研究部の真実 8
私は『ー震災に寄せてー 久葉中学校研究部』という部誌らしき本を持って研究部の活動場所だという講義室1にきた。そこには小倉さんと城崎がいた。
「美緒ちゃん、どうしてここへ?」
小倉さんが私の姿を見るなり近づいてきた。流石に私が来るとは思っていなかった様子だ。私は例の本をバッグから取り出し、近くの机に置いた。
「図書室に返却されていたからここに届けに来たわ。部員はいるかしら」
小倉さんは遅れて近寄ってきた城崎を見る。城崎は本を手に取ってパラパラとページをめくる。
「確かに、研究部の資料だ。この前見せてもらったもので間違いない。しかも今朝これだけが講義室からなくなっていた。多分盗んだ犯人が図書室に置いて行ったんだろう。
でも、今日は冬樹先輩は来ないようだから僕が預かっていてもいいが」
「来ない?」
私の疑問に、城崎は紙きれを見せた。端にテープが貼り付けてある。私はそこに書いてある文字を読んだ。
篤志君、元気君、小倉さん
今朝のトラブルの調査のため、今日はここへは来ることができません。
申し訳ないけれども、部活見学は中止です。
明日はまたここで活動する予定なので、もし用があれば明日以降来てくれるとありがたいと思います。
研究部部長 高瀬冬樹
この手紙を読んでいくうちに研究部にはこの部長1人しか部員がいないことを思い出した。つまり、今日はここにいても仕方ないということね。
「1日くらいなら私が直接渡すわよ」
ところが、2人はこの申し出を断った。小倉さんと城崎は顔を見合わせる。
「実は、私たちはすぐに先輩に会わなきゃいけない用事があって。美緒ちゃんが来るまでで探しに行こうか話し合ってたの」
「どういうこと?」
この理由について、小倉さんが先に話し始めた。
「私、実は英語係だから昼休みに授業のプリントを取りに来るよう森永先生に呼び出されたの。その時講義室の机のことを話していてね。森永先生、私じゃないのに、ってずっと言ってた。朝ちょうどこのプリントと頼まれた学年だよりを刷っていたって。実際、プリントは積み上げてあった分から考えて1000枚はあるし、学年だよりも学年全員分だから100枚以上はある。そして、今朝職員室から出てくるときにすれ違って、かなりの熱気を感じたの。プリントも10種類くらいあったから何回かは原本の入れ替えをしなくちゃならないし、とにかく量が多いから時間もかかると思う。紙が熱を帯びていたってことはすれ違う直前にコピーしていたってことだよね?
ということは、生徒が朝登校してから1時間目の授業が始まる前までに森永先生が講義室の机を荒らして本を抜き取るなんてことできないと思う」
確かに、生徒の登校時間は場所が場所だけに人の目も多い。その後あの教室に一番早く着いたD組の子が机の様子に気付くまでにはおそらく20分間くらいの時間しかない。もし鍵を開け机の中身をひっくり返して目当てのものを盗み、そこから戻ってそれだけのコピーができるかといえば、時間的に厳しいことになる。
「確かに小倉さんの言うことは筋が通っているわね」
「名前でいいよ、美緒ちゃん」
小倉さんが微笑みかける。
「ならわかったわ。ええと、澄香」
「何?」
「森永先生は昼休み中ずっとあなたといたの?」
「うん。私昼休みが終わるまで森永先生とずっと一緒にいたよ」
もし昼休み以前に本が返されたならかなり早い段階でわかったはずだ。つまり森永先生には不可能。
ここまで言ってしまうと、澄香は城崎の方を見た。
「僕は川崎先生に呼ばれて遅くなってしまったのだけれど、昼休みここに来たんだ。そうしたら田村先生がいた。冬樹先輩に言われた通りすり替えられた方の鍵を持ってきたのだけれども呼び出した本人が居なくて困っていたところに僕が来たらしい。僕は先生に冬樹先輩を探してくるからここで待っているよう言われた。確かに田村先生は冬樹先輩と元気を連れてきたけれどな。だけれど、先生が生徒を呼び出すなら校内放送を使う手もある。それに、一旦田村先生は職員室に戻っている。もしかして田村先生はその時鍵など持っていなくて、取りに行ったんじゃないか?」
「まさか」
澄香は口に手を当てる。私は城崎に聞いた。
「田村先生がこの机を荒らしたっていうの?」
「でも、今朝僕たちは田村先生と会っている。森永先生同様机を荒らしたわけではないとは思う。でも、鍵をすり替えることはできたはずだ。現に以前僕たちの目の前で鍵をなくしているし」
「それどういうことよ」
どうやら私の知らない間に田村先生と多目的室の鍵について何か起こっている。「話してやってもいいがな」と城崎は言った。
「それより城崎君、元気と高瀬先輩って一緒だったの?」
澄香が聞くと、城崎は「そうだけれど」と答えた。
「じゃあ元気は高瀬先輩と調べているのかな?」
「ああ……もしかしたら図書室の佐川先生のところかもしれない。なぜか2人で親父さんのことについて聞きまわっていたみたいだから。佐川先生にだけ聞いていないそうだ」
そういえば蓬莱は佐川先生に用事があったようだった。親父さんというのが気になるが。
「でもこのメモからして蓬莱は調査員の1人には数えられているように思えないけれど」
私は2人にさっき預かった紙きれを見せた。
「そういえば僕たち2人の間に名前が入っているし、すべて同じ人間の文字だ。ん? ということは後から付け足したわけでもない」
「これ、まさか別の人が書いたかもしれないってこと?」
城崎と澄香は顔を見合わせる。
「職員室に行ってみましょう。あなたたちが知っていることは話してもらうわね」
私はそう言うと、3人で職員室に向かった。
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