研究部の真実 9
俺は放課後、再び多目的室の前に来た。思えばここから始まったようなものだ。
最初に多目的室の鍵が無くなったときには、高瀬先輩がこの教室の中にいた。
今回多目的室の鍵が無くなったときには、ここは出入り禁止になり、講義室の机が荒らされた。
もしかして、と思った。すべてここにある何かを守るためにこんなことが起きているんじゃないか。きっと研究部に関係する何かが。
出入り口から入ろうとしたが、鍵がかかっていて入れない。おそらく鍵はまだ見つかっていないのだ。
多目的室にのドアは開かない。なら、と俺は足元を見た。教室の壁には地窓や高窓がついている。おそらく換気用だろう。俺はしゃがんで地窓の引き戸を引いた。案の定、施錠はされていない。
そこから教室の中を覗いてみた。中の机の脚がちょうど視界を邪魔しない位置にあるので見やすい。中には大量の書籍、大型の教具、小黒板、そして古めのパソコン。もとは視聴覚室だからちょうどいい置き場所となっているわけか。
俺は周りを見回すと、地窓から中に入った。思えば出入り口に鍵がかかっていても、やろうと思えばここから出入りができる。
引き戸を閉めてすぐに資料探しに取り掛かった。そんなに広い教室ではないが、なんにせよものが多い。すぐにやらなければ昼休みも終わってしまう。
国語、社会、英語、数学。目に入る出版業者から発行された参考書やワークはどれも表紙をビニールコーティングされたものだ。中学校の部活でつくったものだから学校の設備で作れるもの、つまりコピー用紙に印刷したものをホッチキスかひもで綴じたものだろう。そういった冊子がおいてある方から見ていく。しかし、そもそも綴じられているものはほとんどなかった。それもゴールデンウィークの宿題用。研究部のものはおろか教材以外のものが見つからない。
やっぱり何もないのかな。俺は古いパソコンの近くに腰を下ろした。奥に厚みのある旧式のデスクトップパソコンだ。これが最近まで動いていたというのなら驚きだ。もっとも、こういった機器をどのくらいの頻度で買い替えるのかは知らないが……。俺はもう1回パソコンを見た。
印刷した紙がなくても、データが残っているかもしれない。そういえば、『ー震災に寄せてー 久葉中学校研究部』も研究部新聞もパソコンで書かれて印刷されたものだった。そういうことも視野に入れて探さなければならなかったのだ。
よく見ると、キーボードがおいてある奥には隙間がある。キーボードをどかしてみた。
そこには、透明なプラスチックケースがあった。中には赤、青、黄色、緑、白の正方形のプラスチックの板が10枚ほどと、黒いUSBが入っていた。
俺は思わずプラスチックケースを手に取った。ケースを開けて中身を見る。USBの方は特に変わった様子はない。一方、プラスチックの板の方にはラベルが貼ってある。何も書かれていないものもあれば『卒業式』などと書かれたものもある。一体これは何だろう。
外から鍵が開いたような音が聞こえると、ガラガラと戸が開く音がした。俺はとっさに身を隠した。引き戸が閉まる音がすると、多目的室をうろうろしているかのような足音が聞こえる。
「いったいどこに……」
「野島先生、どうしたんですか!」
俺は声が聞こえたので思わず人影に向かって叫んでしまった。確かにそこには野島先生がいた。野島先生は俺を見てぼーっと突っ立っていた。
「……先生?」
野島先生ははっと我に返ったように俺を見た。
「ここは、立ち入り禁止じゃないか? どうやって入ったんだ!」
「先生だって」
おそらく何も言い返せない。2人とも同じ穴のむじなだ。
「つまり、先生だったわけですね。鍵をすり替えたのは」
さっきまでだれもいなかった窓の方の物陰から声が聞こえる。そこにいた人物はすくっと立ち上がってこちらに向かってきた。そこにいたのは高瀬先輩だった。
「野島先生、あなたはこのディスクのことを知っていた。だからこれが誰にも見つからないように鍵をすり替えたんですね」
野島先生は「ほんの、出来心だったんだ」とつぶやいた。高瀬先輩は続けた。
「それでパスワードが書いてある紙を――」
「パスワード?」
高瀬先輩ははっと気づいた。
「野島先生、講義室の机を荒らしたのも――」
「違う! 私はフロッピーディスクが欲しかっただけだ!」
野島先生は俺の持つディスクを指さした。どうやらこれはフロッピーディスクというものらしい。
「それより高瀬先輩、これ何ですか? というかパスワードって何ですか!」
俺はプラスチックケースを持ち上げた。高瀬先輩はふうと息を吐いてこちらに近づいてきた。
「見つかってしまえば仕方ないね。元気君、机を荒らした人がわかってからそのディスクのことはすべて話す。俺はこれから職員室に行って野島先生のことを報告する。先生方を集めてくるから元気君はそれまでに野島先生に探りを入れてくれないか? おそらく机を荒らした犯人はそのディスクのデータにかかっているパスワードが書かれたメモを持っている」
小声で早口であったが、俺は内容を聞き漏らすまいと必死だった。ようやく謎が解ける。
高瀬先輩は「行きましょう」と野島先生の肩を押す。
絶対に何かある。そう職員室までの道で考えていたが、すぐについてしまった。
「だーかーらー、鍵をすり替えてはいないって」
田村先生の声が聞こえる。そこには見覚えのある3人。
「あれ、篤志、澄香、それに牧羽さんまで!」
3人はこちらを振り向いた。
「元気、どこへいたの?」澄香が聞く。
「それより3人はどうして……」
「あれ、冬樹先輩、その人は?」篤志が言う。
後ろにいた高瀬先輩は職員室を見回した。職員室には森永先生と川崎先生、増田教頭先生がいる。
「田村先生、これから身の潔白を証明します。そのために、佐川先生と檜室先生を呼んでください」
誰もが呆然としている中、高瀬先輩にせかされて田村先生は放送で佐川先生と檜室先生を呼び出した。
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