新入生への挑戦状 6
「他の特徴は?」
俺が聞くと、「おさげだった。他は分からないわ」と牧羽美緒は答えた。つまり、髪の毛を頭の後ろで2本に束ねた髪型。小高理子の方は知らないが、金田さんは同じ高浜小の出身でクラスも何度か同じだったからよく見ている。確か髪を縛っていなかった覚えがある。
「確か金田さんって特に髪を縛っていなかったよな?」と篤志に聞く。
「多分そうだった気がする。が、今はどうだろう」
俺は「え?」と思わず聞き返した。
「それってどのくらいの長さ?」と澄香が尋ねる。
「確か、肩につくくらい……」
「それ校則違反じゃない?」
牧羽美緒に指摘されてようやく俺は気付いた。中学校には校則がある。
「校則のせいで髪型が変化している可能性がある。小学生の時の記憶を辿っても当てにならない――」
久葉中の場合、制服着用はもちろんのこと、靴下は白地のみ、黒と紺のセーターまたはベストのみシャツやブラウスの上に着用可などの服装の規定がある。もっと厄介なのが髪型だ。男子の場合、前髪は眉にかからない、横は耳にかからない、後ろは襟にかからない程度、という規定になっている。
「澄香、女子の髪型はどうなっている?」
「ええっと、前髪は眉にかからない程度、他は肩につかない程度の長さにするか、黒や茶色のゴムやヘアピンで留めることになってる。
でも元気、校則を守るために髪型を変える人も多いと思うけれど、中学に入ってイメージチェンジしたいっていう理由で髪型を変える人も中にはいるよ。―—実は私もここは顎までになるように揃えたんだ」
澄香はうつむきながら顔の両脇の髪を少し持ち上げる。確かにその長さよりも長くなると校則違反かもしれない。
「ってことは2つ縛りは結構いるな」と篤志がため息をついた。
よく考えればA組にも2,3人は2つ縛りの女子がいた覚えがある。思えば澄香とわかったのも幼い頃からサイドテールという比較的珍しい髪型をしていることも1つの要因かもしれない。牧羽美緒の方は両脇の髪の毛をヘアピンで留めただけのショートカットである。久葉中の生徒には同じ髪型の女子生徒が何人もいるだろう。彼女を探せ、と言われても難しいかもしれない。
「——参ったな、出席番号も近い」
そばで考え込んでいた高瀬先輩もこうつぶやいた。席順が出席番号順で決められているこの状況で出席番号が近いとどちらとも答えられない。
調べる他の方法……。
高瀬先輩が他の6人の名前を黒板消しで消している。高瀬先輩がチョークで書いた文字はシャープペンシルで書いた時とさほど変わらない丁寧な文字である。俺は字が汚い方なのでよく父さんに訂正されたな、と思い返した。……字?
俺は1年D組の教室を飛び出して壁新聞を見る。ポケットには全員の『新入生の目標』が入れられている。もちろん全員手書きで書いている。
「どうした?」と追いかけてきた澄香に、俺は『新入生の目標』を指さしてこう言った。
「これだ! これを使えば持ち主がわかるんじゃないかな?」
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