代人の技術の研究」


 今度こそ水田の目が鋭くなった。

 これは坑道の中の鉱夫の顔。

 その顔に様々な思い出があるのだろう、その時の体験が身にしみているミスミは若干体がこわばる。


 「古代人の技術は相当厳しいお偉方のチェックが必要だろ?そんなにお偉い組合なのかマルサカって。そんな話は聞いたことがねェが」


 それでも負けじと言葉を紡ぐミスミの胆力はすごいものだ。

 伊達にいきなり水田に弟子入り志願しに来たわけではない。

 

 「……他言無用ね」


 声を落としたミスミの声が列車の音で聞こえにくいので、ツカサたちは膝がお互いに当たるくらいに近寄って頭を寄せる。

 あまり風呂に入っていないその体臭で迷惑をかけてしまっていると思うと、ツカサは申し訳なってなるべく頭だけを近づけるように努めた。


 「役人には言ってないの。つまり秘密裏に、独自に研究を進めてるって。遺跡とかを発掘してね」


 「バッカおめぇ、そんなん犯罪じゃねぇか」


 かつてとてつもない技術を誇った時代があった、とツカサは鳥越達には教わった。

 今じゃ御伽話になるくらいのものだが、事実この時代に生きるものはその遺産となったの技術を流用している。

 かといってその全てを活用しているわけではない。

 技術というものは、時として自分の手に負えないものを造ってしまうこともあるということを身を以て古代人は教えてくれた。


 「だから、自分たちで掘った坑道は発破して意図的に大部分を崩落させるの。石を残しているわけじゃなくて、崩した後ってことね」


 「でもそれだと後から入った組合が石を抜いたらその研究とやらがバレちゃうんじゃない?」


 遺跡を崩したってツカサたちのような鉱夫から見たらそれがどんな石なのかわかる。

 妙なものがあれば役人への報告義務もあるし、そうなればマルサカがその坑で何を見つけたのかを役人たちは知ることになり、そうなればよくて組合は解散、悪ければツカサの隣人が増えることだろう。


 「そこでマルサカの研究組の出番よ。ガスに水。そもそも遺跡のある坑道は手放さない」


 「……はン。いけすかねェな。ガスと水なんか出てきちゃ、よっぽどその穴に執着してなきゃそれ以上掘り進めないからな。てことは俺が話に聞いた坑は遺跡以外の目的で掘ってた坑ってことか」

 

 坑道は別に一つではない。

 申請すれば自分の好きなように掘れるのだ。

 おかげでイシクラの周辺は縦横無尽に坑道が掘られている。

 もちろんこの周辺だけではなく、鉱脈があればそこに新しいターミナルを作ってそこでもまた坑を掘る。


 よその集落からこの集落の住人が土竜(もぐら)と呼ばれる所以だ。

 

 「カモフラージュのために何本も掘ってるらしいから、それかもね。」


 「ずいぶんオツムがよろしいようで」


 いらただしげに鳥越が悪態をついた。

 もしかしたらその先に鉱脈があるかもしれないのに、それを崩して且つ進みにくくされたのでは鉱夫の仕事を邪魔されているようなものだ。

 

