ゴーストパーティー
なつのあゆみ
第1話
幽霊だって酔っ払えるのよ、と彼女は僕の手を引いて言った。死んでから出会った彼女は、太股がむっちりとした僕好み。
ベビードール姿でホテルのバルコニーから飛び降りた。死後もそのままの姿で、常におっぱいが透けて見える。色白で豊満な、元娼婦。体を売ることに疲れて死んだ。
パーティー会場は真夜中の式場。今日は街の誰も死んでいないから、棺桶も菊の花もない。頭上で七色の光を散らばせる、ミラーボール。
ご機嫌な音楽、DJは丸坊主、薄汚れたTシャツを着ている。踊っている若い幽霊たち、死んでるくせに生き生きと踊る。
彼女が僕の手を離れ、ダンスの中央に体をすべりこませ、大きなおっぱいを揺らして踊り狂う。
ベビードールは体から浮いて、彼女の肥えた腰が見える。僕は彼女を遠くから見つめる。最高に彼女は輝いて、汗の雫まで見えうな感じ。おっぱいが体をばちんばちんと叩く音が聞こえそう。彼女の迫力に、みんな引いてる。
僕はというと、壁によりかかってグラスを傾ける。何の液体も入っちゃいけないけど、飲むふりをしてると、だんだんお腹が熱くなってくる、ように思う。
パーティー会場を見渡すと、彼女よりハレンチな子がたくさんいた。皮がめくれている子、腸が飛び出ている子、髪を振り乱して全裸で踊っている子。別に、彼女が死後の恋人でなくてもよかったも、と僕は思う。だって彼女は、もう他の男とキスをしている。女って信用ならないね、と僕は言いながら全裸の子の腰を抱く。
ビートがうねる、透けた体を震わせる低音、召されてしまいそうな高音、僕は薄っぺらな生命の残りを、ダンスに捧げる。
ねぇ、どうして君は死んだの?
全裸の子に尋ねた。上向きの小さい胸で、体中に傷がある。
さぁ、忘れてしまったわ。もう死んでしまったもの、関係ないわ。
全裸の子は、宙に浮き上がってミラーボールにキスをした。僕も浮き上がって、彼女を抱きしめてくるくる回った。
すてきよ、すてき、ずっと待ち望んでいたのよ、あなたを!
ああ、僕もだよ、僕も君を待ち望んでいたのさ。
僕らは深く口付けをする。魂そのものを交じりあわせる。死んでるって素敵だ! 僕らは愛の交換を謳歌する、僕の手が彼女の体を、彼女の手が僕の体を、貫く。真下で彼女だった子がベビードールを脱いで放り投げると、むさ苦しい男どもがそれを奪い合った。
僕らのほかにも即興のカップルが誕生して、頭上で交じり合い、やがて一つの塊となり、青く燃え盛った。
僕はね、殺されたんだよ。
あらまあ、誰に。
元恋人に。僕があんまりにも女遊びが激しすぎて。
それはあなたが、悪いわね。
そう、僕が悪かったのさ。
殺されたなんて嘘だけど、死んでからの僕はセンチメンタル病にかかって、自分を不幸な奴にしたかった。本当は階段から落ちたのさ。
ミラーボールの色彩に染められて、幽霊は色めきたつ。四肢はぐにゃぐにゃに曲がって、目も鼻もなくなって、それでも踊る。ビートは激しさを増して、さらなる高まりへと僕らをいざなう。
彼女の僕の体は溶け合っていく。最高に気持ちがよくて、気持ちが悪くて、暗闇と光が隣り合って、一つになろうとしている。僕は僕にたいして、何にも規制しない。心臓がないから、どんな驚愕がきたって構いはしない。
ねえ、あれを見てよ。
下を見ると、ダンスの中央に大きな白いケーキが登場した。大きすぎて、トランポリンみたい。DJがターンテーブルを回すのをやめて、木魚を叩いている。その一定のリズムの美しさ! 僕らの全身が痺れてる。
ケーキには、緑色の線香が無数にささっている。僕らはその匂いを吸い込む。全裸の彼女の顔は、僕のお腹にある。唇をそっと撫でると、彼女は僕の指を飲み込んだ。
DJが火つける。あっという間に火が流れていき、すべての線香から細長い煙が立つ。
口を開けた幽霊たちが、体を寄せ合っている。目も鼻も口もなくなって、つるりと白い人型となり、隣と溶け合う。光と暗闇がスパークして、僕の中で渦を巻く。全裸の彼女が僕の中で暴れてる。かわいそうに、まだ生きることに未練があったみたい。でも僕と一緒だ、やがて君も僕と同じように叫ぶだろう。
逝くのって、最高!
木魚の一定のリズム、線香の煙に包まれて僕は何も考えない。笑ってるかな、僕は。ミラーボールの七色の、きらめきの中へ身を投げる。ベビードールの元彼女が、他の男と一体になって僕に笑いかける。僕も彼女に笑いかけた。僕らって、似た者同士だったみたい!
線香は短くなっていく。みんなみんな、消えてしまった。だけどもうすぐ、会えるだろう。お腹で暴れていた彼女も、静かになった。
燃え尽きて、パーティーは終わった。
僕はパーティーに誘ってくれた元彼女にキスをしようと思う。光と暗闇が、スパークして黄金のきらめき。
終
ゴーストパーティー なつのあゆみ @natunoayumi
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