 「それで、いい話ってのはなんなんだ?まさかこんな裏話を教えてくれるってことじゃあねェよな」


 水田がいらただしげにミスミを睨む。

 坑道に関しては人一倍うるさい人であるし、今の話を一番腹ただしげに感じるのは目に見えている。


 「そうね」


 一呼吸おいて。


「明日からあたしと鉱員組を組んで、一緒にマルサカの切羽に入ってもらいます」


「はあ!?」


 水田と鳥越が今までの潜めてた声はなんだったのかというくらい大きな声を出す。

 慌ててミスミは辺りを見渡すが、基本的に鉱夫鉱員の話声は大きい。

 さしてこちらに気を留めた者がいるわけでもなかった。


 ツカサは驚くと声が出ないタイプのようで、表情を変えずにその場に固まってしまう。  


「そんな話聞いてねぇぞ」


「だって言ってないもん」


 軽くあしらわれた鳥越はどのような態度をとっていいのかわかっていないようで、落ち着きがなくなってしまった。

 水田はそれでもすぐに落ち着きを取り戻したようだ。


「あー、なんだ。まったく意味はわからねェが、つまり犯罪に手を貸せっつってんなら降りるぜ。つかお前ェも同罪だってんなら、縁を切らせてもらう」


 ツカサは自分が蚊帳の外だと感じ、黙っておくことにした。

 しかし水田たちの名前はそのような犯罪まがいなことをしている組合にまで通っているなど、一人歩きしてしまっているそれに対し2人は表情を曇らせる。


「そういうのはわかってた。だけど、この話はツカサも鉱員組に入ってるのよ」


「え?」

 

 自分が?

 組合に、入る?


 ツカサの頭は予想外のところから放たれた衝撃に、ひどく混乱した。


「いやいやいや、無理だって。僕の住所知ってるでしょ?それによしんばそれでもいいとしても、犯罪者になるのはちょっと……」


 ツカサの住所を知れば組合はまず雇いたがらない。

 何度か面接を受けに行ったが、どこも門前払いであった。


「大丈夫。向こうには全部説明済みだし、対策もしてきた。それに犯罪者っていうけどあたしが実際に話した感じ、そんな感じじゃなかった。純粋に興味だけで古代人の技術を調べている風でもなかった。詳しくは教えてくれなかったけど、なんか目的があるって言ったらいいのかな……」


「つまり何が言いたい」


 冷たい声で水田が言い放つ。

 

「もし気に入らなければ、途中で抜けてもいいから。だから試しに現場に入ってみて、マルサカの主任と話してみてほしいの。そしたらきっとわかってくれる、と思う……」


 水田と鳥越は黙りこくってしまった。

 尻すぼみになったミスミの言葉は自信なさげではあるが、先ほどの説明ははっきりと胸を張っていたところを見ると、自分の見る目を疑っている感じではない。

 興味ではなく、目的のために役人の目を盗んで行動しているということ。

 その行動に大義があるとでも言うのか。


「あとね、あたしが組合に入るときの面談で言われたの。君は今のイシクラの支配構造についてどう思うって」


「……どうって、どういうことだよ。役人が話し合って、集落長が色々決めてんだろ?おかしいことか?」


「あたしもね、それに対して変に思っているわけじゃないんだよ。もう1000年以上そうやってきたんでしょ?でも、丸坂主任……あ、組合長の事だけど、その人は違った」


 ツカサたちの先祖が地上を捨ててもう2000年弱。

 地殻変動で地上がひどい事になったとか、戦争があったとか色々話は聞いたけどどうもツカサにはよくわからない話だった。

 イシクラは比較的古い集落だが、その頃の詳細が分かる資料はほとんど残っていないか、役所によって閲覧制限がかけられてしまっていてツカサたちにはあまり伝わっていない。

 

 もちろん、役所による政治はここができた頃から変わらない。

 役所があり、役人があり、ツカサらがいるというのは周知の事実だ。


 何かを考えるように俯いていた水田が口を開いた。


「違うってどういうこった。気にくわねェからって反抗してるってんなら、そりゃまるっきりガキだぜ」


 「そうじゃないって、話は最後まで聞いてよ。その人はね、こういったの。一方的に力で組み敷かれていることに疑問を覚えないか。お役人の命令ならば何でもやらなければならない今、例えば人を殺せと言われたら殺さなければならないのかって」


「そんなことお偉方がいうわけねぇだろ」


 鳥越がすかさず口を挟むが、水田以外には強気なミスミだ。

 玄翁で床をひと叩きして鳥越を黙らせた。


「例えばって言ったでしょ。でももしそうしたらあんたはどうする?断れば仕事を奪われて、新しい仕事をするにも役人の承認が必要。身分証に但し書きの一つでもされたらもうどうしようもない。家族がいれば一蓮托生、ここを出て行くか犯罪を犯してまで生きていくしかない」


 言い返された鳥越はバツが悪そうに黙り込む。

 役人のさじ加減で上層に住んでいたのにツカサの住む貧乏長屋に落とされることもある現状、ミスミの言ったことはあながち間違いでもない。

 

「……丸坂っていうやつは、それをどうにかしようってわけか。役人相手に戦争でもおっぱじめるってか」


 「戦争って、殺し合いだよね?イシクラに住む人たちで?」


 それは、嫌だった。

 いくら役人がツカサたちに辛くあたろうとも、それを解決するためにその人たちを消して解決しようだなんて、いくらなんでも無理矢理すぎる。

 そんなことだといつか同じことをやり返されても文句は言えない。


「違うよツカサ、大丈夫。そんなことにはならない。あたしもよく教えてもらってないけど、暴力で解決しようとかそんなこと思う人たちじゃなかったよ」


 女性というのは不思議なもので、たとえその人がどのような粗暴な人であっても、柔らかく微笑むだけで自然と安心感が生まれる。

 それが子供相手にならば、無条件で効果を発揮するだろう。

 ましてやツカサは幼い頃に死別して以来、母親という存在にどこか憧憬を抱いていた。


「……わしが気に入らなけりゃ、すぐ抜けていいんだな。それに関する責任はとらねェぞ」


「おい爺さん!」


 鳥越を目だけで黙らせた水田の顔は、まさしく鉱夫の顔。


「鳥越よぉ。わしはな、丸坂ってやつと同じ考えなんだよ。お前ェも、ちったぁ心当たりあんだろ」


「……そりゃあ、そうだけどよ。ま、俺は爺さんについていくぜ」


 何かを共有するかのように、鳥越がさらに俯いたが、一転ミスミは安堵したように胸をなでおろしている。

 本人の許可を取らずに、しかも前日にこんな話を持ち込んできたのだ。

 ここで断られていたら、せっかく新しく入った組合でも立場はさほど良いものにはならなかっただろう。


 「うん、それはオッケー。じゃあ、とりあえず来てくれるんだね」


 「条件がある」


 水田がツカサを見て、言った。


 「わしや鳥越もが抜けてもツカサは残してやってくれ。できれば、組合にちゃんと所属させてやる形で。それで16になってコイツが組合を抜けるつったら、何も言わずに抜けさせてやること。これが条件だ」


 鉱夫の顔か剽軽な顔。

 どちらかしか見たことのないその水田の顔は、ツカサに撮って初めて見る顔だった。

 

 組合に入る。

 それは毎月決まった収入があり、なおかつ身分証のランクとしては最低であり身寄りもないツカサの身分を証明してくれる後ろ盾ができるということである。

 

 そのようなことを条件にした水田の意図はわからないが、何も考えずにそうしたわけではないことがその顔からは見て取れた。


「この玄翁に懸けて、約束します」


 自分の仕事道具に対して何かを懸けるということは、自分の誇りに対して懸けるということと同義だと水田は言った。

 ただこれは鉱夫の中でしか通用しないともツカサは教えられたが、水田には砕女であるミスミのその行動に目くじらをたてることはなく、逆に口角を吊り上げて笑った。

 嘲けているわけではなく、純粋に面白いような笑い方である。


「はっ。砕女が面白いことしやがる。お前ェ、玄翁の替えは持ってるか」


「も、持ってるけど、何よ」


「その玄翁、預からせてもらう。もし約束を破ったら、目の前で叩き折るからな」


 そう言って反論の余地なくその手から玄翁を奪い取る。

 よく使い込まれ、柄にツヤが出ているそれはそのままツカサに渡された。


「ツカサが」


「えぇ!?僕が預かるの?っていうか、人の仕事道具壊すなんて、僕には……」


「ごちゃごちゃ言うんじゃねぇ。お前が関係した約束なんだから、お前が持つのが当たり前だ。俺たちがそれまでいるかわからねぇしな。それにミっちゃんが約束守ればいい話だ」


 そう言ってツカサの腰に巻かれているベルトに鳥越がその玄翁を差し込む。

 この仕事道具はツカサの父親の形見だが、全てが揃っているわけではないので余分に空きはある。

 しかしさすがに人の大切な道具を持ち歩くわけにはいかないだろう。


 かといってあの長屋に置いておくのはいささか不安であった。

 今は盗まれても替えのあるものしか置いていないが、ありふれた玄翁とはいえミスミがその誇りを懸けたものだ。

 盗まれたら謝って済む問題ではなく、それは確実にツカサの誇りをも傷つけることになる。


「で、でも僕こんなの持ち歩くわけにはいかないし、うちにも置いとけないし、じいかおっちゃんが預かってよ」


 なんとか受け取ってもらおうと玄翁を2人のどちらかに渡そうとするが、2人は聞く耳持たず。

 そろそろ駅にも着く頃で、問答している余裕もさほどない。

 

 どこかに隠せそうな場所はあったかとツカサが考えを巡らせていると。


「あ、ツカサ。あんた今日からうちに住むことになってるから大丈夫。うちに置いとけばいいよ」


 先ほどまで難しい顔をしていたとは思えないほどの間抜け面になった男衆。

 水田は口を大きく開けたまま固まっているし、鳥越は目が大きく見開かれたまま動かなくなった。

 もちろんツカサも例外ではなく、どうしようかと決めあぐねていた玄翁を落としてしまった。


「……えーと、ごめん。落としちゃった。で、誰かこれ預かってくれないかな」


「こら、話をそらすな」


 話をそらしたわけではない。

 理解ができなかった。


「ツカサ、あんたは、今日から、あたしの、家で、暮らします」


「まったぁ!なんでそういきなりなんだよお前ぇは!」


 鳥越が硬直から抜け出したその言葉は先ほどの話も、今の話にも通じるツカサたちの全ての感想が込められていると言っても過言ではないはず。


「なんで鳥越が出てくるのよ。あたしはツカサに話してるの」


 そう言ってツカサの方を向き直るが、ツカサはツカサでまだ頭がそのことをうまく認識してくれない。

 

「ツカサはあたしと暮らすの嫌?」


「えっと……そういうことじゃなくて、なぜそういうことになったのかがわからないというか……」


 なんとか言葉を紡ぎ出す。

 いきなり一緒に住むことになったからと言われても、それをすぐに受け入れられる人はいないだろう。

 

「だって今のところで暮らしてると、いろいろと不便でしょ?それにあたし緑の証明書になったから配偶者以外で同居人が1人取れるのよ。で、ツカサをその同居人の枠に入れました。なんかあの長屋に住んでる人だと特に同意書とかいらないらしくて、勝手に進めちゃった。説明としてはこんなものかな」


「……懇切丁寧にありがとう」


 理解はしたが、あまり納得はできていない。

 確かにツカサはあまり人間扱いされることのない場所に住んでいるが、まさかここまで処理を省かれることになるとは思っていなかった。

 

「それにあたしが保護者になっちゃえば、甘やかすなーって怒る人もいなくなるでしょ」


 そう言っていたずらな顔で水田を見るミスミ。

 これは話をうまくまとめたものだった。

 先ほどの話の前にこの話をしていればまさしくそのように水田は言っていただろうし、組合で面倒みろと言った手前ミスミがツカサの保護者になればその約束も果たされやすい。

 

 水田がしてやられたと言う顔を前面に押し出したところで、列車が彼らの町イシクラの駅に到着した。

 

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